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中国における最近の知財関連代理機関および代理人の管理強化の取組について

 中国政府(国家知識産権局および関連部門)は、知財関連の代理機関や代理人に対する管理を強化するための一連の措置を相次いで打ち出しています。これらは、代理サービスの公正性および専門性の確保、制度全体の透明性・信頼性向上を目指したものであり、法令運用の細部に至るまで具体的な監督強化が進展しています。

 以下、主として中国国家知識産権局(以下「CNIPA」)による、専利[i]代理機関や専利代理人[ii]に対する管理強化の取組について、直近の動きを中心に、政策の背景、規制強化の内容、実務運用上の変化、今後の方向性という流れで説明します。

 

1.知財関連代理の管理強化政策の背景

 中国政府は、経済発展の戦略として知的財産権の強化を重点的に掲げています。CNIPAは「知的財産権強国建設」や「十四五計画」[iii]などの国家戦略に基づき、専利制度および代理制度の整備・運用の改善を継続しています。これには、専利の出願・審査・権利化の過程だけでなく、専利代理機関および専利代理人の質の確保、ならびに、代理業務における不正行為の抑止と透明性向上のための取組が含まれています。CNIPA自身の年度計画や部門通知でも、異常な代理活動や悪質な出願代理行為の監督強化が明確に打ち出されています。

 このような政策の背景として、中国における知財サービス産業は急速に拡大しており、専利代理機関の数も増加していることが挙げられます。この成長は革新活動の活発化を支える一方で、代理ルールの遵守、専利代理の専門性や職業倫理の確保、登録と実務行為の整合性の担保という課題も浮上しています。このような課題に対する制度的な対応として、代理機関の登録審査や代理人の執業資格について、行政監督の下での業界規律の強化が図られています。

 

2.専利代理機関および専利代理人への管理強化の具体的措置

(1)代理機関の分支機構[iv]の登録および監督の徹底

 2025年10月、CNIPAは「全面強化専利代理機関分支機構と代理人執業备案管理の通知」を発出し、省級知識産権管理部門に対する具体的な管理要件を明確化しました。これには次のようなポイントが含まれます:

 (i)代理機関や分支機構の設立・変更・運営状況に関する審査の徹底(企業登記情報の確認、責任者・代理人情報の精査、本社の業務実態把握等)。

 (ii)代理人の資格確認・労働関係の真正性確認[v]を義務付け、名義貸しを排除。

 (iii)監督当局間での日常監察、合同捜査、信用評価との連携強化。

 (iv)代理実習評価管理の制度化とその監督評価基準の整備を促進し、職業倫理と専門能力の向上を図る。

 これらの項目は、従来の登録・ライセンス管理にとどまらず、代理機関および代理人の執業実態の適正化に踏み込み、実務上の不正や形式的な登録の温床を取り除くものです。

(2)資格と執業行為の適正化

 中国では、専利代理人は資格試験合格者でなければならず、その資格は代理業務だけでなく、一定の場合には知財訴訟活動に関与し得る専門職とされています。この資格制度は、日本や欧米の専門職制度と同様の専門性を志向しつつも、行政的管理色が比較的強い制度となっています。中国の代理制度は、登録制と資格要件を組合せ、単なる仲介業務ではなく、法的実務責任を課す仕組みが組み込まれています。

 近年は資格者リストの更新と執業状況のデータベース管理、代理人による実務行為の本人確認強化といった措置が進められており、代理人の職業的誠実性・専門性への信頼性向上が図られています。具体的には、資格を持つ者が実際にどの代理機関で執業しているか、その労働関係が透明で正当であるかなどを実際に確認することが重要視されています。

(3)不正行為の抑止と業界規律の強化

 中国知財当局は「異常な専利出願行為」や「悪意ある出願・商標取引」の取り締まりを含むIP保護強化プランを推進しており、これに関連して代理機関および代理人の行為監督も強化対象になっています。これらの施策は、専利制度全体の信頼性を高めるために、代理者側の関与が不当な影響を及ぼすケースに対して事前的・事後的な監督と処分を可能とする方向に進んでいます。

 実務面では、専利代理機関が資格のない者を名義として用いる行為、ネット上で違法な募集広告を出す行為、その他顧客誘引を目的とした不当行為に対する規制が強化されています。また、代理機関・代理人への行政処罰や信用評価の活用を通じて、制度遵守のインセンティブを高める取り組みも並行して進んでいます。

 

3.実務への影響と運用

(1)地方レベルでの審査・監督強化

 上述したCNIPAの通知では、国家レベルだけでなく省・市レベルの知識産権管理部門の役割も強調され、省レベルでの日常的監督と情報共有体制の構築が求められており、これによって、地域差の是正を図る運用が進められています。

(2)信用評価と情報公開の推進

 中国当局は、代理機関・代理人に関する信用評価制度を導入・活用し、優良な機関と問題のある機関の差別化を図っています。これは単なる行政処分にとどまらず、公開情報として外部企業・出願人が選択できる情報基盤としての役割も期待されます。

(3)実務品質・倫理向上の促進

 代理人が実務能力と職業倫理を高めるための評価管理システム(実習評価・継続教育制度)の導入は、単に管理強化ではなく、業界の専門性底上げを意図しています。これにより、代理サービスの品質向上とクライアント保護の両面が進むことが見込まれます。

 

4.今後の方向性と課題

 以上述べたように、中国政府(CNIPA等)は、知的財産制度全体の質と信頼性を高めるため、代理機関および代理人に対する規律強化と制度整備を両輪とする政策を進めており、制度化・データ化・情報共有の強化により、規範的で信頼性の高い専利代理サービス市場の形成を狙っています。

 一方、実務運用上は、管理する行政機関側、管理される代理機関側および企業側のそれぞれにとって次のような課題があります。

 (i)行政機関側が代理機関および代理人に対する監督強化を全国的に実施するに当たり、地方行政機関ごとの人員体制、専門能力、経験、予算等の違いにより、制度運用の厳格さや対応能力に地域差が生じ得ること。

 (ii)代理機関側が中国当局による監督強化に対応するために生じる企業および代理人の実務的、組織的な追加負担、外国代理機関との協調の必要性など。

 これらを解決するため、中央と地方の連携やオンライン監督ツールの活用が進展するとみられます。また、今後は監督と支援がバランス良く進み、国内外の出願人にとってより予測可能かつ信頼できる専利代理制度に成熟していくことが期待されます。

 

5.CNIPAにより最近行われた知財関連代理機関、代理人の行政処分の具体事例

(1)CNIPAが、資格取り消し等の行政処分24件を公表 知財代理業界への規制強化(下記情報元4参照)

 知的財産代理業界を対象とする重点的な是正措置が進む中、関連する行政処分事案の処理が加速しています。CNIPAは2025年12月下旬、二度にわたり計24件の行政処分および業務資格の取消しを決定し、2026年1月4日から9日にかけて順次公表しました。

 公表された決定によれば、専利代理機関16社の営業許可を取り消し、1社の登録を取り消したほか、専利代理人1名の資格を取り消しました。また、代理機関1社に対して新規業務の受任停止12か月、別の5社に対しては同6か月の受任停止を命じています。これらの行政処分を受けた代理機関および関係者は、法令に基づき市場監督管理分野の「重大な違法・信用失墜者名簿」に掲載されました。

 今回の一連の処分および資格取消しは、技術的実体を伴わない大量出願(いわゆる異常出願)の代理、実体を伴わない分支機構の拡張、代理人署名責任の不履行、いわゆる「名義貸し」など、代理業務の秩序を著しく損なう典型的な違法・不正行為を対象とするものです。

 併せて、虚偽行為による資格詐取、部門間連携による共同処罰、複数の違法行為に対する加重処罰という処理を通じ、国家知識産権局が専利代理業界に対して「ゼロ容忍」の姿勢、すなわち、軽微な違反であっても看過せず、情状酌量なしに厳格な処分を下すという方針で厳格な監督を行なうことを一層明確にしました。

(2)CNIPAが、専利代理人の名義貸しに厳正対応し、資格取消し処分を公表(下記情報元5参照)

 CNIPAはこのほど、一連の行政処分決定を公表し、専利代理人10人に対して最も重い処分である資格証の取消しを科しました。さらに1人に対しては、新規業務の受任を12か月間停止する処分を命じました。いずれも「重大な違法・信用失墜者名簿」に掲載され、資格証の名義貸し、いわゆる「掛証」行為に対し、断固として容認しない姿勢を鮮明にしました。

 処分対象となった11人はいずれも違法性が極めて高く、長期間にわたり資格証の名義貸しを繰り返し行っていた事例や、名義貸しに加えて複数の違法・不正行為に関与し、依頼者の利益を著しく損なうとともに、専利代理業務の市場秩序を深刻に乱した事例が含まれています。

 今回の行政処分を通じて、当局は三つのポイントを明確にしました。第一に、資格証の名義貸しに関与した幇助行為についても責任を厳格に追及すること、第二に、業務執行登録時の虚偽申告に対しては遡及的に責任を問うこと、第三に、代理業務における署名責任を一段と厳格化することです。

 CNIPAは昨年11月以降、公安部および国家市場監督管理総局と連携し、知的財産代理業界を対象とした3か月間の特別集中整備を進めています。重大な違法・不正行為に関与する代理人を重点的に取り締まるとともに、資格証の名義貸しを徹底的に摘発し、規範的で公正な競争環境の構築を図る方針です。

 

 

[i] 中国における「専利(中国語表記では「专利」)」は、日本語でいう「特許」よりも広い概念であり、発明専利(日本の特許に相当)、実用新型専利(日本の実用新案に相当)、および外観設計専利(日本の意匠に相当)の三種類の権利をまとめた総称です。すなわち、中国では、「専利」の語は、技術・形状・デザインを含む産業財産権の一群を指す包括用語として使われます。

[ii] 中国の専利代理人(中国語では「专利代理师」)は、中国において、専利出願書類の作成、審査対応(補正・意見書提出)、無効審判手続の代理、権利化戦略の助言、などを業として行なう、全国統一の国家資格を有する専門家であり、これは日本の弁理士と実務的役割等において近似しています。ただし、専利代理人の登録は専利代理機関への所属を前提とし、活動がCNIPAによる強い行政監督下での範囲に限られる点で、個人開業型専門職である日本の弁理士とは、制度思想が異なります。

[iii] 「十四五計画」とは、中国の「第14次五か年(2021~2025年)計画」のことであって、社会主義現代化国家の建設に向けた始まりの5年間で、「質の高い発展」を軸に、科学技術の自立自強、内需拡大、環境保護(カーボンニュートラル)を重視し、2035年までの長期目標の基礎を築く計画を言います。

[iv] 「代理機関の分支機構」とは、CNIPAに登録された専利代理機関が設ける支店や分所の組織構造を意味します。分支機構は独立法人ではなく、本部と一体で責任を負う業務拠点です。近年は、名義貸しや形式拠点といった無資格実務の横行を防止するため、設置・運営・実体の厳格管理が進められています。

[v] 「労働関係の真正性確認」とは、専利代理人が本当にその専利代理機関の社員(またはパートナー)として働いているのかどうか、すなわち、名前だけ貸している「形式的所属」ではないかをチェックすることを意味します。

 

[情報元]

1.CNIPAウェブサイトより (1)2025年10月17日付ニュース

   (https://www.cnipa.gov.cn/art/2025/10/17/art_53_202095.html?utm_source=chatgpt.com

2.工業所有権情報研修館 新興国等知財情報データバンク アジア/その他参考情報より 「(1)中国における専利代理人資格試験と代理人の役割」(2025年12月23日)

              (https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/41600/?utm_source=chatgpt.com

3.CHINAIP Law Update “CNIPA Announces Deepening of “Blue Sky” Campaign to Strengthen Supervision of Intellectual Property Law Firms”(2025年5月7日付記事)

              (https://www.chinaiplawupdate.com/2025/05/cnipa-announces-deepening-of-blue-sky-campaign-to-strengthen-supervision-of-intellectual-property-law-firms/?utm_source=chatgpt.com)

4.ジェトロ北京事務所:CHINA IP Newsletter 2026/1/19(No.676) 「国家知識産権局、行政処分・資格取消し24件を公表 知財代理業界への規制強化」

(出典:中国知識産権資訊網 2026.1.15(https://www.iprchn.com/cipnews/news_content.aspx?newsId=145182

5.ジェトロ北京事務所:CHINA IP Newsletter 2026/2/10(No.679)「国家知識産権局、特許代理師の名義貸しに厳正対応、資格取消し処分を公表

(出典:国家知識産権網 2026.1.30)」(https://www.cnipa.gov.cn/art/2026/1/30/art_55_203863.html

[担当]深見特許事務所 野田 久登