国・地域別IP情報

欧州司法裁判所が更なるSPC の指針を示す<抄訳>

 2013 年12 月12 日の判決3件(C-493/12, C-443/12, C-484/12)で、欧州司法裁判所はSPC(Supplementary Protection Certificates)について、以下の4点の指針を示しました。
 (1)医薬品が基本特許で「保護」されるとは?<SPC 3 条(a)>
 SPC 3 条(a)は、SPC の許可要件として対象医薬品が基本特許に保護されていることを規定します。先の判決C-322/10 (Medeva)では、特許クレームに有効成分が「特定」されていない場合、3 条(a)によってSPC は許可されないと判断されています。この度、C-493/12 (Eli Lilly v. HGS)で、特許クレームが機能表現のみで医薬品を規定している(具体的には、ニュートロカインαに結合する抗体)場合に、同抗体医薬品についてSPC が許可され得るかが争われ、「明細書の記載を参酌してEPC 69 条及びその解釈に関するプロトコールに基づいて、特許クレームが暗黙的に、しかし必然的に明確に有効成分に関わる(relate to)場合、3 条(a)はSPC の許可を妨げない」と判断されました。
 欧州司法裁判所が上記判断を示したことは歓迎されます。しかし、「特許クレームが暗黙的に、しかし必然的に明確に有効成分に関わる」との基準は、依然として明確ではありません。本判決はクレームで明確に医薬化合物を定義することが重要であることを示していますので、審査係属中に臨床試験等で医薬化合物がより明確になった場合、同化合物を特定する狭い従属項を導入することが望まれます。また、先の出願に続いて、医薬化合物をしっかり定義する出願を行うことも重要と思われます。
 (2)1つの基本特許に基づいて複数のSPC が認められ得るか?<SPC 3 条(c)>
 SPC 3 条(c)は、SPC の許可要件として対象医薬品がSPC の対象となっていないことを規定します。先の判決C-181/95 (Biogen)とC-322/10 (Medeva)では、多数の医薬品が製造承認された場合に、1つの特許に基づいて複数のSPC が許可されるかは不明でした。この度、C-484/12 (Georgetown v. Octrooicentrum)で、上記の場合、1つの特許に基づいて複数のSPC が許可されることが明らかにされました。
 (3)組合せ医薬品についてのSPC の許容性<SPC 3 条(c)>
 C-443/12 (Actavis v. Sanofi)で、組合せ医薬品についてのSPC の許容性が争われました。Sanofi は先にイルベサルタンについてSPC の許可を受けており、今回イルベサルタンとヒドロクロロチアジドの配合剤についてSPC 申請を行いました。欧州司法裁判所は、最初の単剤のSPC によって競合会社は同剤を含む配合剤についても販売できないことを考慮して、かかる状況ではSPC は許可されないと判断しました。
 本判決は、単剤のSPC と配合剤のSPC が同一特許に基づく場合に限定されるとも思われます。ついては、配合剤に関する発明を分割出願とすることで、配合剤のSPC が許可されると思われますので、今後、分割出願の検討が望ましいかもしれません。
 (4)SPC 申請者が医薬製造承認のための臨床試験を行っていない場合のSPC の許容性
 C-493/12 (Eli Lilly v. HGS)の前審の英国特許裁判所で、無関係の第三者の製造承認に基づいたSPC は認められるべきではないとEli Lilly は主張しました。この点は、欧州司法裁判所に質問が付託されませんでしたが、欧州司法裁判所は、特許権者が医薬品について投資をしていない場合はSPCの拒絶は正当化され得るとの見解を示しました。
 しかし、Eli Lilly によるタバルマブの開発と同時に、HGS もベリムマブの開発をしていたため、同裁判所の見解は本件には当たらないと思われます。

[情報元]JA KEMP, Breaking News from the CJEU, December 12, 2013
[担当]深見特許事務所 中村敏夫