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最先の出願日から長期間経過したため特許が発行したときにはその存続期間が既に満了してしまっているような特許出願について仮保護の権利の発生を認めなかったCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、最先の出願日から長期間経過したため特許が発行したときにはその存続期間が既に満了してしまっているような特許出願について仮保護の権利を求めた特許出願人の控訴を棄却しました。CAFCはその理由として、控訴人は仮保護の権利の請求を裏付けるために必要な排他的権利を有していないと指摘しました。

In re: Donald K. Forest, Case No. 23-1178 (Fed. Cir. Apr. 3, 2025) (Taranto, Schall, Chen, JJ.)

 

1.事件の経緯

(1)本件特許出願

 Donald K. Forest氏は2016年12月27日に特許出願(以下、「本件特許出願」)を米国特許商標庁(USPTO)に提出しました。本件特許出願は、最先の出願日である1995年3月27日にまで遡る一連の先行特許出願に基づく先の出願日の利益を主張するものでした。したがって、本件特許出願が仮に特許として発行したとしても、その存続期間は1995年3月27日の最先の出願日から20年後の2015年3月27日に満了していたことになります。すなわち、本件特許出願は、特許になった場合の存続期間の満了日の後に出願されたことになります。

(2)USPTOの対応

 このような事情にもかかわらず、USPTOの審査官は本件特許出願のクレームを審査し、自明性と非法定二重特許を理由として拒絶しました。Forest氏はこれを不服として審判を請求しましたが、USPTOの特許審判部(PTAB)は、審査官の拒絶理由を部分的に支持しました。Forest氏はPTABの決定を不服として、代理人を立てない本人訴訟としてCAFCに控訴しました。

 

2.CAFCの判断

(1)当事者の主張

 USPTOは、Forest氏の特許出願は、存続期間満了による特許の失効をもたらすだけのものであり、Forest氏は本件控訴において裁判権を確立するのに十分な個人的利害関係を有していないという、基本的な争点を提起しました。

 一方、Forest氏は、発行された特許が発行時に存続期間満了により失効していたとしても、米国特許法第154条(d)[i]に基づく「仮保護の権利」、すなわち特許発行前の一定の活動に対する限定的なロイヤルティを受ける権利は依然として取得できる、と主張しました。

(2)CAFCの見解

 CAFCは、Forest氏は特許の失効日の後でしか特許を付与されないため、排他的権利を決して得ることはできないと説明し、控訴を却下しました。CAFCは、仮保護の権利の発生と消滅に関して、仮保護の権利は特許が発行された後にのみ発生し、そして重要な点として、仮保護の権利は、法定の特許期間の満了とともに消滅することを明確にしました。Forest氏が発行を求めていた特許は、排他的権利か仮保護の権利かを問わず、執行可能な権利を付与しない特許であったため、CAFCは裁判権の欠如を理由に控訴を却下しました。

 CAFCの主な結論は、仮保護の権利は特許が執行可能な排他権を伴って発行される場合にのみ利用可能であること、つまり特許は満了日より前に発行されなければならないという原則に基づいていました。CAFCは、特許法第154条(d)に基づく仮保護の権利は、特許法の条文によって「規定される他の権利に加えて(In addition to other rights provided)」と明示的に規定されていることを強調しました。この法文は仮保護の権利が単独で付与されるものではないことを示しているため、CAFCは、仮保護の権利は有効かつ執行可能な特許の存在に依存すると判断しました。

 CAFCによれば、仮保護の権利の全体の目的は、特許出願の公開から特許の発行までの期間に特許権者に一時的な救済を提供することです。しかし、このような権利は、発行された特許が執行可能な権利をもたらしている場合にのみ発生します。CAFCは、仮保護の権利は早期の公開を奨励し、特許発行前の侵害から特許権者を保護することを意図しているものの、完全な特許保護の前段階に過ぎないと論じました。

 CAFCは、Forest氏による第154条(d)の解釈は、対応する執行可能な権利がないまま仮保護の権利が存続し、特許権者が侵害訴訟では決して主張できない特許使用料を徴収できるようになるという異常な状況を生み出すであろうと説明し、Forest氏による解釈を却下しました。

 

3.実務上の留意点

 本件は、代理人弁護士を立てない本人訴訟によるCAFCでの審決取消訴訟であり、通常はあまり起こらないケースとも考えられます。しかしながら、特許権の存続期間満了による特許の失効と、特許に伴う執行可能な権利(特に仮保護の権利)との関係を改めて確認した判決であって、米国特許法の理解のためには有益な判決といえます。具体的には、特許権は、法律で定められた20年の存続期間を超えて存続することはできませんので、特許権に伴う執行可能な権利(本来の排他的権利か仮保護の権利かを問わず)もまた20年の存続期間を超えて存続することはできません。最先の出願日から長期間経過した一連の先行出願に基づいてさらなる特許を求める出願人がいる場合、特許発行時に執行可能な権利が存続可能であることを確認しなければならず、さもなければ結果的に失効してしまっている特許を追求することになってしまうリスクがあります。

[情報元]

情報元①
McDermott Will & Emery IP Update | April 10, 2025 “A Patent Without a Pulse: Provisional Rights Don’t Outlive the Patent”
https://www.ipupdate.com/2025/04/a-patent-without-a-pulse-provisional-rights-dont-outlive-the-patent/?utm_source=Eloqua&utm_medium=email&utm_campaign=EM%20-%20IP%20Update%20-%202025-04-10%2014%3A00&utm_content=post_title

情報元②
In re: Donald K. Forest, Case No. 23-1178 (Fed. Cir. Apr. 3, 2025) (Taranto, Schall, Chen, JJ.)(判決原文)
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-1178.OPINION.4-3-2025_2493030.pdf

[担当]深見特許事務所 堀井 豊 


[i] 米国特許法154条(d)は以下のように規定しています:

35 U.S.C. 154   Contents and term of patent; provisional rights.
・・・・・・・・(中略)

(d) PROVISIONAL RIGHTS.—
(1) IN GENERAL.— In addition to other rights provided by this section, a patent shall include the right to obtain a reasonable royalty from any person who, during the period beginning on the date of publication of the application for such patent under section 122(b) , or in the case of an international application filed under the treaty defined in section 351(a) designating the United States under Article 21(2)(a) of such treaty, or an international design application filed under the treaty defined in section 381(a)(1) designating the United States under Article 5 of such treaty, the date of publication of the application, and ending on the date the patent is issued—
・・・・・・・・(以下、省略)