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米国特許法314(d)(IPR開始の判断に関する上訴不可) の規定は、裁判所でのIPR請願の範囲の確認を妨げないとしたCAFC判決

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、当事者系レビュー(IPR)において、IPRの開始決定そのものの是非は争えないが、最終確定判断が法の要求(申立書の範囲内であること)に従っているかを確認することは妨げられないと判断しました。

International Business Machines Corp. v. Zillow Group, Inc., Case Nos. 24-1170, (Fed. Cir. Dec. 9, 2025) (Chen, Taranto, Stoll, JJ.)

 

1.事件の経緯

・対象特許

 International Business Machines Corporation (以下、IBM社)が保有する米国特許第7,631,346号(’346特許)特許は、シングルサインオン(以下、SSO)操作のためのシステムおよび方法に関する発明であり、SSOにより、ユーザーは単一のログイン認証情報セットのみを使用して複数のアカウントを作成(およびその後ログイン)することができるものであります。

 クレーム1に関係する概要を、IBM社の弁論要旨から引用した内容をもとに説明致します。ユーザーはまず、ユーザーIDとパスワードを使用してソーシャルメディアのウェブサイト(クレーム上の「第1システム」に対応)にログインします。ここで、同じユーザーが第三者の医療機関のウェブサイト(クレーム上の「第2システム」に対応)で医薬品の割引を利用したいが、医療機関に認証されたユーザー(つまり、医療機関のウェブサイトにアカウントを持つユーザー)のみに割引へのアクセスを許可しているため、利用できないとします。SSOを使用すると、医療機関はソーシャルメディアのウェブサイトでユーザーの認証を受け取れるため、ユーザーが医療機関で個別に認証する必要がなくなります。これにより、ユーザーはウェブサイトごとに個別の認証情報を作成する必要がなくなるものです。

 更に簡略に述べますと、プラットフォーム(第2システム)にアクセス制限付きコンテンツ(保護されたリソース)が含まれている場合、(第1システム内に既に保存されている)固有の識別子を使用して、プラットフォーム上にアカウントを作成する方法の発明であります。

 

・米国特許商標庁(USPTO)における経緯

 (1) Ebates Performance Marketing, Inc (Rakuten Rewardsとし事業展開(以下、楽天社))が’346特許に対して新規性に基づき1件、自明性に基づき3件の当事者系レビュー(IPR)を申し立てました。また、審査開始後、Zillow, Inc.(以下、Zillow社)が楽天社サイドでこのIPRに参加しました。

 (2) 楽天社は、先行技術(Sunada)がクレーム1の「保護されたリソース(URLを含む)」を直接開示しているとして新規性欠如を主張していました。しかし、審判部(PTAB)が、先行技術は「URL」を明示していなく、新規性の立証は不十分であるとしたことから、楽天社はこの新規性のIPRを取り下げました。ただし、楽天社は、自明性のIPRにおいて、「当業者であれば、SunadaのウェブアプリケーションがURLを使用することを当然理解できる。」と主張し、PTABはこの主張を採用しました。

 (3) PTABは、’346特許の20個のクレームについて、以下の通り判断を下しました。

  • 無効クレーム: クレーム1〜4、12〜16、18〜19。
  • 有効クレーム: クレーム5〜11、17、20。

 この中で、PTABは、自明性の判断において、クレーム1の「保護されたリソース」については、Sunadaのサービスでは「ウェブアプリケーション」によって提供されており、これはSunadaのサービスがURLまたはURIによって認識されることを示唆しているとし、クレーム1等を自明であると判断しました。

 

・IBM社とZillow社の控訴概要

 IBM社は、PTABがクレーム1の「保護されたリソース」の文言について、楽天社の申立書では全く提示されていない自明性理論に依拠しており、その判断は誤りであるとし、CAFCに控訴しました。

 一方、Zillow社は、クレーム5等を有効としたのは、実質的な証拠を欠いているとして、控訴しました。なお、標題に示されている米国特許法314(d)について、IBM社の申し立てはPTABの開始決定と密接に結びついているため、米国特許法314(d)の審査開始の決定に関する制限が適用されると主張しました。

 

2.CAFCの判断

 CAFCは、PTABの事実認定には十分な証拠があり、法律の適用も妥当であるとして、IBM社およびZillow社の控訴をいずれも棄却しました。具体的には、以下の3点について判断を示しました。

 

  • 米国特許法314(d)について

 CAFCは、Zillow社の米国特許法314(d)に基づき裁判所に申立できないとの主張を認めませんでした。

 その理由は、SAS Institute, Inc. v. Iancu (最高裁判例)の「申立人の主張は、訴訟の開始から結論に至るまで、訴訟の範囲を定義する」という原則、つまり申立書に記載された理由と証拠に基づいて審査を進められなければならず、PTABが勝手に申立書にない独自の無効理由を編み出して判断を下すことはできないことを引用し、IPRが「法律の要求に従って進行しているか」を裁判所が審査することは妥当であるとしました。

 なお、Zillowは、Thryv, Inc. v. Click-To-Call Techs., LP (最高裁判例)を引用し、開始決定に「密接に関連する」事項は審査不能だと主張しました。しかし、CAFCは同判例を認めつつも、それは開始段階の適否を争う場合であり、今回のように最終判断が申立書の範囲に留まっているかを確認する場合には適用されないと区別しました。

 

  • 申立書に提示されていない自明性理論に依拠したとする主張について

 IBM社は、URLという文言がSunadaに開示されていない以上、これは「ウェブアプリケーションにURLを組み合わせる」という自明性の議論であり、新規性の議論ではないと主張しました。

 これに対し、CAFCは、PTABが「Sunadaのウェブアプリケーションという記載は、URLの使用を強く示唆している」という表現を使っていることを認めました。しかし、それは「内容を修正した」という意味(先行技術を「修正・変更」して発明にたどり着くことである自明性の意図)ではなく、「明示的な記載が何を意味するかを説明した(先行技術の「記載そのもの」から、専門家がその要素を直接読み取れることである新規性の意図)」に過ぎないと判断しました。つまり、先行技術を加工することなく、その記載内容を正しく解読すればURLの存在が含まれているため、新規性理論の枠内であるとし、PTABの判断は新たな自明性理論を用いたものでないとしました。

 

  • クレーム5等の自明性について

 CAFCは、Sunadaに「元のサイト(第1のシステム)」に自動で問い合わせる仕組みまでは開示されていないとし、PTABの判断を適切であるとしました。

 

3.考察

 本件でCAFCは、PTABが最終判断で扱った事実認定や解釈が、元のIPRでの請願の範囲を超えていないかを審査できることを明確にしました。これは、クレームの解釈や先行技術の適用が、請願された範囲の主張を超えているか否かについて、裁判所が判断できると理解されます。

 今後の指針として、IPR戦略では「請願の範囲・主張ポイントを明確かつ過不足なく設定すること」、「最終決定時にPTABがどこまでクレームの理論を広げているかを確認すること」がより重要と考えられます。

[担当]深見特許事務所 栗山 祐忠

[情報元]

1.International Business Machines Corp.事件判決原文

 https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1170.OPINION.12-9-2025_2616412.pdf

2.McDermott Will & Emery IP Update | December 18, 2025 “Authentication approved: § 314(d) doesn’t bar review of IPR petition scope”
 https://www.ipupdate.com/2025/12/authentication-approved-%C2%A7-314d-doesnt-bar-review-of-ipr-petition-scope/