均等論の要件は各クレーム要素ごとに満たされる必要があり、差止命令はeBay事件の要件に従う必要があり、他社特許をどのように回避するかを協議する電子メール等は故意侵害の重要な関連証拠となり得る、と判示したCAFC判決紹介
米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、チャイルドシート技術に関する特許をめぐる紛争において、特に注目すべき点として、均等論に基づく侵害は各クレーム要素ごとに均等の要件を満たす必要があること、差止命令を認めるためにはeBay事件の連邦最高裁判所判決の要素をすべて証明する必要があること、故意侵害に関する争点について第一審の連邦地方裁判所が被告企業の電子メールなどの証拠を排除したことは取消可能な誤りであること、を判示しました。本稿では本件判決中のこれらの重要な争点に関して報告いたします。
Wonderland Switzerland AG v. Evenflo Co., Inc., Case Nos. 23-2043; -2233; -2326 (Fed. Cir. Dec. 17, 2025) (Moore, Prost, JJ.) (Reyna, J., concurring in part and dissenting in part)
1.事件の経緯
(1)訴訟の提起
Wonderland Switzerland AG(以下、「Wonderland社」)は、コンバーチブル・チャイルドシートに関する米国特許第7,625,043号(以下、「’043特許」)および米国特許第8,141,951号(以下、「’951特許」)を所有しています。
Wonderland社は、Evenflo Co., Inc.(以下、「Evenflo社」)のコンバーチブルカーシートの5つのモデル(4-in-1シートおよび3-in-1シートに分類される)が、’043特許および’951特許の様々なクレームを侵害していると主張して、デラウェア州連邦地方裁判所(以下、「地裁」)に特許侵害訴訟を提起しました。
(2)地裁の判断
(ⅰ)特許侵害について
地裁での公判審理において陪審は、Evenflo社の被疑侵害品は、’043特許および’951特許のクレームを文言上または均等論により侵害しているとの評決を下しました。侵害の成否に関する様々な争点のうち均等論に関する争点を以下に説明します。
まず’043特許の代表的なクレームとしてそのクレーム1を以下に示します(太字斜体の部分は本稿で取り上げる争点部分を示します)。
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- A car seat for use in an automobile to transport a child, comprising:
a seat assembly defining a generally horizontal seat surface for supporting a child positioned hereon, said seat assembly including a pair of receptables; and
a seat back having a locking mechanism for selectively detachably connecting said seat back to said seat assembly, said seat back including a rear support portion oriented in generally upright position when attached to said seat assembly, said seat back having a pair of attachment arms projecting generally, perpendicularly outwardly relative to said rear support portion for engagement with said seat assembly so as to be received within corresponding said receptacles.
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陪審はEvenflo社の4-in-1シートの製品が均等論により’043特許の上記クレーム1を侵害しているとの評決を行いました。特に、上記クレーム1における太字斜体の“a seat back having a locking mechanism for selectively detachably connecting said seat back to said seat assembly(ロック機構を有する背もたれであって、前記ロック機構は、前記背もたれを前記シートアセンブリに選択的に着脱可能に接続する)”という記載に関して均等の成否が争点となりました。
(ⅱ)恒久的差止命令について
Wonderland社は’043特許に関してのみ恒久的差止命令を申し立てていましたが、公判審理の後に地裁は、’043特許および’951特許の双方に関連する行為を恒久的に差し止める命令を発しました。
(ⅲ)故意侵害について
陪審はEvenflo社による’043特許の侵害は故意ではないとする評決を行いました。Wonderland社は故意侵害について再度審理するように要求しましたが地裁はこれを拒否しました。
(3)CAFCへの控訴
Evenflo社は地裁による侵害の認定と恒久的差止命令を不服としてCAFCに控訴しました。一方、Wonderland社は、地裁が故意侵害に関する新たな審理を拒絶したことについてCAFCに交差控訴しました。
2.CAFCの判断
(1)’043号特許のクレーム1の侵害について
Evenflo社は、被疑侵害品の4-in-1シートの背もたれには、’043特許のクレーム1に記載されている、背もたれをシートアセンブリに選択的に着脱可能に接続するためのロック機構が含まれておらず、合理的な陪審であればそれ以外の認定はできなかったはずであると主張し、CAFCもこれに同意しました。
CAFCは、陪審による侵害認定を、文言侵害および均等侵害の双方の観点から実質的証拠について審査しました。一審判決で陪審は、Evenflo社の4-in-1シートが均等論に基づき’043特許のクレーム1を侵害していると判断しました。しかしながら、’043特許のクレーム1は、背もたれが、前記背もたれをシートアセンブリに選択的に着脱可能に接続するためのロック機構を有することを要件としていますが、4-in-1シートがそのような機能を備えていることを示す実質的な証拠は存在していません。4-in-1シートの背もたれには、固定された金属棒(「ロックロッド」と呼ばれる)が1本だけ含まれており、ロックロッドに選択的に着脱するための部品(ハンドルやバネ式フックなど)はすべてシートアセンブリに取り付けられています。CAFCは、クレーム1は、背もたれに選択的に着脱可能な部品が含まれることを明確に要求しているため、合理的な陪審であれば、被告の4-in-1シートがこの限定を文字通り満たしていると認定することはできないだろうと判断しました。
地裁での公判においてWonderland社の専門家であるキャメロン博士が陪審員に対し、バネ式フックを背もたれに取り付けてもシートアセンブリに取り付けても「全体として同じ機構」であるため「実質的な違いはない」と説明し、Wonderland社は、均等論に基づく侵害を認定するのに十分な証拠が存在すると主張しました。しかしながら、クレーム1のロック機構の限定は、選択的に着脱可能な部品がシートアセンブリではなく背もたれに取り付けられていることを要求しています。したがって、CAFCは、均等論の下では、「全体的な…機構」が同一である、または異なるクレーム要素(すなわち、シートアセンブリ)が選択的に着脱可能に接続するためのロック機構を含むと主張するだけでは不十分である、と認定しました。均等論は、発明全体としてではなく、クレームの個々の要素に適用されなければなりません[i]。CAFCは、Evenflo社の4-in-1シートには、背もたれ上に、背もたれをシートアセンブリに選択的に着脱可能に接続するための要素が何ら含まれていないことから、本件証拠の下では、Evenflo社の4-in-1シートとの均等を認定することはできないと結論付けました。したがって、CAFCは、4-in-1シートが均等論に基づいて’043特許のクレーム1を侵害するという陪審の認定は実質的な証拠によって裏付けられていないと判示しました。
(2)恒久的差止命令について
第一審の地裁は、Wonderland社が’043特許に関してのみ恒久的差止命令を申し立てていたにも関わらず’043特許および’951特許の双方に関連する行為を恒久的に差し止めました。この点に関してEvenflo社は、地裁の両特許に対する恒久的差止命令は裁量権の濫用に当たると主張しました。
(ⅰ)’951特許について
’951特許に関しては、Wonderland社が救済措置を求めないことを明確に意思表示していたため、CAFCは、地裁が恒久的差止命令を認めたのは裁量権の濫用であったと判断しました。Wonderland社は、地裁が’951特許に関する恒久的差止命令を認めたことは、’043特許に関する差止命令と同じ「実質的効果」を有するため、無害な誤りであると主張しました。CAFCはこれに同意せず、差止命令は、必ずしも’043特許を侵害するものではないEvenflo社の他の製品の発売に影響を与える可能性がある、と説明しました。
(ⅱ)’043特許について
’043特許に関してCAFCは、地裁が、Wonderland社が金銭的損害賠償では補償できない回復不能な損害または損傷を被りそして今後も被るであろうという推測的かつ推論的な証拠のみに依拠したため、地裁は恒久的差止命令を発するという裁量権の濫用を犯したと結論付けました。
差止命令による救済という特別な救済を正当化するためには、原告は、eBay事件の連邦最高裁判所判決[ii]が示した次の4つの要件を立証しなければなりません:
(a)原告が回復不能な損害を被ったこと
(b)金銭的損害賠償などの法律上認められる救済手段では当該損害を補償するには不十分であること
(c)原告と被告との間に生じる不利益の均衡を考慮すると、衡平法上の救済が正当化されること
(d)恒久的な差止命令によって公共の利益が損なわれることはないこと
CAFCはこれらの要件を考慮して、Wonderland社のパートナー企業が他の競合他社ではなくEvenflo社によって売上または市場シェアを奪われたことの証拠、あるいはパートナー企業の評判または製品の独自性が損なわれたという証拠を地裁が特定できなかったと説明しました。CAFCはまた、チャイルドシートの売上減少が「当然のことながら」他の製品の売上減少につながるという証言は、裏付けとなるデータのない推測に基づいていると指摘しました。最後に、CAFCは、Evenflo社の製品が故障した場合、技術的問題が存在すると消費者が「考えるかもしれない」という発言は推測に過ぎず、回復不能な損害を立証するには不十分であると判断しました。
(3)故意侵害について
Wonderland社は、地裁がEvenflo社が主観的意図を有していたとの証拠を除外したことについて、故意侵害に関する再審理を却下したことは裁量権の濫用であると主張し、CAFCに交差控訴しました。除外された証拠には、関連会社からの電子メールのやり取りが含まれており、その内容は、被疑侵害品が特許の範囲に該当する可能性があることを警告し、「クレームを回避する」方法を尋ねるものでした。地裁は、これらの電子メールが陪審員に先入観や混乱を与えるとして証拠から排除しました。
米国における故意侵害(willfulness)の判断枠組みは、連邦最高裁判所のHalo Electronics, Inc. v. Pulse Electronics, Inc.判決[iii]により確立された基準に従います。同判決は、従前の客観的無謀性(objective recklessness)要件を廃止し、侵害者が特許権の存在および侵害リスクを認識しながら侵害行為を行ったかという主観的悪質性(subjective willfulness)を中心に判断すべきであると判示しました。
CAFCはWonderland社の主張に同意し、これらの電子メールは、Evenflo社が特許の存在および侵害リスクを認識していたことを示す証拠であり、Halo判決の示す主観的悪質性の立証に直結するものであるとして、故意侵害と「非常に関連性が高い」と判断し、証拠を排除したことは裁量権の濫用であると判断しました。CAFCはまた、今後の地裁での差し戻し審について、陪審員の混乱や被告への不当な先入観を防ぐために、メールの余計な部分を黒塗りにするか、陪審員に厳格な注意喚起の指示を出すか(あるいはその両方を行うか)、というような具体的な対策について、地裁の裁量で行うことを求めました。
(4)結論
最終的にCAFCは、均等論に基づく’043特許の侵害の判決を破棄し、’043特許および’951特許の双方に関する恒久的差止命令を破棄し、’043特許の故意侵害に関する再審理の却下の決定を破棄して、更なる審理のために地裁に差し戻しました。
(5)反対意見
レイナ判事(Judge Reyna)は一部反対意見を示し、連邦証拠規則403条に基づく故意の主張に関する電子メールの証拠を地裁が除外したことは「慎重かつ包括的」であり、下級審の審理尊重の基準(the deferential standard of review)に基づいて支持されるべきであった、と主張しました。
3.実務上の留意点
(1)均等論に関する留意点
均等論を主張・立証する際は、製品全体の機能やメカニズムが同じであることを主張するのではなく、クレームの「各構成要件(個々の要素)」が対象製品のどの部分に対応するかを厳格に対応付ける必要があります。
(2)恒久的差止命令に関する留意点
差止命令を求める場合には、eBay事件の連邦最高裁判所判決が示した要件にしたがって、単なる推測や一般的な消費者行動の仮定に基づく主張ではなく、「回復不能な損害」が生じていることを裏付ける具体的な証拠(市場データや売上・シェアの喪失の直接的証明など)を提示する必要があります。
(3)故意侵害に関する留意点
他社特許をどのように回避するかを協議する社内通信(メール等)は、故意侵害の強力な証拠となり得るため、企業は特許クリアランスや設計変更に関する社内でのコミュニケーションの残し方や表現に十分注意を払う必要があります。
[i] Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co., 520 U.S. 17, 29 (1997)
[ii] eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C., 547 U.S. 388, 391 (2006)
[iii] Halo Electronics, Inc. v. Pulse Electronics, Inc., 579 U.S. 93 (2016)
[担当]深見特許事務所 堀井 豊
[情報元]
1.McDermott Will & Emery IP Update | January 8, 2025 “Equivalents still requires all elements be met, injunctive relief still governed by eBay factors”
2.Wonderland Switzerland AG v. Evenflo Co., Inc., Case Nos. 23-2043; -2233; -2326 (Fed. Cir. Dec. 17, 2025) (Moore, Prost, JJ.) (Reyna, J., concurring in part and dissenting in part)(判決原文)
(https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-2043.OPINION.12-17-2025_2620462.pdf)

