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並行する異なるフォーラムにおいて請願人が一貫性に欠けるクレーム解釈を行なったと判断し、当事者系レビュー手続き開始の決定を取消した、USPTO長官の決定

 米国特許商標庁(USPTO)長官は、当事者系レビュー(IPR)請願人が十分な正当理由なく、異なるフォーラム、すなわち特許審判部(PTAB)の審理および並行する連邦地方裁判所(以下「地裁」)の訴訟において一貫性に欠けるクレーム解釈を行なったと判断し、PTABによるIPR手続き開始の決定を取り消しました。

Tesla, Inc. v. Intellectual Ventures II LLC, IPR2025-00340 (PTAB Nov. 5, 2025) (Stewart, USPTO Dir.)

 

1.事案の背景

(1)当事者系レビューにおけるクレーム解釈と、その一貫性の重要性

 米国の知的財産分野における当事者系レビュー(IPR)は、特許の有効性を迅速に見直すための重要な制度です。IPRは第三者の請願に基づいて特定のクレームの有効性を検討するものであり、クレームの解釈(claim construction)はその核心となります。2018年の米国特許規則改正以降、PTABは訴訟手続と同等の解釈基準を適用し、一貫性と予見可能性を高めることを意図しています。つまり、異なる裁判所や機関で異なるクレーム解釈を採用することは本来は望ましくない行為とされていますが、一方で、異なる立場からの主張が全く許されないわけではありません。むしろ、異なるクレーム解釈を主張する場合の正当な理由付け(justification)が問題となります。

(2)本事案における、IPR請願人による並行する異なる主張

 本事案は、Tesla, Inc.(以下「Tesla社」)がIntellectual Ventures II LLC(以下「Intellectual Ventures社」)が所有する米国特許(US6,894,639、以下「本件対象特許」)に対してIPRを請願した際に、本件対象特許の同一のクレーム用語に対して、同時係属している連邦地方裁判所での訴訟とは異なる主張を行ったこと、すなわち並行する2つの異なるフォーラムにおいて、以下のような一貫性に欠ける主張を行なったことから生じています。

 本件対象特許のクレーム1は、次の通りです(Tesla社が不明確であると主張した箇所を、原文および試訳において太字で示しています。)。

  1. A method for distinguishing targets from background clutter, comprising the steps of

              (a) inputting data;

              (b) calculating data statistics from said data and using said data statistics to select target specific feature information to distinguish specific targets from background clutter;

              (c) generating said target feature information from said data statistics;

              (d) extracting said target specific feature information from said data;

              (e) using said target specific feature information to distinguish specific targets from background clutter; and

              (f) outputting target and background clutter information.

 上記クレーム1の試訳を以下の『』内に示します。

              『1. ターゲットを背景クラッター[i]から識別する方法であって、以下のステップを備える。

              (a) データを入力するステップ、

              (b) 前記データからデータ統計値[ii]を計算し、前記データ統計値を用いてターゲット固有の特徴情報を選択し、特定のターゲットを背景クラッターから識別するステップ、

              (c) 前記データ統計値から前記ターゲット固有の特徴情報を生成するステップ

              (d) 前記データから前記ターゲット固有の特徴情報を抽出するステップ、

            (e) 前記ターゲット固有の特徴情報を用いて、特定のターゲットを背景クラッターから識別するステップ、および、

              (f) ターゲット情報および背景クラッター情報を出力するステップ。』

 i)連邦地方裁判所での主張

 Tesla社は地裁訴訟において、本件対象特許の上記独立クレーム1に含まれる「generating said target feature information from said data statistics(前記データ統計値から前記ターゲット固有の特徴情報を生成するステップ)」というクレームの文言について、特許発明の技術分野の当業者がその特許発明の保護範囲を合理的に理解できないため、不明確(indefinite)であり無効であると主張しました。

 iiIPR請願における主張

 一方、その後に請願した本件対象特許に関するIPRにおいてTesla社は、同じクレーム用語について、特別なクレーム解釈は不要であり、平易かつ通常の意味(plain and ordinary meaning)で解釈されるべきだと主張しました。IPRではさらに、Tesla社は、地裁訴訟での主張との一貫性欠如の理由として、「IPRでは記載が不明確であることを理由とした無効主張を行なうこと自体が法的に認められていない」という制度的制約を主張しました。

 (iiiPTABによるIPR手続開始の決定

 上記IPR請願についてPTABは、IPR手続開始を決定しました。

(3)特許権者による長官レビューの請求

 本件対象特許の特許権者であるIntellectual Ventures社shuuseiban は、上記IPR手続開始の決定について、長官レビュー[iii]を請求しました。

 この長官レビューの請求においてIntellectual Ventures社は、過去の長官レビューの決定であるCambridge Mobile Telematics, Inc. v. Sfara, Inc., IPR2024-00952[iv]を引用して、Tesla社がPTABおよび地裁において、上述のように一貫性のないクレーム解釈の立場を採った理由について十分に説明できなかったため、本件におけるPTABのIPR手続開始の決定は覆されるべきであると主張しました。

 長官レビューにおいては、IPR請願人が地裁訴訟とIPRとで一貫性のないクレーム解釈行なった場合に、IPR手続を開始すべきかどうかが争点となりました。

(4)Tesla社の反論

 Tesla社は、「IPRで不明確性を特許無効理由として申し立てることを法的に禁じられているため、PTABと地裁とで異なるクレーム解釈を主張したことが正当化される」という説明を行なうことにより、PTABの規則(37C.F.R.)§ 42.104(b)(3)[v]を遵守したと反論しました。地裁において、Tesla社は、Intellectual Ventures社の平易かつ通常の意味の解釈に反論し、クレーム1の「生成するステップ」(ステップ(c))の限定が不明確であると主張しました。しかしながら長官レビューにおける反論では対照的に、Tesla社は、「いかなるクレーム用語も明細書で明示的な解釈を示すことを必要としない」と主張し、PTABに「クレーム用語をその明白かつ通常の意味に従って解釈する」よう求めました。

 

. USPTO長官の判断

 長官レビューの決定においてUSPTO長官は、PTABによるIPR審理開始の決定を取り消しました。その判断の理由は以下の通りです:

(1)規則42.104(b)(3)の要求と説明義務

 PTABの規則42.104(b)(3)(文末注釈5参照)は、IPRの請願において「どのようにクレームを解釈すべきか(how to construe claims)」を示す必要があることを求めています。このルール自体は、単に解釈を提示するだけでなく、異なる主張を行なう場合の正当な理由付けの説明を暗に要求するものと捉えられた点が長官の判断の基礎となりました。

(2)一貫性のない主張に対する説明が不十分であること

 長官は、Tesla社の「IPRでは不明確性を理由とする特許無効の主張ができない」という制度上の理由だけでは、一貫性のない主張を正当化する根拠として不十分であり、制度上の制約理由が直ちに「異なる無効理由の主張が許される理由」にはならないと判断しました。この判断は、単に形式的な禁止規定の存在自体が、一貫性のない主張を許す理由にはならないという見解に基づいています。

(3)説明可能な正当化例の指摘

 長官は決定文の中で、もしIPR請願者が、例えば、「ある用語が不明確ではあるものの、その意味する技術的範囲は当業者にとって理解可能であり、無効主張の根拠となる先行技術がその範囲を開示することが説明できるような場合」であれば、異なるクレーム解釈を主張することに合理性があったかもしれない、と示唆しています。これは、単に禁止するだけではなく、合理的な説明付けがなされ得る余地を認めたものと解釈できます。

 

3.長官レビューの決定の実務上の意義

(1)決定の意義

 本件長官レビュー決定は、IPRにおけるクレーム解釈の主張について、「異なる主張を行なうこと自体」ではなく、「その違いが合理的に説明されているかどうか」を重視する姿勢を明確にした点に意義があります。

 この決定により、IPRにおいて請願人が他のフォーラムにおいてとは異なるクレーム解釈を主張する場合には、単に制度上の制約を指摘するだけでなく、なぜ当該用語を一定の意味内容で理解することが合理的なのか、またその前提の下で先行技術がどのように該当するのかについて、具体的な説明を行なう必要があることが明らかになりました。

(2)実務への示唆

 実務上、本決定は次の点を示唆しています。

 第一に、地裁訴訟とIPRとでクレーム解釈や無効理由を使い分ける場合、その使い分けに正当な理由があることについての説明責任が伴います。

 第二に、IPR請願書の記載内容について、IPR手続開始(institution)の判断段階で、クレーム解釈を含めた論理構成全体の一貫性が問われます。

 第三に、訴訟戦略上の都合から異なる主張を並行して行なう場合、十分な説明がなされていなければ、IPR自体が不成立とされるリスクがあります。

 以上のとおり、本件決定は、IPRを利用する請願人に対し、フォーラム間での主張の整合性と説明の具体性を強く求めるものであり、今後のIPR実務においては、クレーム解釈に関する立場を事前に整理した上で、説得性のある説明を付すことが不可欠であると言えます。

 

 

[i] 背景クラッター(background clutter)とは、画像処理等の分野において、対象となる主要な情報やターゲットの認識を妨げる不要な背景要素や信号を指します。

[ii] データ統計値とは、データセットの基本的な特徴を要約した数値のことで、代表値(平均値、中央値、最頻値など)と散布度(分散、標準偏差、範囲など)に大きく分けられ、データを理解し、比較するために不可欠な指標を構成します。

[iii] 長官レビュー(director review)とは、PTABの決定(審理開始の可否、審決など)に対し、長官が自らまたは委任したパネルを通じて再検討する制度を言います。

[iv] https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/ipr2024-0952_paper_12_cambridge_v._sfara-informative.pdf

[v] 37C.F.R.§42.104(b)(3)は、USPTOのPTABにおけるIPRなどの手続きにおけるクレームの解釈に関する規則であり、特に米国特許法第112条(f)(Means-Plus-Function形式のクレーム)が適用されるクレームが含まれている場合のクレーム解釈において、各機能に対応する構造、材料、または行為を記述する明細書の具体的な部分を特定しなければならないことを規定しています。

 

[担当]深見特許事務所 野田 久登

[情報元]

1.IP UPDATE (McDermott) “Pick a lane: USPTO Director nixes IPR for inconsistent claim construction positions”(November 20, 2025)

        https://www.ipupdate.com/2025/11/pick-a-lane-uspto-director-nixes-ipr-for-inconsistent-claim-construction-positions/

2.本件長官レビューの決定 “Tesla, Inc. v. Intellectual Ventures II LLC, IPR2025-00340 (PTAB Nov. 5, 2025) (Stewart, USPTO Dir.)”原文

        https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/IPR2025_00340_Paper_18.pdf