国・地域別IP情報

欧州拡大審判部決定G2/24から読み取れる、審判段階における介入戦略の限界と実務的留意点

 本稿は、欧州特許庁(EPO)の異議申立手続きおよび審判手続における第三者介入(intervention)の地位とその限界についての、拡大審判部の最新の決定G2/24に関するものです。特に、従来からの先例としての拡大審判部の決定G3/04の原則がどのように再確認されたのか、そして介入者に付与される手続的地位がどのような意味を有するのかを説明するとともに、G2/24により示唆される実務上の留意点に言及します。

 

1.EPOにおける介入の制度的背景

 欧州特許条約(EPC)では、EPC第105条に基づき、特許侵害の恐れがある第三者が、異議申立手続きに介入する(intervene)[i]ことが認められています。EPC第105条は、第三者が異議申立(opposition)の段階(およびその後の審判段階)で介入できる例外的法的救済手段を規定しており、異議申立て段階での介入が認められると、第三者は当初の異議申立に対して異議申立人(opponent)として参加し、一定の権利を有するともに一定の義務を負います。

 介入者が異議申立手続の審判段階にのみ介入する場合、その手続上の地位と役割が問題となります。この点についての先例がG3/04であり、今回のG2/24はその原則を確認し、維持するとの判断を示しました。

 

2.以前の拡大審判部の決定G3/04の概要(介入者の手続的地位と基本原則)

 G3/04は、拡大審判部が2005年8月22日付で示した、先例となる決定であり、審判段階で介入した第三者は審判請求人(appellant)としての地位を取得せず、EPC第107条[ii]の第二文に基づく「当然に当事者となる(party as of right)他の当事者」として扱われるにすぎないという重要な判断を示したものです。すなわちG3/04では、審判段階での介入者は審判手続の当事者ではあるものの、審判を請求した当事者(appellant)と同等の手続的地位や主導権を有するものではないとされました。

 具体的には、介入者が審判段階で参加した場合、元の審判請求人が審判を取り下げると、介入者は審判手続きを継続できずに審判が終了することになります。これは、審判手続が「審判請求人による司法的救済手段」であるという原則に基づき、審判の存在がなければ手続自体が消滅すると解釈されるためです。

 ここで重要なのは、G3/04が、異議申立段階における介入と、審判段階における介入とを明確に区別している点です。異議申立段階においては、EPC第105条に基づく介入者は、原則として異議申立人と同等の当事者的地位を取得し、独立した異議理由や証拠を提出することができます。他方、審判段階では、手続は既に当事者および争点が確定した司法的性格の強い段階にあり、介入者はその枠組みに従属する形で参加するにとどまります。

 

. G2/24の審理に至る経緯

(1)審判事件T1286/23について

 G2/24に至る直接の契機となったのは、技術審判部に係属したT1286/23事件であり、この件は、異議申立手続に続く審判段階において、EPC第105条に基づき介入した第三者の手続上の地位、とりわけ当該介入者が審判請求人として扱われ得るか否かが争点となった事案です。

(2)技術審判部が抱いた疑義

 T1286/23では、特許権に関する侵害訴訟が提起されたことを受け、被疑侵害者が審判段階で適法に介入し、その後、当初の異議申立人(opponent)が審判手続から離脱した結果、介入者のみが実質的に審判手続を遂行する立場となりました。このような状況において、当該介入者を、G3/04に従い「審判請求人ではない非審判請求人(non-appealing opponent)」として扱うべきか、それとも侵害訴訟に基づく直接的かつ具体的な法的利益を有する当事者として、審判請求人に準ずる地位を認めるべきかが問題となりました。

 T1286/23を担当した技術審判部は、G3/04が示す従来の枠組みに一定の疑義を呈しました。すなわち、介入者は単なる第三者ではなく、侵害訴訟という具体的紛争に直面する当事者であり、その法的利害の強度に鑑みれば、手続上の地位を過度に制限することは実質的な防御権の確保との関係で疑問があるとの認識を示しました。この点で同技術審判部は、G3/04が前提とする「介入者は審判請求人にはなり得ない」との考え方が、現行実務においても妥当であるかについて再検討の余地があると判断しました。

(3)拡大審判部への付託

 以上を踏まえ、技術審判部は、本件を自己の判断で解決するのではなく、法の統一的解釈が求められる重要な問題であるとして、拡大審判部に付託することを決定しました。付託の核心は、EPC第105条に基づき審判段階で介入した第三者が、どのような条件の下で、どの範囲の手続的地位を有するのか、特に、G3/04による「介入者は審判請求人としての地位を取得しない」という位置づけが維持されるべきか否かという点にありました。

 

4.G2/24における拡大審判部の判断

(1)G2/24の基本的結論

 2025年9月25日に出されたG2/24の決定は、G3/04の原則を再確認し、これを維持するとの結論を示しました。具体的に次の点が明確にされました。

 (i)審判段階で介入した第三者は、審判請求権(appellant status)を取得しない。

 (ii)第三者はEPC第107条第二文に基づく「当然に当事者となる他の当事者」としてのみ手続に参加するにとどまり、元の審判請求人が審判を取り下げれば、審判手続は終了する。

 (iii)介入者が独自に審判を継続できる地位を持つには、EPCに明示的な法的根拠が必要であり、現行の規定では認められない。

 この結論は、拡大審判部がG3/04との比較において実質的な変更がないと判断したことに基づいています。すなわち、EPC第99条(1)[iii]、第105条および第107条に実質的な変更はなく、従来の解釈を覆す理由がないと指摘されました。

(2)判断の根拠

 拡大審判部は、審判手続の性質を重視し、審判は、原審の決定によって不利益を被った当事者が法的救済を求める司法的手段であり、これにより当事者主義(party disposition)が維持されるべきであるとの見解を示しました。また、介入はEPC第105条に規定された例外的救済措置であり、その運用は限定的であるべきとの考えが示されました。

 

.本件決定の意義と実務への示唆

(1)G2/24の実務上の意義

 i)介入戦略の限界

 拡大審判部決定G2/24は、EPC第105条に基づく審判段階での介入(intervention)について、従来のG3/04決定の枠組みを明確に維持および再確認した点に、最大の意義があります。すなわち、介入はあくまで「既に存在する審判手続への限定的参加」であり、独立した攻撃手段や審判構造を変更する制度ではないという点が、改めて明示されました。

 本決定により、審判段階で介入した第三者は、審判の対象(特許クレームの内容、争点等)を自由に拡張すること、および、当事者構成や手続の枠組みに影響を与えることはできず、手続上は「既存審判に従属する立場」に留まるということがことが明確化されました。

 これらの点は、介入を戦略的手段として積極的に活用しようとする第三者に対して、制度的な限界線を画したものと評価できます。G2/24は、介入を「柔軟な救済手段」として拡張する方向には踏み込まず、審判制度の安定性および予測可能性を優先した判断と位置付けられます。

 iiG2/24の位置づけ(G3/04の再確認と制度的一貫性)

 G2/24は新たな原則を創設する決定ではなく、G3/04で示された法理を現在の実務環境において再確認した決定と理解するのが適切です。

 拡大審判部は、審判手続は当初の当事者の争訟構造を基礎として進行すべきこと、および、介入は、第三者に無制限な参加の機会を与える制度ではないことを改めて強調しており、介入制度の例外性、補充性を明確に位置付けています。

 このように、G2/24は、審判段階における手続秩序の維持、当事者間の衡平、手続の効率性と終局性、を重視するEPOの基本姿勢を再確認した決定であり、介入制度を拡張的に解釈する余地を事実上封じた点に制度的意義があります。

(2)実務への示唆

 i)特許権者側の視点

 特許権者にとって、G2/24は審判段階における不測の攻撃拡大リスクが限定されることを明確にした点で、一定の安心材料となります。介入が認められた場合であっても、新たな請求項群が争点化されることや審判の射程が無制限に広がることは想定しにくく、審判対応の予測可能性が維持されるからです。

 もっとも、介入者は既存の争点については全面的に主張、立証を行なうことができるため、主張の補強や証拠の追加提出といった形で、防御負担が実質的に増大する可能性は否定できません。したがって、特許権者としては、審判係属中に侵害訴訟が提起される可能性があり、その結果としてどのようなタイミングで介入が生じ得るかを見据え、審判と侵害訴訟の進行管理を戦略的に調整する必要があります。

 ii)審判への介入を検討する第三者の視点

 一方、審判への介入を検討する第三者(被疑侵害者等)にとって、G2/24は介入戦略の現実的限界を明確に示す警鐘といえます。特に重要なのは、介入によって審判の構造や射程を主導的に変更することはできず、また、自らの主張は、既存の審判枠組みに強く制約されるという点です。そのため、第三者は、介入のみで十分な防御や攻撃が可能かを慎重に見極める必要があります。

 

 

[i] EPC第105条は、侵害訴訟を提起された第三者が、進行中の異議申立手続または審判手続にintervene する制度を規定しています。日本特許庁の公式訳では EPC105条のinterveneを「参加する」と訳していますが、EPC105条の interventionは、侵害訴訟という外在的紛争を契機として既に進行中の異議申立手続または審判手続に本来の当事者ではない第三者が法的資格に基づいて入り込む制度であり、通常の「手続参加」や「参加申請」とは明確に異なります。それに対して日本語の「参加」は、共同参加、任意的関与といった中立、協調的ニュアンスを含みやすいのに対し、「介入」は、既存手続に外部者が割り込むことで当事者構造に影響を与え得ることを的確に表現していることから、本稿では「介入」の語を用いています。

[ii] EPC 第107条は、審判手続における当事者を以下の二類型に分けて規定しています。

 第一文:不利な決定を受けた当事者のみが審判を請求できる。

 第二文:その他の当事者は、(審判請求人でなくとも)当然に審判手続の当事者となる。

[iii] EPC第99条(1)は、特許付与後9か月以内に「何人も」が異議申立を提起できることを規定しています。

 

[担当]深見特許事務所 野田 久登

[情報元]

1.D Young “G2/24: The ghosts I summoned, I can get rid of”

        https://www.dyoung.com/en/knowledgebank/articles/g224-g304-patent-appeal-intervener-third-party

2.Hofmann Eitle “Intervention During EPO Appeal Proceedings: G2/24 upholds G3/04”

        https://www.hoffmanneitle.com/news/quarterly/he-quarterly-2025-12.pdf#page=12

3.Datasheet for the decision of 25 September 2025 (拡大審判部の決定G2/24原文)

        https://www.epo.org/boards-of-appeal/decisions/pdf/g240002ex1.pdf