国・地域別IP情報

2025年11月施行のデザイン保護法およびそれと同日に施行された改訂デザイン登録審査基準の概要、ならびに、現行法下における韓国デザイン制度の特徴

 従来の一部審査登録制度[i]の運用上の課題や、権利濫用の懸念、真正権利者保護の必要性を踏まえ、2025年の初め頃から、韓国において制度の実効性と公正性を高める方向でデザイン保護のための法令の見直しが行なわれました。

 2025年11月28日に施行された韓国のデザイン保護法改正および同日施行の韓国特許庁(KIPO)によるデザイン登録審査基準の改訂は、迅速な権利付与と権利の質の確保との均衡を図ることを主たる目的とするものです。

 以下、今回の改正・改訂に至る背景、改正・改訂の主な内容および実務上の意義を説明し、さらに、現行法下における韓国のデザイン保護制度の特徴について、日本の意匠制度との対比を含めて言及します。

 

1.20251128日施行の韓国デザイン保護法の改正について

(1)改正の背景

 韓国のデザイン制度は、迅速な権利化を重視する政策の下で発展してきました。とりわけ「一部審査登録制度」は、文末注1で述べたように、流行性・短命性の高い分野(例:ファッション、生活雑貨、包装容器等)を対象に、実体審査の範囲を限定して早期登録を可能とする制度[ii]です。これにより、出願から短期間で権利取得が可能となり、実務上広く活用されてきました。

 しかしながらこの一部審査登録は、実体審査が限定的にのみ行われることから、明らかに新規性を欠く出願や、既存デザインと実質的に同一又は極めて類似する出願が登録される事例が指摘されていました。その結果、登録後の無効審判や異議申立に依存する場面が増加し、第三者の負担や制度の信頼性に影響を与えるとの懸念が生じていました。

 さらに、2025年6月16日施行の改訂デザイン登録審査基準や、同年7月22日施行の改正デザイン保護法における懲罰的損害賠償の上限引上げ(以下の項目「4.(4)」で改めて説明します。)等により、権利行使面が強化されたこととの均衡上、登録段階での適切なスクリーニングの必要性が一層高まりました。こうした背景のもと、迅速性を維持しつつも、明白な瑕疵を排除できる制度への転換が求められ、今回の改正に至ったものです。

 なお、2025年6月16日施行の改訂デザイン登録審査基準および同年7月22日施行の改正デザイン保護法については、弊所HP「国・地域別IP情報」において2025年9月18日付で配信した韓国関連記事(https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/14338/)をご参照下さい。

(2)主な改正事項

 i)一部審査登録制度における審査権限の強化

 一部審査登録手続きにおいては、従来は形式的審査が中心でしたが、主として改正デザイン保護法[iii]第63条(拒絶理由)第2項および関連規定の今般の改正により、一部審査出願においても、明らかな新規性欠如や先願衝突が認められる場合など明白な登録要件違反については審査官が拒絶可能であることが明確化されました。

 ii)一部審査登録デザインに対する異議申立制度の拡充(第68条等)

 デザイン登録異議申立て関連条項の改正により、一部審査登録デザインに対する異議申立期間が、従来の公告日基準に加え、侵害通知を受けた日から一定期間内にも異議申立てが可能となり、実質的な救済機会が拡大されました。

 iii)正当な権利者の保護強化(権利移転請求制度の導入、第96条の2

 無権原者による出願に対して、真正権利者が裁判によりデザイン権の移転を請求できる制度が整備されました。これは、無効審判を経ることなく、実体的権利帰属を直接是正する仕組みとして意義を有します。

 iv)出願手続きの簡素化・書式変更(主として第37条)

 出願書類の簡素化や手続の合理化が図られ、実務負担の軽減と国際的整合性の向上が意図されています。

 

2.同日施行のデザイン登録審査基準の改訂について

 2025年11月施行の改正デザイン保護法と同日に施行された改訂デザイン登録審査基準は、以下のように、上記法改正を具体的に運用へ落とし込む内容となっています。

 (i)一部審査対象出願に対する拒絶判断基準が明確化されました。どのような場合に「明らかな」新規性欠如と判断するのか、具体例を挙げて整理され、審査官の裁量の範囲が明示されています。これは法改正による審査権限拡張と直接対応する改訂です。

 (ii)異議申立期間の起算点や必要書類に関する実務指針が整備されました。侵害通知の意義や証拠資料の取扱いなどが具体化され、法改正により拡張された異議制度の円滑な運用を支えています。

 (iii)部分デザインの名称記載要件が、部分デザインの対象となる物品の部分の名称をより自由に記載できるように緩和されました。この改訂により、部分デザイン登録出願の名称の不備を指摘されにくくなることが期待されます。

 (iv)ヘーグ協定に基づく国際デザイン出願について、国内出願と整合的に審査するための取扱いが明確化されました。具体的には、国際登録日を基準とする権利発生時期や、図面・画像の記載要件の判断方法が整理されています。また、補正や拒絶理由通知の手続についても、国際事務局経由の手続との関係が明確にされ、これにより、国際出願と国内実務との運用の統一が図られています。

 以上のように、デザイン登録審査基準改訂は法改正の実効性を担保する運用面の整備と位置付けられます。

 

3.改正および改訂の実務的意義

 今回の改正・改訂の最大の意義は、「迅速な権利化」と「権利の質の確保」の両立を制度的に図った点にあります。一部審査登録制度は引き続き維持されるものの、明白な瑕疵のある出願は登録段階で排除されるため、登録デザインの信頼性は向上します。

 また、真正権利者保護制度の整備により、冒認出願への対応が迅速化し、企業間紛争の抑止にも寄与すると考えられます。さらに、異議制度の拡充は、実務上侵害警告を受けた後に防御手段を講じる余地を広げるものであり、被疑侵害者側の防御戦略にも影響を与えます。

 出願人にとっては、従来以上に先行意匠調査や出願前確認の重要性が増しており、登録後の安定性を見据えた戦略的出願が求められる局面に入ったといえます。

 

4.現行法下における韓国デザイン保護制度の特徴

 上記改正を経た現行法下において、韓国のデザイン保護制度は以下のような特徴を有します。

(1)一部審査登録制度の存在

 韓国制度の最も特徴的な点は、「一部審査登録制度」(文末注1および2をご参照下さい)が明確に制度化されていることです。この制度により、出願から登録までの期間が短縮されるため、市場投入と同時期に権利を取得できるという実務上の大きな利点があります。他方で、従来は実質的な新規性審査が限定的であったため、登録後に無効審判や異議申立てにより争われる事例も少なくありませんでした。

 2025年11月施行の改正デザイン保護法により、明白な新規性欠如等については登録前に拒絶可能となり、迅速性と権利の質との均衡が図られました。

(2)保護対象について

 (i)保護対象としてのデザインの定義

 デザイン保護法第2条第1項において、「デザイン」は、「物品[物品の部分、字体、及び画像を含む。以下同じ]の形状・模様・色彩またはこれらの結合であって、美感を起こさせるもの」と定義されています。ここでいう「画像」は、ディスプレイ装置に表示される視覚的デザインなどを含み、特定の物品と必ずしも物理的に結合していない画像単体での保護を可能にしており、GUI[iv]におけるアイコン、情報表示レイアウト、画面の遷移等も保護対象となり得ます。

 (ii)部分デザイン保護の明確化

 韓国では、物品全体のみならず、その一部についても独立してデザイン登録を受けることが可能です(第2条第1項の「デザイン」の定義規定に、物品の部分の形状等を含むことが明記されています)。部分デザイン制度は、製品の特徴的部分(例えば自動車のヘッドライト形状、スマートフォンの画面縁部形状など)を個別に保護することを可能にし、実務上広く活用されています。

 図面において実線と破線を用いることにより保護範囲を明確に区別する運用が確立されており、審査基準においても具体的な記載方法が示されています。これにより、侵害判断における保護範囲の特定が比較的明確であり、紛争予防にも寄与しています。

 iii)関連デザイン制度(第35条)

 基礎デザインと類似する複数のバリエーションを一定期間内[v]に出願することで、関連デザインとして登録可能とする制度が整備されています。これにより、製品シリーズ全体を包括的に保護する戦略的出願が可能です。

 関連デザイン制度は、デザインの連続的改良や市場展開を前提とする企業活動に適合した制度であり、特に家電、自動車、ファッション分野で有効に機能しています。類似範囲内の意匠を計画的に囲い込むことができる点が実務上の利点です。

(3)登録後の異議申立(第68条)、登録無効審判(第121条)に関する制度の充実

 韓国では、登録後のチェック機能として、異議申立制度および無効審判制度が整備されています。特に一部審査登録制度の存在を前提として、登録後に第三者が権利の有効性を争う機会が制度的に保障されています。

 2025年11月施行の改正により、侵害通知を契機とする異議申立ての機会が拡張され[vi]、実質的な防御手段が強化されました。これにより、登録制度の迅速性を維持しつつ、後発的な是正メカニズムが制度内に組み込まれていると言えます。

(4)懲罰的損害賠償制度(第115条第7項)

 韓国では、故意侵害に対する懲罰的損害賠償制度が導入されており、2025年7月改正により、3倍であった賠償上限が5倍に引き上げられました。これは、単なる損害填補にとどまらず、侵害行為に対する抑止的機能を重視する制度設計と言えます。

 この制度は、デザイン模倣が多発する市場環境に対応するための政策的措置であり、企業に対してコンプライアンス意識を強く求めるものとなっています。実務上は、侵害訴訟における立証活動や和解交渉にも大きな影響を及ぼします。

(5)国際出願制度との整合(第173条~第206条)

 韓国はハーグ協定に加盟しており、国際意匠登録制度を通じて韓国を指定することが可能です。これにより、多国間での一括出願・一括管理が可能となり、国際企業にとって利用しやすい制度となっています。

 また、国内制度も国際基準との整合を意識して整備されており、出願様式や図面要件、代理人制度などにおいて国際的調和が図られています。

(6)権利移転請求制度(第96条の2

 無権原者による出願・登録に対し、真正権利者が裁判所に対して権利移転を請求できる制度が整備されています。これは、単に登録を無効にするのではなく、正当な創作者に権利を帰属させることを可能にする制度です。

 この仕組みにより、冒認出願に対する救済の実効性が高まり、企業間の不正競争的行為を抑止する効果が期待されています。

 

5.日本の意匠制度との対比

 韓国のデザイン保護制度と日本の意匠制度とは、以下のような共通点、相違点があります。

(1)共通点

 韓国のデザイン保護制度は、部分意匠制度を採用し、関連意匠制度、秘密デザイン制度(最長3年の秘匿が可能)が整備され、国際登録制度へも対応している点などにおいて、日本の意匠制度と共通しています。また、韓国、日本のいずれも実体審査主義を基本としています。

(2)相違点

 (i)韓国では、デザインの物品との結合が必須ではなく、たとえば画像単体での保護が明確に可能です。日本でも、2019年改正により画像単体の意匠登録も可能となりましたが、画像については、意匠法第2条第1項の定義規定の括弧書きにおいて「機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。」と規定されており、韓国と比較すると、画像保護の対象範囲にはなお制度的差異が見られます。

 (ii)韓国には一部審査登録制度が存在し、迅速登録を制度的に確保していますが、日本の意匠法には、一部審査登録制度のような簡易審査型登録制度は設けられていません。

 (iii)関連意匠について、日本の意匠法第10条第1項では「本意匠登録出願の出願日から10年を経過する日前まで出願することが可能であるのに対して、韓国においては、関連意匠出願を行なえる期間が「基本デザインのデザイン登録出願日から3年以内(第25条第1項)」と比較的短くなっています。

 また、2020年改正の日本の意匠法では、「関連意匠の連鎖」(ある本意匠(最初の基礎となる意匠)に基づいて出願・登録された関連意匠を、さらに別の関連意匠の「基礎意匠」として出願できる制度)が導入されましたが、これに対応する制度は、韓国デザイン保護法には規定されていません。

 (iv)また、韓国では実損害額の最大5倍まで損害賠償額を増額可能であり、制裁的性格を有しますが、日本では実損填補が原則であり、懲罰的損害賠償制度は設けられていないという点で、制度上相違します。この差異は、侵害リスク評価、訴訟戦略、企業コンプライアンス体制に直接的な影響を与える、実務上きわめて重要な相違点と言えます。

 (v)さらに、韓国デザイン保護法第96条の2に規定する無権原出願への権利移転請求ができることについては、日本の意匠法には直接的に対応する規定は定められておらず、韓国デザイン保護制度特有の規定であると言えます。

 (ⅵ)韓国では一部審査登録に限って異議申立が認められますが(異議申立期間については文末中6参照)、日本の意匠法では異議申立制度は設けられておりません。

 

 

[i] 韓国デザイン保護制度における「一部審査登録制度」とは、ファッション関連等の流行サイクルが短い一定の物品のデザインについて、通常審査よりも簡略化された範囲の審査により迅速に登録を認める制度を言います。主として方式的要件や明白な不登録事由の有無を中心に審査が行われ、実体的要件の一部は登録後の無効審判等に委ねられる点に特徴があります。「デザイン一部審査登録」の法的定義は、デザイン保護法第2条第6項に規定されています。

[ii] 現行のデザイン保護法第37条第4項に、「デザイン一部審査登録出願をすることができるデザインは、物品類区分のうち産業通商資源部令で定める物品に限定する。この場合、該当物品に対してはデザイン一部審査登録出願だけで出願することができる。」と規定されています。条文については、崔達龍国際特許法律事務所作成の2025.5.27公布の改正デザイン保護法の和訳(https://www.choipat.com/pds/siryou/choipat_23_20250527.pdf)を参照しています。

[iii] 以下に挙げる条文のいずれも、2025年11月施行の改正デザイン保護法のものであることから、法律名を省略しています。

[iv] GUI(Graphic User Interface)とは、ユーザが機器やソフトウェアを操作するために、画面上の視覚要素(操作用ボタン、アイコン、画面遷移等)を通じて構成される操作環境を指します。

[v] 第35条第1項に、「基本デザインとだけ類似のデザイン(関連デザイン)に対しては、その基本デザインのデザイン登録出願日から3年以内にデザイン登録出願された場合に限って第33条第1項各号及び第46条第1項・第2項にもかかわらず関連デザインでデザイン登録を受けることができる。」と規定されています。

[vi] 第68条(デザイン一部審査登録異議申立)第1項に、「誰でもデザイン一部審査登録出願によってデザイン権が設定登録された日からデザイン一部審査登録公告日後3ヶ月となる日まで、またはデザイン権侵害に関する通知を受けた者は、その通知を受けた日から3ヶ月となる日までそのデザイン一部審査登録が次の各号のいずれかに該当することを理由に特許庁長にデザイン一部審査登録異議申立をすることができ、……」と規定されています。

[担当]深見特許事務所 野田 久登

[情報元]

1.Kim&Changニュ-スレター「韓国デザイン審査基準の主な改訂事項」2026.2.13

          https://www.ip.kimchang.com/jp/insights/detail.kc?sch_section=4&idx=34007

2.ジェトロソウル事務所「韓国知識財産処、部分デザインの名称記載要件の緩和などデザイン制度の簡素化」2025.11.14

        https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/ipnews/2026/251114.html

3.ジェトロソウル事務所「韓国特許庁、ユーザーフレンドリーの観点で『意匠審査基準』を改正」2025.6.16

        https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/ipnews/2025/250616b.html

4.ジェトロソウル事務所「韓国デザイン保護法の保護対象拡大」2021.10.13

        https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/article/887455c8520ac1ce.html

5.HA&HA特許&技術レポート2025-7「出願人の便宜・権利保護の強化」特許庁、デザイン審査基準を改正

         http://haandha.com/html/jp/media_letter-view.php?no=115&search=&search_text=&start=0