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CAFCは、クラウドストレージの3件の特許クレームについて、不明瞭なため無効であるかまたは非侵害であると判断した

Synchronoss Technologies, Inc. v. Dropbox. Inc., Case No.19-2196, -2199(Fed. Cir. 2021年2月12日)(Reyna, J.)

1.概要
米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、データ同期に向けられた3件の特許に関する地裁の判決、すなわち:
 ・ミーンズ・プラス・ファンクションクレーム(means plus function claim)の要素をサポートするのに十分な構成の開示を欠いているため不明瞭である
 ・クレームの範囲に関して不可能である
 ・クレームは侵害されていない
という判断を支持しました。
2.経緯
 ① Synchronoss社は、
(ⅰ)インターネット経由で接続された複数のデバイス間でのデータの同期(米国特許6,671,757号)、
(ⅱ)同期エージェント管理サーバー(米国特許6,757,696号)、および
(ⅲ)ネットワーク結合デバイスへのメディアデータの転送(米国特許7,587,446号)、
に関連する3つの特許の侵害についてDropbox社に対して訴訟を起こしました。
 ② 地裁はこれら3件の特許について以下のように判断しました。
(ⅰ)最初の特許(米国特許6,671,757号)に関して、地裁は、Dropbox社の被疑侵害製品は完全にソフトウェアの内に存在していたのに対し、クレームは解釈上ハードウェアを必要としたため、Dropbox社は侵害していないと認定しました。
(ⅱ)次に、2番目の特許(米国特許6,757,696号)に関して、地裁は、「ユーザー識別子モジュール」を含むさまざまなクレーム用語が明細書の十分な構成に対応していないため、この特許のすべてのクレームは米国特許法第112条第6項の下に不明確であるので無効であると認定しました。
(ⅲ)最後に、3番目の特許(米国特許7,587,446号)に関して、地裁は、その範囲内に不可能なこと、すなわち「デジタルメディアファイルのディレクトリを含む[単一の]メディアファイルの生成」を含むため、米国特許法第112条の下で無効であると認定しました。
 ③ Synchronoss社は、3つの判断すべてについて控訴しました。
3.CAFCの判断
 CAFCは、地裁のこれらの判断に以下のように対応しました。
 ① 1番目の特許(米国特許6,671,757号)に関して
 CAFCは、地方裁判所による非侵害の認定に対処しました。地方裁判所で、Synchronoss社は、「デバイス」というクレーム用語は、「…ハードウェアに存する…ソフトウェア」を含むものであるとする解釈を提案し、そのクレームは、「・・・ハードウェアから完全に切り離されたソフトウェア」をカバーできないことを認めました。CAFCは、「ハードウェア」という用語は、主張されたクレームの範囲をハードウェアコンポーネントを含むように限定しましたが、Dropbox社は顧客にソフトウェアを提供しただけであると結論付けました。Synchronoss社は、Dropbox社が発明全体を使用したと主張しましたが、CAFCはその意見に対して、「顧客が使用するためにソフトウェアを適用することは、システムを使用することと同じではない」と判示されたCentillion Data Sys. v. Qwest Commc’ns事件を引用しました。
 ② 2番目の特許(米国特許6,757,696号)に関して
次に、CAFCは、ミーンズ・プラス・ファンクション要素を含むクレームが、明細書中に先行した十分な構成を欠いた用語を含むと判断されたことに対処しました。CAFCは、「ユーザー識別子モジュール」という用語を解釈するために2段階のプロセスを適用し、最初にクレームされた機能を特定し、次に明細書がクレームされた機能を実行するのに十分な構造を開示したかどうかを判断しました。クレームされた機能が「ユーザーの識別」であるというSynchronoss社の見解を採用した上で、CAFCは、明細書はクレームされたユーザー識別子モジュールに対応する十分な構造を開示していないと認定しました。Dropbox社の専門家は、システムがユーザ識別を実行できる20を超える多くの態様を各々の個別の構造とともに特定しました。Synchronoss社はむしろこのことに依拠してこのような多くの異なる構造のリストはユーザ識別子モジュールが当業者によって理解される証拠であると主張しました。しかしCAFCは、「ミーンズ・プラス・ファンクションクレームの用語が、クレームされた機能を達成するためのすべての既知の方法に対応するだけでは不十分であり、代わりに、この用語は、当業者が構造を認識し、クレームされた機能と関連付けることができるように、明細書に開示された「十分な」構造に対応しなければならない」と述べました。
 ③ 3番目の特許(米国特許7,587,446号)に関して
 CAFCは、Synchronoss社の専門家がメディアファイルにメディアファイルのディレクトリを含めることは不可能であると認めたことに注目し、不可能な範囲を含むと認定した地裁の判断に同意しました。裁判所は、当業者であれば発明が実際には別の何かを意味することを理解するだろうというSynchronoss社の主張を却下し、Synchronoss社の提案はクレームの有効性を維持するためにクレームを書き直す結果になるであろう、と述べました。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | February 25, 2021
[担当]深見特許事務所 堀井 豊