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(欧州)英国のEU離脱によるEU商標権への影響

ご存知のように、英国は、国民投票でEU離脱を決めました。ここでは、英国のEU離(「Brexit」)がEU商標権に与える影響についての一般的な質問をいくつか取上げます。
 今のところBrexitの全影響は不透明なままですが、入念に進展を監視し続け、法的状況が英国とEUにより公表され次第、適時情報を更新します。
何が変わったか?
 現在、EU知的所有権や法律に何の変更もないことを知っておくことが重要です。とりわけ、英国内においてもその他の27の加盟国内においても、単一であってEU全体に及ぶ商標の範囲、有効性、そして、権利行使可能性は、同じままです。おそらく最短でも2年はかかると思われる交渉の後に起こる英国の実際のEU離脱まで、そのままです。
既存のEU商標権はどうなるか?
 英国のEU離脱が完了した時点で、既存のEU商標権は、もはや英国をカバーしなくなるでしょう。
 一方で、EU商標権は英国をカバーし続けるかもしれません。現在、状況は不透明ですが、例えば、優先日又は出願日を享受しつつ既存のEU商標権を英国商標権に変換することで、EU商標権が英国において効力を維持し続けることを保証するような適切な立法が施行されることを期待しています。
 しかし、英国内のみでの、又は、主に英国内でのEU商標の使用の場合、そのような使用は長期的には潜在的無効に対しEU商標権をサポートできそうにないことに留意することが重要です。よって、EU商標権の所有者には、必要に応じて戦略的かつ補足的国内出願を行なうべく、その商標の使用領域をレビューすることをお勧めします。
既存のEU商標権におけるシニオリティ主張はどうなるか?
 EU商標権における英国商標権に基づくシニオリティ主張は、いずれも、EU離脱の日に効力を失うでしょう。その他のシニオリティ主張は影響を受けないでしょう。
 英国内において商標の最善の保護を確保するため、シニオリティ主張の根拠とした英国商標権を全て維持するよう、EU商標権の所有者にアドバイスします。英国商標権が、欧州連合知的財産庁(EUIPO)でのシニオリティ主張の後に既に消滅している場合には、シニオリティ主張の消滅後の国内商標権の回復についての現行のEU規則に倣い、消滅した英国商標権の効力が回復することを保証するような立法が施行されることを期待しています。
EUを領域指定する国際登録はどうなるか? 
 EUを領域指定する既存の国際登録はいずれも、英国のEU離脱後に、別途英国を指定する必要があるでしょう。この点を取上げる立法が施行され、優先日又は出願日の効果を喪失することなく、国際登録のEU指定の英国指定への変換を認める可能性があります。EUと英国とにおいて完全な保護を得るには、EU離脱後に出願される国際登録はいずれも、EUと英国との両方を指定する必要があります。
既存の登録と新出願に関し行なうべきことは?
 英国が実際にEUを離脱するまで、既存のEU商標権は完全に有効で権利行使できるままです。
 しかし、移行期間中の新規商標出願に関しては、EU商標出願とは別に英国出願をされることをお勧めします。こうすることで、英国における長期間にわたる保護が一層確実となり、後日EU商標を変換する必要性を回避することができます。更には、既存の英国商標登録の全てを維持しておくことをお勧めします。
EU領域内の使用許諾のような知財財産権契約は影響を受けるか?
 EU商標を含み、又は、契約範囲にEUを特定する使用許諾契約のような知財関係の契約書の全てをレビューすることをお勧めします。契約書がEUを離脱する可能性のある国について明確に取決めていない限り(ありそうにもないですが)、その契約書が英国のEU離脱後も英国をカバーするかどうかという問題は、解釈が自由となります。一般的には、契約書に矛盾する事項がない限り、(英国法が準拠法である場合に)その契約書は、契約締結時において当事者等は英国を含めるつもりであったという前提で、なお英国を含むと解釈されます。しかし、どのような契約書であっても、状況は常にその問題となっている個々の契約書の事情に左右され、よって、そのような契約書をレビューし、具体的なアドバイスを得て、必要に応じて将来有益となる可能性のある契約書の変更に合意しておくことの重要性に気づくことが重要です。
「権利の消尽」の原則はどこまで商標に適用され続けるか?
 現在、権利者により、又は、権利者の同意を得て、一旦商品が欧州経済領域内(EEA)に流通し始めると、関連する商標権は「消尽した」と考えられ、権利所有者は単一市場内において商品の更なる自由な動きを阻止することはできません(商品の状態の変化といった正当理由がない限り)。
 権利の消尽が英国に適用され続ける範囲は、英国がEEAのメンバー(現在の参加国は、EU加盟国の全てと、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー)に残るかどうかによって大きく左右されます。しかし、英国がEEAを離れるか、英国政府が国際消尽について制限的な見方をするならば、権利所有者はEUから英国への輸入を制限することができることになり、逆の場合も同じとなります。

[情報元]D Young & Co Brexit & Trade Marks , July 15, 2016
[担当]深見特許事務所 中島 由賀