国・地域別IP情報

予想される新法の影響

 米国で2020年末に知的財産に関する2つの新法について大統領の署名がなされました。
(1)The Trademark Modernization Act of 2020
 概要は下記の通りです。
 特定の状況下において、審査段階で第三者が米国特許商標庁(USPTO)に商標の使用に疑義があるとの証拠を提出し、登録を拒絶するよう促すことができる(情報提供制度の明文化)
 再審査手続及び取消手続において、第三者が商標の不使用を理由とした取消請求(全部または一部)ができる(査定系取消手続の導入)
 Lanham法に基づく差止を求める原告に、回復不能な損害を推定する規定を定め、証拠提出の負担を軽減する(差止請求権の強化)
 この新法により、商標権者は「自社又は競合他社の商標登録がこれらの新しい取消手段の対象となる可能性があるかどうか」を、企業や実務家は「新法が今後の商標の調査にどのような影響を与えるか」及び「ウォッチングにより発見された商標をより早い段階で積極的に攻撃するか」を、差止訴訟を検討している者は「回復不能な損害の新たな推定が、訴訟戦略にどのような変化をもたらすか」を検討する必要があるといえます。
(2)The Copyright Alternative in Small-Claims Enforcement (CASE) Act
 概要は下記の通りです。
 権利者が3万USドル以下(作品毎に1万5千USドル、事件毎に3万USドル)の損害賠償を求めている場合に、連邦裁判所以外で著作権侵害の申立てを解決する任意の準司法的な裁判機関を創設する。当該法廷では、各当事者が自己の弁護士費用を負担する。この裁判機関は、アメリカ議会図書館が任命する、著作権法に精通した3人の弁護士で構成され、訴訟が提起される可能性のあった連邦管轄区の判例に拘束される。
 この法律は賛否両論であり、賛成派は権利行使が容易になることを支持していますが、反対派はこの法律を悪用する著作権トロールの出現や本来は合法である著作物の利用に対する大企業による権利濫用を懸念しています。この点に対してはいくつかの措置が取られており、例えば、無根拠な請求を却下する権限が裁判機関に与えられ、裁判機関は悪質な当事者が新たな訴訟を提起することを1年間禁止し、その者が提起した全ての係争中の訴訟を棄却することができます。
 また、この法案には、海賊版のストリーミングを主目的としたウェブサイトの運営を犯罪とする文言が含まれており、商業的利益のために海賊行為を行う企業を司法省が重罪で告発できる可能性があります。

[情報元]THE INDIANA LAWYER April 14, 2021 (“Perry and Cahr: Important new laws will have ripple effect for IP owners, practitioners” from FAEGRE DRINKER BIDDLE & REATH) 
[担当]深見特許事務所 原 智典