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争点となっているクレームの文言は明白な誤記であると認定し司法訂正を認めたCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、争点となっているクレームの文言は明白な誤記であると認定し、その結果、特許クレームを不明確性を理由に無効とした連邦地方裁判所の判決を覆しました。

Canatex Completion Solutions, Inc. v. Wellmatics, LLC, et al., Case No. 24-1466 (Fed. Cir. Nov. 12, 2025) (Moore, Prost, Taranto, JJ.)

 

1.事件の経緯

 Canatex Completion Solutions, Inc.(以下、「Canatex社」)は、「ダウンホールツールストリング用の解放可能な接続部(Releasable Connection for a Downhole Tool String)」と題した米国特許第10,794,122号(以下、「本件特許」)を所有しています。

 Canatex社は本件特許を侵害したとして、Wellmatics, LLC、およびGR Energy傘下の複数企業をテキサス州南部地区連邦地方裁判所(以下、「地裁」)に提訴しました(以下、提訴された企業を「被告企業」と総称)。

 被告企業はこれに対し、本件特許の主張されたクレームは不明確であり無効であると主張し、地裁はこの主張に同意しました。Canatex社は地裁のこの判断に異議を唱え、CAFCに控訴しました。

 

2.本件特許の内容

 本件特許は、油井およびガス井などの掘削構内で測定器や工具を地中に降ろしたり地中の生産物を地上に送るために使用される2部構成のツールストリング装置に関するもので、当該装置のオペレーターが2部構成の装置の下部を掘削孔内に残すことを意図した場合(例えば、装置の下部が抜け出せなくなった場合など)、オペレーターは装置の上部と下部を切断し、下部を坑井内に残したまま、上部を地表に向かって引っ張ることができるように構成されています。これにより作業員は、下部が万が一抜け出せなくなった場合でも装置の上部を外して回収することができ、下部は坑井内に残したまま作業を継続することが可能となります。

 本件訴訟においては、すべての独立クレーム1、7および13の記載の不明確さが争点となりましたが、ここでは代表例としてクレーム1の原文およびその弊所仮訳を以下に示します(文中の太字、斜体、下線は判決原文の通り)。

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  1. A releasable connection for a downhole tool string, comprising

[a] a first part comprising an external connection profile; and

[b] a second part comprising:

[i] an outer housing;

[ii] a releasable engagement profile which internally engages the connection profile of the first part and which is configured to expand radially to release the connection profile of the first part;

[iii] a locking piston positioned within an internal cavity of the second part, the locking piston configured to move axially along the second part between a locking position that directly constrains the releasable engagement profile into engagement with the connection profile of the first part and a release position that permits the releasable engagement profile to expand radially to release the connection profile of the second part;

[iv] an expansion chamber in fluid communication with the locking piston; and

[v] a source of fluid pressure in communication with the expansion chamber, wherein, upon activation, the source of fluid pressure is configured to apply fluid pressure to move the locking piston from the locking position toward the release position.

(日本語仮訳)

  1. ダウンホールツールストリング用の解放可能な接続部であって、

[a] 外部接続プロファイルを含む第1の部分と

[b] 第2の部分とを備え、前記第2の部分は

[i] 外側ハウジングと、

[ii] 前記第1の部分の前記接続プロファイルに内部的に係合し、かつ径方向に拡張して前記第1の部分の前記接続プロファイルを解放するように構成された解放可能な係合プロファイルと

[iii] 前記第2の部分の内部空洞内に配置されたロッキングピストンとを含み、前記ロッキングピストンは、前記解放可能な係合プロファイルを前記第1の部分の前記接続プロファイルに直接係合させるロッキング位置と、前記解放可能な係合プロファイルが径方向に拡張して前記第2の部分の前記接続プロファイルを解放することを可能にする解放位置との間で、前記第2の部分に沿って軸方向に移動するように構成され

[iv] 前記ロッキングピストンと流体連通する拡張チャンバーと、

[v] 前記拡張チャンバーと連通する流体圧力源とをさらに含み、作動時に、前記流体圧力源は流体圧力を印加して、前記ロッキングピストンを前記ロッキング位置から前記解放位置に向けて移動させるように構成されている。

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3.地裁での審理と判断

(1)被告企業の主張

 地裁でのクレーム解釈において被告企業は、上記のクレーム1の[b][iii]の節において下線で示した“the connection profile of the second part”(前記第2の部分の前記接続プロファイル)という文言が“the”で始まっており、クレームのそれ以前の部分に前置語が必要であるにもかかわらずそれが欠如しているため、Canatex社によって主張されたすべてのクレームは不明確である、と主張しました。具体的には、クレーム1は、[a]の節において“a first part comprising an external connection profile”(外部接続プロファイルを含む第1の部分)という文言を含んでいますが、後の方で[b][iii]の節において“the connection profile of the second part”が言及されるまでは“the connection profile of the second part”については何ら言及していません。

 このような被告企業による地裁でのクレーム解釈の申立よりも以前には、このクレーム文言の意味の不確実性またはその潜在的な不明確性について当事者(または審査官)が言及した箇所は指摘されていませんでした。

(2)Canatex社の主張

 これに対し、Canatex社は、必要な前置語が欠如していることには同意しましたが、文言上の問題、すなわち明らかな訂正が可能な明らかな誤りには簡単な解決策があると主張しました。Canatex社は、当業者であれば、当該クレームが、第1の部分の接続プロファイル、すなわち当該クレームで先に言及されている唯一の接続プロファイルでありかつ特許全体から合理的に存在すると理解される唯一の接続プロファイルである第1の部分の接続プロファイルに言及していると直ちに理解するであろうから、「誤りの性質とその訂正は極めて明白である」と主張しました。Canatex社は、非常に限定された状況においてクレームの文言上の誤りを訂正するように裁判所がクレームを解釈することを認める判例を根拠に、特許クレームの「第2の部分の接続プロファイル」への言及は、「第1の部分の接続プロファイル」を意味するものと解釈すべきである、と主張しました。[i]

(3)地裁の判断

 地裁は、問題となっているクレームの文言には前置語が必要であるにもかかわらずそれが欠如しているので、すべての主張されたクレームは不明確であるため無効であると判断しました。地裁は、クレームに「明らかな誤記」が含まれているというCanatex社の主張に同意せず、この誤りは特許の文面からは明らかではなく、クレームの訂正はCanatex社が主張するほど単純ではない、と結論付けました。

 地裁は、クレームと明細書の両方において「誤りが広範に存在すること(pervasiveness of the error)」は、当該誤りが「意図的なドラフトの際の選択であり、全く誤りではない」ことを示唆すると判断しました。地裁は、特許の起草者が「第2の部分の接続プロファイルの前置語を提供する意図を持っていたため、“a”の代わりに“the”を使用したという誤りを生じさせた可能性がある、と示唆しました。さらに地裁は、米国特許商標庁(USPTO)が特定の誤記、印刷上の誤り、および軽微な誤りを訂正することを明示的に認めている米国特許法第255条[ii]に基づき、Canatex社がUSPTOに訂正を求めなかったことは、誤りが軽微ではなく特許の文面からも明らかではないことを示唆していると付け加えました。これらの理由から、地裁は、Canatex社が提案した訂正を行うようにクレームを解釈する権限を有していないと結論付けました。

 

4.CAFCの判断

 CAFCは、地裁の判断を覆しました。CAFCは判決において、「特許クレームに明白な誤記があり、かつその訂正内容について合理的な疑いの余地がない場合、裁判所はクレーム解釈の過程においてその誤りを司法訂正(judicial correction)[iii]できる」とし、本件特許の誤記は明白であり、当業者であれば「第2の」を「第1の」に変更することのみを合理的な訂正として認識する、と判断しました。CAFC判決の主なポイントは以下の通りです。

 地裁は、問題の誤記がクレームだけでなく明細書や要約書にも複数回出現することから、単なる誤記ではなく「意図的な起草上の選択」である可能性があるとし、明確性欠如により特許を無効と判断しました。しかしながらCAFCは、以下の非常に厳しい基準(demanding standard)を満たす場合には、裁判所がクレームの文言を訂正できるという法理を再確認しました。司法訂正の要件は以下のとおりです。

(1)誤りが特許の文面から見て、当業者にとって「明白(evident/obvious)」であること。

(2)訂正内容が、クレームの文言および明細書に照らして「合理的な議論の余地がない(not subject to reasonable debate)」こと。

(3)審査経過(prosecution history)が、別の解釈を示唆していないこと。

 CAFCは、地裁とは異なり、以下の理由によって本件特許はこの基準を満たすと結論付けました。

 ・明白な誤りについて:「第2の部分」の接続プロファイルを解放するという記述は、クレーム全体の構造や機能的な説明(第1の部分と第2の部分とが係合し、解放される仕組み)から見て、当業者には明らかに「第1の部分」の誤記であることが理解される。

 ・唯一の合理的な訂正について:図面や明細書の説明(例:図中の番号16が「第1の部分」の接続プロファイルであることを明示している箇所など)を考慮すると、「第2」を「第1」と読み替えること以外に合理的な訂正案は存在しない。

 これらの分析の結果、CAFCは、本クレームは無効ではなく、「第2(second)」を「第1(first)」と読み替えて維持されるべきであると判断し、地裁に差し戻しました。

 

5.留意事項

(1)クレームにおいて「前置語(Antecedent Basis)」を徹底的に確認すること

 本件特許は、独立クレームにおいて「前記第2の部分の前記接続プロファイル(the connection profile of the second part)」という用語が使われましたが、当該独立クレーム中でそれに先行して「第2の部分の接続プロファイル」という用語が導入されていなかったことが問題となりました。したがいまして、クレーム内で定冠詞“the”を用いる際は、必ずそれ以前に不定冠詞“a/an”を用いてその要素を導入しておくという原則を厳守する必要があります。

(2)クレーム、明細書、要約書の間での用語の整合性に留意すること

 本件特許において、誤記はクレームだけでなく、要約書で1回、明細書2回、同様に発生していました。地裁はこの「誤記の広がり(pervasiveness of the error)」を理由に、これは単純なミスではなく、出願書類をドラフトした者の「意図的な選択」ではないかと疑いました。このように誤記が複数箇所に存在すると、それ自体が「意図的な用語選択」であるとの疑念を招きかねません。仮に一部の記載が正しくても、他の箇所で誤記が繰り返されると、法的リスクが増大する点に注意が必要です。

(3)「司法による訂正」に過度に依存しないこと

 CAFCは最終的に「第2」を「第1」と読み替える司法訂正を認めましたが、その基準は非常に厳しいものです。訂正が認められるのは、前述のCAFC判決紹介判決において(1)~(3)で示す条件を満たす場合に限られます。

 地裁はこの基準を満たさないと判断して本件特許を無効としたため、控訴審のCAFCで逆転するまで多大なコストと時間を要しました。したがいまして、裁判所が訂正してくれることを期待するのではなく、出願段階で誤記を排除することが重要です。

(4)特許特許商標庁(USPTO)による訂正制度を早期に活用すること

 本件の出願人は、地裁で敗訴した後に米国特許法第255条に基づきUSPTOに訂正証明書(Certificate of Correction)を求めましたが、「クレームの範囲を変更しようとしている」として拒絶されました。誤記に気づいた場合は、訴訟になる前や、問題が顕在化する前の早い段階でUSPTOの訂正手続きを利用することを検討すべきです。ただし、USPTOは範囲変更を伴う訂正には厳しいという点にも注意が必要です。

[i] Ultimax Cement Manufacturing Corp. v. CTS Cement Manufacturing Corp., 587 F.3d 1339, 1353 (Fed. Cir. 2009)

[ii] 米国特許法第255条(出願人の錯誤に関する訂正証明書)は、USPTOが特許発効後に「出願人側の誤り」を訂正証明書の発行により訂正する行政ルートの手続きを定めるものであり、以下のように規定しています(日本国特許庁公式訳)

「事務的若しくは印刷上の錯誤又は軽微な錯誤であって,USPTOの過失でないものが特許証に表示されており,当該錯誤が善意で生じたことが証明された場合は,長官は,所要の手数料の納付があったとき,訂正証明書を発行することができる。ただし,訂正が新規事項を構成するか又は再審査を必要とするような,特許に関する変更を生じさせないことを条件とする。当該証明書が添付されているすべての特許は,その後に生じた原因による訴訟の審理においは,その特許が初めから訂正された形で発行されていた場合と同一の法律上の効力及び作用を有するものとする。」

 

[iii] 米国特許法第255条が特許発効後に「出願人側の誤り」を訂正証明書の発行により訂正するUSPTOによる行政ルートの手続きであるのに対して、「司法訂正」は、訴訟の場の特許クレーム解釈において裁判所が、当業者が理解するはずの一意の意味に確定する司法ルートの手続きであり、「司法訂正」自体を明示的に規定する根拠条文は米国特許法には存在せず、連邦最高裁およびCAFCの判例の積み重ねに基づく裁判所の解釈権限によるものです。

[担当]深見特許事務所 堀井 豊

[情報元]

1.McDermott Will & Emery IP Update | November 20, 2025 “Well, well, well: Indefinite claims turn out to be a typo”

https://www.ipupdate.com/2025/11/well-well-well-indefinite-claims-turn-out-to-be-a-typo/

2.Canatex Completion Solutions, Inc. v. Wellmatics, LLC, et al., Case No. 24-1466 (Fed. Cir. Nov. 12, 2025) (Moore, Prost, Taranto, JJ.)(判決原文)

https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1466.OPINION.11-12-2025_2602112.pdf