最高裁判所が実用新案技術評価書を権利行使時の免責要件と認定
台湾の知的財産裁判所は、2019年12月31日に不当な権利行使に関する差戻し判決(108年度民専上更一字第1号。以下、本件という)を下しました。この判決の主旨によれば、実用新案権者又は実用新案権者の地位を自任する者が、実用新案技術評価書を提示せずに、他人が自分の実用新案権を侵害した可能性があると対外的に主張し、その後、当該実用新案の登録が無効審判で取消された場合、実用新案権者が侵害告発の際に侵害対比報告書を根拠としたとしても、専利法、公平交易法及び民法などの関連規定に違反する可能性があるため、損害賠償責任を負い、新聞に謝罪広告を掲載しなければなりません。
専利法第116条、第117条には、それぞれ「実用新案権者が実用新案権を行使するときには、実用新案技術評価書を提示しなければ警告することができない。」、「実用新案権者の実用新案権が取消された場合、それが取消される前にその実用新案権を行使することによって他人に与えた損害について、賠償責任を負わなければならない。ただし、実用新案技術評価書の内容に基づいており、相当の注意をしたときには、この限りでない。」と規定されています。本件の主な争点は、第117条のただし書き中の「実用新案技術評価書の内容に基づいて」が、実用新案権者が免責されるための必要条件の一つなのか、或いは単なる例示的な規定に過ぎないのか(即ち、実用新案権者は、ほかの方法で相当の注意を払ったことを証明することができ、それにより免責可能となるのか)であります。
本件の第一審及び第二審の裁判所はいずれも、専利法第117条のただし書き中の「実用新案技術評価書」が、実用新案権者自身に故意または過失のないことを立証する方法の例示に過ぎないと認定し、実用新案権者が「実用新案技術評価書」に基づかないが、客観的な証拠をもってほかの必要な注意義務を果たしたことを証明できる場合、実用新案権者に権利侵害の責任を負わせるべきではないとしました。本件の被告は係争実用新案の侵害対比報告書を根拠としており、既に必要な注意義務を果たしたため、不当な権利行使に当たらないとして、原告の請求は棄却されました。原告はこれを不服として最高裁判所に上訴しました。
最高裁判所は、「専利法第117条の改正目的は、方式審査を経て実用新案権を取得した者が、権利を濫用し又は不当な権利行使をするのを防止することにある。実用新案登録が取消された場合、実用新案権者は他人に与えた損害について賠償責任を負うべきであり、その免責事由の立証責任も加重されるべきである。つまり、免責されるためには、実用新案技術評価書の内容に基づき、且つ相当な注意を払ったことを証明しなければならないと明確に規定されているため、「実用新案技術評価書」は実用新案権者が免責されるための必要要件であり、単なる例示ではない」との見解を示した後、本件の審理を知的財産裁判所に差戻しました。
知的財産裁判所は、差戻し後の裁判において最高裁判所の示した上述の見解に基づき、「被告は実用新案技術評価書を請求していない、つまり、実用新案権者の地位をもって原告が係争実用新案権を侵害したり、被告の所有するアプリケーションを模倣したりしたと主張しているが、被告には係争実用新案の有効性について合理的に信用できることを証明できるほかの証拠がないことから、被告が実用新案権を正当に行使しなかったことが分かる」として、専利法、公平交易法の営業誹謗行為及ぴ民法の名誉毀損に関する規定に基づき、原告の損害賠償の支払いと、新聞への謝罪広告の掲載を命じる判決を下しました。
実用新案技術評価書の検索範囲は、専利法第115条第4項の規定によると新規性、進歩性、拡大先願による新規性喪失、先願原則に限られており、専利法第119条に定めているそのほかの実用新案権の無効審判請求事由は含まれていません。このことによって実用新案技術評価書の信頼性が高くなくなっています。本件の判決によって、実用新案権者は権利行使をする前に、専利主務官庁に実用新案技術評価書を請求することが促され、これにより実用新案権者による方式審査制度を利用した実用新案権の濫用がある程度抑えられる点で、本件の判決は重要な意味をもつと言えます。
[情報元]連邦国際専利商標事務所 連邦速報|June, 2020
[担当]深見特許事務所 杉本 さち子