国・地域別IP情報

確定したPTABの最終決定は正に「最終」である

 USPTO特許審判部(PTAB)の当事者系レビュー(IPR)において特許無効の最終決定を受けた特許権者は、連邦地裁の侵害訴訟において、その決定に対する不服申立ないし間接的攻撃を行うことはできないと連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は判示しました(Personal Audio, LLC v. CBS Corporation, Case No.18-2256 (Fed. Cir. Jan. 10, 2020))。
 NPEであるPersonal Audioは、2013年にCBSに対し、自己の特許権(U.S. Patent No. 8,112,504)に基づく特許侵害訴訟を提起しました。2014年9月に、陪審裁判において、CBSによる130万ドルの損害賠償が認められました。この裁判の係属中に、第三者であるElectronic Frontier FoundationによるIPRの審理がUSPTOにおいて進み、2015年4月にPTABは侵害訴訟に係属するクレームに係る特許は無効であるとの最終決定を発行しました。
 Personal AudioとCBSは、IPRが決着するまで、連邦地裁での侵害訴訟の審理を停止することに同意しました。結局、連邦巡回控訴裁判所はPTABの無効の決定を支持し、最高裁もPersonal Audioの上訴を棄却しました。特許無効の決定が確定したことを受け、CBSは連邦地裁においてPersonal Audioの請求を棄却することを求めました。Personal Audioは、陪審によって認定された事実は合衆国のいずれの裁判所においても再審理されることはないという合衆国憲法修正第7条を根拠に反論しましたが、連邦地裁には認められませんでした。Personal Audioは、これを不服として連邦巡回控訴裁判所に上訴しました。
 このたび、連邦巡回控訴裁判所においても、Personal Audioの主張は退けられました。裁判所は、AIAの制定に際して、PTABの最終決定についての連邦地裁の管轄権を排除することを議会が意図していたかという点を考慮しました。裁判所は、メリットシステム保護委員会(MSPB)[注:米国の人事行政機関]の決定の考え方を類推適用し、PTABの決定についても、MSPBの決定と同じく、連邦地裁が管轄権を有するものではないと結論づけました。連邦巡回控訴裁判所は、2012年の最高裁判決であるElginケースを引用し、MSPBの決定については、並行する連邦地裁において不服申立を行うことはできず、PTABの決定についても、これと同様であるとしました。
 本件において、連邦地裁の審理が停止されなければ、IPRの決定により陪審の評決が覆されるという結論は回避し得ました。しかし、多次元の特許紛争においては、たとえば有利な和解条件を得ようとするとき、相反する利害がしばしば生じ得ます。本件は、IPRの審理が進行中である場合に、連邦地裁での侵害訴訟の審理を進めるか否かを検討する際に考慮すべき得失を示唆しています。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update – January 22, 2020
[担当]深見特許事務所 高橋 智洋