IPR禁反言は進行中の査定系再審査には適用されない旨を示したCAFC判決
米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、当事者系レビュー(IPR)の禁反言(estoppel)が同一特許について進行中の査定系再審査(ex parte reexamination)には適用されないこと、および期限切れの特許に対しても特許審判部(PTAB)が管轄権を保持できること、を認定し、当該査定系審査に関するPTABの決定を支持しました。
In re Gesture Tech. Partners, LLC, Case No. 25-1075 (Fed. Cir. Dec. 1, 2025) (Lourie,Bryson, Chen, JJ.)
1.事件の経緯
・対象特許は、Gesture Technology Partners, LLC(以下、Gesture社)が保有する米国特許第7,933,431号(’431特許)です。この特許は、携帯端末やゲーム機、車載システムなどで、カメラとコンピュータを用いて物体や人間の入力を迅速に検知する技術に関するものです。
・米国特許商標庁(USPTO)における経緯を説明します。
(1) Samsung Electronics Co.(以下、Samsung社)が’431特許の査定系再審査を請求し、PTABが審査を開始しました。
(2) 査定系再審査の進行中に、Samsung社をメンバーに含むUnified Patents LLC(以下、Unified Patents社)が’431特許に対して2つのIPRを申し立てました。
(3) 査定系審査が係属している段階でIPRの最終書面決定が出され、’431特許のクレーム11と13を除くクレームが無効とされました。
(4) Gesture社は、IPRの結果を受けて、米国特許法第315条(e)(1)の禁反言に基づき査定系再審査を終了させるよう求めましたが、USPTOとPTABはこれを拒絶しました。
(5) 最終的に、IPRで取り消されなかった残る2つのクレーム(11および13)も、査定系再審査において先行技術(米国特許第5,982,853号、以下Liebermann特許)に基づき新規性欠如(anticipated)として拒絶されました。
・Gesture社はこのような査定系再審査の決定に対してCAFCに控訴しました。
2.CAFCの判断
CAFCは、以下の3点について判断を示しました。
- IPR禁反言の適用範囲(米国特許法第315条(e)(1))[i]について
Gesture社は、IPRの申請者が特許庁での手続を「維持(maintain)」することを禁じている第315条(e)(1)に基づき、再審査も停止されるべきだと主張しました。その理由は、’431特許にIPRを請願しているUnified Patents社の請願人メンバーであるSamusung社は、同一特許について査定系再審査が争われているUSPTOにおいて、IPRにおける最終書面決定が出された後に「手続を維持」できないためであると主張しました。CAFCはこれに同意しませんでした。
第315条(e)(1)は、IPRの申立人またはその利害関係者が、最終決定後に特許庁における手続を「申し立てる(request)」または「維持する(maintain)」ことを禁じています。CAFCは、査定系再審査において、申立人は再審査を「申し立てる」ことはあっても、その手続を「維持」しているのはUSPTOであると判断しました。また、CAFCは、関連する法律(米国特許法第305条)や規則、および過去の判例(Alarm.com Inc. v. Hirshfeld)を引用し、再審査手続が開始された後は、申立人がその手続に関与する余地はほとんどないことを指摘しました。このように、CAFCは、査定系再審査を「維持」するのは申請者ではなくUSPTO自身であると解釈し、申立人に対する禁止規定である米国特許法第315条(e)(1)は、特許庁が進行させている査定系再審査手続を停止させる根拠にはならないと、結論付けました。
- 期限切れ特許に対する管轄権について
Gesture社は、’431特許の有効期間が終了しているためPTABには判断を下す管轄権がないと主張しました。
しかし、CAFCはこれを退け、特許権者は期限切れ後も過去の損害賠償を求めて提訴する権利を保持しているため、再審査によって解決すべき「生きた係争(live case or controversy)」が存在し続けると判断しました。
- 先行技術(Liebermann特許)による新規性欠如について
CAFCは、聴覚障害者向けの電子通信システムに関するLiebermann特許が、’431特許のクレーム11および13の新規性を阻害しているというPTABの判断を支持しました。
Liebermann特許には、画像を処理して送信機能に関連付ける仕組みが開示されており、これが’431特許のクレーム11(情報を送信する手段)と13(携帯電話)の限定事項を満たしているという実質的な証拠があるとしました。
3.考察
この判決により、査定系再審査は、IPRが終了した後であってもUSPTOにおいて特許の有効性を争うための強力な手段として残ることが明確になりました。IPR禁反言の適用を受けずに再審査が継続できるため、特許権者への対抗手段として、複数の手続を組み合わせる戦略が有効であると言えます。
[i] 第315条(e)(1)は以下のように規定しています(以下、日本国特許庁の公式訳による)
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(e) 禁反言
(1) 庁における手続
第318条(a)に基づく最終決定書に帰着する,本章に基づく,特許クレームについての当事者系再審査の請願人又はその真の利益当事者若しくは請願人の利害関係人は,請願人が前記の当事者系再審査中に提起した又は合理的に見て提起することができたと思われる理由に基づいて,そのクレームに関し,庁における手続を請求又は維持することはできない。
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[担当]深見特許事務所 栗山 祐忠
[情報元]
1.In re Gesture Tech. Partners, LLC.事件判決原文
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/25-1075.OPINION.12-1-2025_2611111.pdf
2.McDermott Will & Emery IP Update | December 11, 2025 “IPR estoppel doesn’t extend to ongoing ex parte reexamination”
https://www.ipupdate.com/2025/12/ipr-estoppel-doesnt-extend-to-ongoing-ex-parte-reexamination/

