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コンピュータ関連発明に関する拡大審判部への付託

 事件番号T0489/14の審決において、コンピュータ関連発明(特に、コンピュータシミュレーションに関する発明)の特許性に関する質問が拡大審判部に付託されました。この付託には、番号G1/19が割り当てられています。
 この事件に係る発明は、駅やスタジアム等の場所の設計を促進するために用いられる歩行者の動きのモデリングに関し、従来のシミュレータでは適切にモデル化できないリアルなシミュレーションを提供するものです。
 この発明に係る出願は、審査部において、シミュレーションモデルは非技術的であり、コンピュータ上での実装は自明であるとして、進歩性が欠如しているとの理由で拒絶されました。出願人は、これを不服として審判部へ審判請求しました。審判請求においては、回路シミュレーションに関する審決T1227/05に依拠して、環境における歩行者群の動きのモデル化は、コンピュータで実施される方法に対する技術的目的を十分に定義しているとの主張がなされました。しかし、審判部は、審決T1227/05で与えられた推論を疑いました。そして、審判部は、数値開発ツールの重要性を認識し、そのようなツールの特許性に関する法的確実性が非常に望まれるとの見解を示しました。そこで、審判部は、シミュレーション方法の特許性に関して審決をするために、以下の質問を拡大審判部に付託しました。
 1.進歩性の評価において、技術的システムまたはプロセスにおける、コンピュータで実施されるシミュレーションは、コンピュータ上のシミュレーションの実施を超える技術的効果を生み出すことによって技術的課題を解決し得るのか(もし、コンピュータで実施されるシミュレーションがそのようにクレームされていれば)?
 2.最初の質問に対する答が「はい」の場合、そのようにクレームされたコンピュータで実施されるシミュレーションが技術的課題を解決するかどうかを評価するための関連基準は何か?特に、シミュレーションが、シミュレートされたシステムまたはプロセスの基礎となる技術的原理に少なくとも部分的に基づいていることは十分な条件なのか?
 3.コンピュータで実施されるシミュレーションが、特に設計の検証のために、設計プロセスの一部としてクレームされている場合、最初の質問および2番目の質問に対する答は何か?
 今日の研究開発におけるコンピュータシミュレーションの重要性を考えると、拡大審判部による決定は大きな影響を与えることになるため、製品設計の際にコンピュータモデリングおよびシミュレーションを利用するユーザにとってはこの付託は興味深いものになると考えられます。

[情報元]Venner Shipley Breaking News, March 1, 2019
[担当]深見特許事務所 勝本 一誠