韓国特許庁が「知識財産処」に昇格
2025年10月1日、政府組織法改正案の施行により、韓国特許庁(KIPO)は国務総理室所属の「知識財産処(Ministry of Intellectual Property:MOIP)」へと昇格しました。知識財産処は、韓国政府全体の知的財産政策を統括・調整する国家の知的財産政策コントロールタワーとしての役割を担うことになります。
この昇格は、AIをはじめとする先端技術分野のグローバル競争が激化する中、韓国の知的財産の創出・活用・保護・紛争対応を一体的に強化することを目的としたものです。
1.昇格の背景と狙い
(1)知財政策の分散による課題の解消
従来、韓国の知的財産政策は複数の省庁に分散しており、
・産業通商資源部:特許・商標・デザインの審査等
・科学技術情報通信部:R&D関連の知財政策
・文化体育観光部:著作権行政
といった形で役割が分担されていました。このため、国内外での知財紛争対応や、知財創出・活用を総合的に推進するには限界があると指摘されていました。
今回の昇格に伴う組織強化により、知識財産処が将来的にこれらの分散している知財政策を総括し、知財戦略の一元化と政府間調整の強化を実現することが期待されています。
(2)国家競争力強化のための戦略的措置
AI・半導体などの先端産業で競争が激しさを増す中、韓国としては技術力と知的財産権をより強力に保護し、活用を加速する必要があります。知識財産処への格上げは、この国家戦略の中核を担うものとされています。
3.組織再編の内容
今回の発足に合わせて、知識財産処の中核機能を強化するため、以下のような大規模な組織改編が実施されました。
(1)組織規模の拡大
組織構成が、改編前の1官9局1団57課(総員1,785名)に対して、1官10局1団62課(総員1,800名)に改編され、規模拡大により、知財政策の企画・調整機能が強化されています。
(2)「知識財産紛争対応局」の新設
最も注目される改編が、知識財産紛争対応局の新設です。従来は課レベル(産業財産紛争対応課)に留まっていた機能を局へ格上げしたことで、国際的な特許訴訟への戦略的対応、国家レベルでの迅速な紛争処理、官庁間の連携強化が可能になり、国際特許紛争が増加する中で、国家的な対応力を高める狙いが明確になりました。
(3)知財創出・活用・取引支援組織の整備
上記のような組織改編により、知識財産の創出・活用、取引を担当する組織が強化され、これにより、R&Dによる知財創出から取引・事業化、さらに再投資へとつながる「知識財産好循環エコシステム」の構築が目指されています。
(4)「産業財産」から「知識財産」への名称変更
知財政策の範囲が産業財産に限られず広がることを反映し、知的財産権の政策及び創出·活用等を担当している「産業財産政策局」の名称を「知識財産政策局」に変更されました。
4.今後の課題
下記「情報元2」の指摘によれば、今回の昇格は第1段階と評価されており、名称と組織の地位向上は達成したものの、著作権行政(文化体育観光部の管轄)は依然として統合されていません。将来的には、特許・商標・デザイン・著作権といったすべての知的財産を統合管理する機関を目指すものの、これは中長期的な課題として残されています。
[情報元]
1.HA&HA特許&技術レポート2025-11「韓国の知的財産政策のコントロールタワー「知識財産処」発足」
https://www.siks.jp/wp-content/uploads/2025/11/info440.pdf
2.Lee InternationalニュースレターAutumn 2025「特許庁、知識財産処に昇格」
https://www.leeinternational.com/home/bbs/board.php?bo_table=Newsletter2025_AUT&wr_id=11
3.KIM & CHANG IP Newsletter | 2025 Issue4 | Japanese「特許庁、『知識財産処』に昇格」
https://www.ip.kimchang.com/jp/insights/detail.kc?sch_section=4&idx=33347
担当 深見特許事務所 野田 久登

