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ブレグジット後の欧州における知的財産権の消尽に関する英国政府の発表

 2021年の英国の欧州連合(European Union: EU)からの離脱(いわゆるブレグジット:Brexit)の発効直後に、英国知的財産庁(the UK Intellectual Property Office: UK IPO)は、欧州経済領域(the European Economic Area: EEA)[i]における知的財産権の消尽に関する暫定的な枠組みである「UK+制度(UK+regime)」を制定しました。UK IPOはこの度、利害関係者との協議を終え、この制度を恒久化する、と発表しました。

 

1.背景事情

 知的財産権は、知的財産権者またはそのライセンシーが欧州連合(European Union: EU)域内のどこかで商品を商業的に流通させた場合、EU全体で消尽します。ブレグジット後、英国は第三国となりましたが、このことは、商品が英国市場に投入されその後EEAに輸出された場合に消尽は発生せず、同様に、商品がEU市場に投入されその後英国に輸出された場合にも消尽は発生しないことを意味します。

 英国は後者の問題に対処するため、「UK+制度」を一方的に導入しましたが、これは当初は暫定的な解決策として計画されていたものでした。「UK+制度」は、英国の観点から、製品がEU市場に投入され、その後英国で再販売されたときには、知的財産権が消尽したとみなされることを確実にしました。製品が一旦EEA内で合法的に販売されると、知的財産権者は、知的財産権を理由に英国での再販売を阻止できなくなります。したがって、関連製品は英国に並行輸入され続ける可能性があり、英国企業は知的財産権者の許可を得ることなく、EUのサプライヤーから製品を購入し、英国で再販売し続けることができるため、消費者は引き続き製品にアクセスできるようになりました。

 

2.英国政府の発表内容

 英国政府(UK IPO)は2025年5月15日付けのプレスリリースにおいて、暫定的な解決策であった「UK+制度」を恒久化すると発表しました(詳細な内容については情報元②を参照)。プレスリリースの発表内容を抜粋して以下に示します。

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 今回の発表における主たる進展事項は以下の2点です:

 立法上の改正が行われなかったため、企業は新たな要件なしに、既存の知的財産権消尽制度の下で事業を継続できます

 ・UK+制度」は、クリエイターやイノベーターを保護するとともに、市場における公正な競争と英国消費者の選択肢の拡大を確保し、経済を成長させ、政府の変革計画を支援します

 英国政府は、「UK+制度」として知られる英国の現行の知的財産権消尽制度を維持すると確認しており、英国企業は新たな煩雑な手続きを回避し、消費者は引き続き欧州全域からの商品の選択という恩恵を受けることができます。

 今回の発表は、利害関係者との広範な協議の結果であり、英国は引き続きEEA全域から正規品を購入し、追加の許可なしに英国内で再販売できることを意味します。

 バランスの取れた、イノベーションに配慮した知的財産権の枠組みは、政府の変革計画の実現を支えるものです。この枠組みによって、安定した競争市場を促進し、消費者が幅広い製品や商品から引き続き恩恵を受けられるようにします。

 英国の消尽制度は並行輸入法を規定しており、これは再販売のために英国に輸入される前に他国で合法的に販売された真正品の輸入について定めるものです。並行輸入は、医薬品から自動車部品、日用消費財まで、多くの分野で行われており、いずれも英国経済の成長にとって重要な分野です。

 一般的に言えば、本日の決定は、知的財産権で保護された製品(例えば、ビスケット、書籍、化粧品など)が英国またはEEAで合法的に販売された場合、知的財産権者はその後、英国での再販売を阻止できないことを意味します。すなわち、企業はEEAのサプライヤーから真正品を購入し、それらの商品を知的財産権者の許可を得ることなく英国で販売することができ、消費者はこれらの製品に引き続き容易にアクセスできるようになります。

 今回の決定は、この分野における法律を明確化し、これらの市場で並行取引を行う英国企業に確実性と安定性を提供するとともに、市場における競争と知的財産保護製品への公正なアクセスを確保するものです。世界をリードする我々の知的財産制度に関わるすべての人に長期的な確実性を提供することで、「UK+制度」はイノベーションと創造性を奨励し、経済成長の実現に貢献します。

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 以上のように今回の英国政府の発表により、「UK+制度」が恒久化されました。EU側の観点から見ると、英国は依然として第三国であるため、関連製品が英国で販売され、その後EEAに輸出されたとしても、EEA内で知的財産権が消尽することはありません。したがって、知的財産権者は、たとえ製品が英国で知的財産権者自身またはそのライセンシーによって最初に販売されたとしても、知的財産権およびその消尽の不存在を理由に、EEA加盟国における製品の再販売を引き続き阻止することができます。一方英国側の観点から見ると、商品がEEAで合法的に販売され、その後英国に輸出された場合は、消尽が発生します。このように、現在、欧州には非対称的な消尽制度が存続していることに留意する必要があります。

 

[情報元]

1.McDermott Will & Emery IP Update | May 29, 2025  “News From Across the Pond: UK+ Regime Now Permanent”
https://www.ipupdate.com/2025/05/news-from-across-the-pond-uk-regime-now-permanent/?utm_source=Eloqua&utm_medium=email&utm_campaign=EM%20-%20IP%20Update%20-%202025-05-29%2014%3A00&utm_content=post_title

2.Press release “Certainty for businesses and choice for consumers as UK maintains IP rights regime”(2025年5月15日付け英国政府プレスリリース)
https://www.gov.uk/government/news/certainty-for-businesses-and-choice-for-consumers-as-uk-maintains-ip-rights-regime

[担当]深見特許事務所 堀井 豊  


[i] EUにノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインを加えた共同の市場