クレームの「最適な(optimal)」が明細書の記載に照らして不明確と判断された事案
米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、地方裁判所による無効判決および非侵害の略式判決を支持しました。
Akamai Technologies, Inc. v. MediaPointe, Inc., AMHC, Inc., Case No. 24-1571 (Fed. Cir. Nov. 25, 2025) (Taranto, Stoll, Cunningham, JJ.)
1.背景
(1)本件特許の概要
AMHC, Inc.(以下「AMHC」)は、地理的に分散したユーザーからのストリーミングメディアのリクエストを集中管理し、大容量データ伝送に伴う帯域幅の問題を軽減する「インテリジェント配信ネットワーク」を用いて、ストリーミングメディアコンテンツをインターネット経由で効率的にルーティングするためのシステムおよび方法に関する2つの特許、米国特許第8,559,426号(以下「’426特許」)および米国特許第9,426,195号(以下「’195特許」)を所有しています。’195特許は’426特許の継続出願であり、両特許の明細書は共通です。
以下、代表例として’426特許を採り上げます。クレーム1は、次のとおりです(下線は筆者による)。
クレーム1
1. A system comprising:
a management center;
a plurality of nodes configured to: relay a continuous stream of data from a content provider to a first client in response to an initial request for the continuous stream of data, replicate the continuous stream of data, and transmit the replicated stream of data to at least one other client;
wherein the management center comprises a mapping engine that is configured to map trace routes between the management center, at least one of the nodes, and at least the first client so as to determine one or more optimal routes from the management center to the first client via the at least one of the nodes, and configured to direct a node relaying the continuous stream of data from the content provider to the first client to replicate the continuous stream of data from the content provider, in response to Subsequent requests for the continuous stream of data, while the node is relaying the continuous stream of data from the content provider to the first client, and transmit the replicated Stream of data to the at least one other client in response to the Subsequent requests for the continuous stream of data; and
wherein the management center is configured to downgrade lower priority clients from a higher quality of service network link to a less optimal network link when a higher priority client requests use of the higher quality of service network link.
(試訳)
1.システムであって、
管理センターと、
複数のノードとを備え、前記複数のノードは、連続データストリームの最初の要求に応答して、コンテンツプロバイダから第1クライアントへ前記連続データストリームを中継し、前記連続データストリームを複製し、前記複製されたデータストリームを少なくとも1つの他のクライアントへ送信するように構成され、
前記管理センターは、前記管理センターから前記ノードのうちの少なくとも1つを経由して前記第1クライアントへの1つ以上の最適なルートを決定するために、前記管理センター、前記ノードのうちの少なくとも1つ、および前記少なくとも第1クライアント間のトレースルートをマッピングするように構成されたマッピングエンジンを備え、前記ノードが前記コンテンツプロバイダから第1クライアントへ連続データストリームを中継している間、前記コンテンツプロバイダから第1クライアントへ連続データストリームを中継するノードに対し、前記連続データストリームに対する後続の要求に応答して、前記コンテンツプロバイダからの連続データストリームを複製するように指示し、前記連続データストリームに対する後続の要求に応答して、前記複製されたデータストリームを前記少なくとも1つの他のクライアントへ送信するように構成され、
管理センターは、優先度の高いクライアントがより高いサービス品質のネットワークリンクの使用を要求した場合に、優先度の低いクライアントをより高いサービス品質のネットワークリンクからより最適でないネットワークリンクにダウングレードするように構成される。
このように’426特許において、管理センターは、コンテンツプロバイダから第1クライアントへのデータストリームの送信に関するルートについて、ノード等を経由した「最適な(optimal)」ルートを決定するものとされており、また、優先度の高いクライアントが高品質のネットワークリンクを要求した際には優先度の低いクライアントのネットワークリンクを「より最適でない」ものにダウングレードするように構成されています。本事案では、「最適な(optimal)」の意義が問題とされました。なお、クレーム2やクレーム17において「最良の(best)」等の表現が使われており、本事案では、これらの記載も問題とされていました。
(2)訴訟の提起
Akamai Technologies, Inc. (以下「Akamai」)は、AMHCとその子会社であるMediaPointe(以下、総称してMediaPointe)を相手取り、’195特許および’426特許について非侵害の確認判決を求めてカリフォルニア州中部分区連邦地方裁判所(以下「地裁」)に訴訟を提起しました。MediaPointeは、両特許の侵害を主張する一方、Akamaiは両特許の全クレームについて無効の確認判決を求めて反訴しました。
(3)本件特許に対する地方裁判所の判断
クレーム解釈の段階において、Akamaiは「最適な」や「最良の」といった用語は不明確であり、無効であると主張しました。これに対し、MediaPointeは、「最適な」という言葉の根拠は、明細書に記載された、「遅延」、「ホップ数」、および「伝送信頼性」といった数値的かつ客観的なトレースルート結果に依拠するため、不明確ではないと反論しました。
MediaPointeの反論の骨子は次のとおりと理解されます。つまり、(a)クレーム1には「最適な」とだけ記載されているのではなく、「最適な」を理解するための「トレースルート」という用語が、「最適なルートを決定するために、…トレースルートをマッピングするように構成された」という文脈で使われていること、(b)明細書には「トレースルート」に関して、「遅延」、「ホップ数」、および「伝送信頼性」といった数値的かつ客観的な具体例が記載されていること、(c)以上から、問題の用語は明確である、というものです。
しかしながら、地裁は、問題の用語は不明確であると結論付けました。地裁は、「遅延」、「ホップ数」、および「伝送信頼性」の情報を明細書がどのように一貫して使用・評価し「最適/最良」な経路を決定するかについての手順(ルール)を何ら提供していない点を指摘しました。加えて、地裁は、明細書には「最適な」や「最良の」の決定に関して、ネットワーク帯域幅や過去のパフォーマンスなどの「拡張された範囲の要因」も考慮し得ることが記載されており、これが問題の用語に客観的な境界線(bounds)が存在しないことを決定づけているとして、’426特許のすべての独立クレームを無効と判断し、’195特許についても問題の用語が含まれるクレームを無効と判断し、無効とならなかったクレームについても非侵害の略式判決を下しました。
MediaPointeは、地裁の判決を不服としてCAFCに控訴しました。
2.CAFCの判断
CAFCは、地方裁判所が判断したように、本件特許は「最適な」又は「最良の」を決定するために必要な客観的な境界を与えていないと結論付けました。
第1にCAFCは、MediaPointeが問題の用語の明確性の根拠として依拠するクレームの「トレースルート」という用語自体に着目しました。CAFCは、クレームに「トレースルート」が記載されていても、クレームの構文からすると、クレームは、少なくともトレースルートの結果を考慮することを要求するが、それだけを考慮する必要はなく、「最適な」/「最良の」の「合理的に明確かつ排他的な定義を提供していない」ため、「客観的な境界」を提供していないと判断しました。CAFCは、現に明細書も「最適な経路を決定する際」の考慮事項として、トレースルートとは別に「時間帯やその他の変動など、自社の運用に固有の理由」を考慮できること、および「『最良パフォーマンス』のノード」をトレースルート結果に限定されない「様々な要因」を参照して決定できることを開示していることを指摘しました。
第2に、CAFCは、ホップ数、遅延(latency)、および(間接的に)信頼性を報告するトレースルート結果に部分的に依拠するという要件自体が「合理的に明確」ではないと判断しました。CAFCは、最適な経路はホップ数、遅延、信頼性に依存するものの、MediaPointeは、これらの指標が乖離した場合にどの指標、あるいはどの指標の組み合わせに依拠すべきかについて、特許には指針が示されていないことを認めている点を指摘しました。この指摘は、明細書には、トレースルートに関する複数の指標が記載されているのみで、いずれの1つまたは複数の要素を優先するのか、最終的な「最適な」/「最良の」経路を具体的に定める指針の説明が明細書に記載されていないことを指摘しているものと理解されます。
さらにCAFCは、MediaPointeが非侵害の略式判決を不服とする点においても、訴えの根拠が不十分であるとして、MediaPointeの主張を退けました。
CAFCは、これらの理由により、地裁の判決を支持しました。
3.コメント
本事案では、クレームに記載された「最適な」や「最良の」といった程度表現の明確性が問題になりました。クレームには問題の記載を解釈するためのキーとなる「トレースルート」という用語が用いられると共に、明細書には「トレースルート」に関する複数の指標(「遅延」、「ホップ数」、および「伝送信頼性」)が記載されていました。
しかし、明細書には、それら指標の優先順位に関する記載が存在せず、また、クレーム自体が「最適な」の解釈に必ず「トレースルート」が関わるような構文構成になっておらず、明細書でもトレースルート以外の拡張要因が考慮され得ることが記載されていました。
これらを踏まえ、実務家は以下の点に留意すべきと思われます。
(1)結果指向のクレーム表現は危険である
本事案では、「最適なルートを選ぶ」という結果指向のクレームが問題になりました。結果指向のクレームは、請求範囲を広くし、強い権利を形成するように思われますが、客観的基準が曖昧になりがちで、不安定であり、無効理由を有するおそれがあります。結果に至る具体的な判断基準やプロセスそのものをクレームに規定することが望ましいといえます。
(2)「程度表現」をクレームに使わざるを得ない場合、客観的基準を必ず与える
「最適な」のような「程度表現」をクレームに使わざるを得ない場合、実務家は、通常、明細書でその意義の明確化および拡大化を図ろうとし、定義と共に多数の具体例を記載することを試みます。本件では、唯一の指標のみでなく複数の指標が具体例として明細書に記載されていたため、指標を列挙するのみでは事足らず、各指標が競合した場合の優先順位の記述が必要になりました。しかし、その優先順位に関する記述が明細書から欠落していました。また、明細書には、「最適な」を「トレースルート」に依拠せずに把握するいくつかの拡張要因も客観性の低い文言で離散的に記載されており、この記載が却って問題の用語の不明確さを顕在化する格好になりました。
したがって、実務家は、「程度表現」をクレームに使わざるを得ない場合、その用語の意義を広げるために明細書に多数の具体例を記載することのみに気をとられるのではなく、クレーム全体の記載を考慮して、客観的基準が明細書に与えられるように注意すべきです。
[担当]深見特許事務所 中田雅彦
[情報元]
1. McDermott Will & Emery IP Update | December 4, 2025 “From ‘best’ to bust: Multiple methods to determine “optimal/best” render claims indefinite”
2. Akamai Technologies, Inc. v. MediaPointe, Inc., AMHC, Inc., Case No. 24-1571 (Fed. Cir. Nov. 25, 2025) (Taranto, Stoll, Cunningham, JJ.)(判決原文)
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1571.OPINION.11-25-2025_2609454.pdf

