知財論趣

チェック業務の品質と能率の向上

筆者:弁理士 深見 久郎

- サイン・デート・ルールとツー・ステップ・アプローチ -

(1) 最近出会したチェック業務のミスに次のような例がある。
国内出願指示書面の中で発明者指示欄に2名の発明者が別々の場所に記載されていたが、1名のみが願書に記載され、他の1名が見落とされ脱落した。ダブルチェック・トリプルチェックでも見落とされた。

(2) 国内出願指示書面に基づいて願書が作成されて行く過程のいずれのステップで複数発明者の1名の情報の記載が脱落し、いずれのステップでチェックの遺漏が起こるかを検証するため関係者からヒアリングを行なった。そのとき次の点について聞いた。
願書の作成・チェックの過程で【1】原稿発送時に発明者指示書面に基づいて願書原稿が担当秘書により作成・チェックされ、【2】願書原稿が他の秘書によりチェックされ、【3】出願時に担当秘書により再チェックされ、【4】他の秘書によりダブルチェックが行なわれ、【5】その後方式チェックが行なわれたとのことである。
このとき、【2】の願書原稿チェックのチェッカーの署名・日付が残されておらず、①の作成・チェック、【4】のダブルチェックが注意力散漫となり綿密に作成・チェックされていないことがわかった。

(3) そこで早速次の提案の実行をお願いした。
3-1.すべてのチェック業務についてチェッカーの署名・日付を残すことで、「誰が」「何時」チェックをしたかを明らかにし、チェックカーの責任感の昂揚を図る。(サイン・デート・ルール)

3-2.重要なチェック業務については、(a)最初は重要な指示項目にマーカーをつけながら指示項目に遺漏なきことを確認し(第1ステップ・項目ステップ)、次いで(b)マーカーのついた項目について内容に間違いがないかを確認する(第2ステップ・内容ステップ)(ツー・ステップ・アプローチ)。

(4) このようにチェック確認作業を項目チェック・確認と、内容チェック・確認に分けること(ツー・ステップ・アプローチ)で、各チェック・確認が容易となり品質が向上し、一般的に2つのステップに分けることによる時間はトータルでさほど増えるものではない。たとえ僅かに増えて僅かに能率が低下してもそれは品質向上との兼ね合いである。
4-1.明細書を最初、文意・趣旨に誤りがないかをチェック・確認するために読み(第1ステップ)、次いで誤字・脱字のチェック・確認のために読む(第2ステップ)。

4-2.海外代理人の書簡を、最初に重要項目、要請事項などをチェック・確認するために読み(第1ステップ)、次いで、具体的な情報、要請をチェック・確認するために読む(第2ステップ)。

サイン・デート・ルールとツー・ステップ・アプローチがチェック業務の品質と能率の向上に役立つことを期待したい。