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韓国と日本の類似する特許制度における留意すべき相違点

 韓国の特許制度は、日本の制度と類似しているものの、多くの相違点があります。近年の特許法等の改正を経た現在の韓国特許制度には、日本の制度に慣れた実務者にとって、見過ごしがちな相違もあることから、本稿では、特に相互に類似する制度間における実務上留意すべき相違点に焦点を当てます。
 なお、以下に述べる事項のうち、2021年8月および10月公布の韓国改正特許法に規定の拒絶決定に対する審判、再審査、分離出願制度等については、弊所ホームページの「外国情報配信レポート」2021-11月号(下記URL)の「6.(韓国)最近の韓国特許法等の改正」でより詳細に説明していますので、併せてご参照下さい。

https://www.fukamipat.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2021/11/f_202111.pdf

 なお本稿においては、日本の特許制度における「特許査定」、「拒絶査定」、「新規性喪失の例外」に対応する用語として、それぞれ韓国特許実務で一般に用いられている「特許決定」、「拒絶決定」、「公知例外」を使用しています。

1.拒絶決定(日本の拒絶査定に相当)を受けた特許出願人の保護に関する規定
(1)拒絶決定に対する審判第132条の17
 (i)日本の拒絶査定に対する審判とは異なり、請求項等の補正は行なえず、補正が必要な場合は次項(2)で述べる再審査を請求する必要があります(特許法第47条)。
 (ii)2021.12.3改訂の「拒絶決定不服審判請求関連手数料算定基準」が2022.6.30に施行されたことにより、審判請求人は拒絶された請求項についてのみ審判請求手数料を負担すればよいことになった点で、審判請求時の全請求項について審判請求手数料を支払う日本の審判とは相違しています。
(2)再審査制度(詳細は、下記「情報元5.(2)」をご参照下さい)
 拒絶決定に対しては不服審判を請求することができ、日本と同様に、審判請求時に明細書、請求の範囲、または図面を補正した場合の前置審査を採用していましたが、2009年の特許法改正において廃止され、拒絶決定不服審判請求時には補正はできなくなりました。廃止された前置審査に代わる制度として、拒絶決定謄本の送達日から30日以内(2か月の期間延長が1回可能)に、出願人が、明細書または図面を補正して、再審査の意思表示をすれば、再審査を受けることができる制度が制定されました(特許法第67条の2)。
 その後、2022年4月20日施行の改正特許法において、特許決定後にも補正の機会を提供するため、拒絶決定だけでなく、特許決定された件についても、再審査請求可能になり、再審査請求期間が、特許決定謄本または拒絶決定謄本の送達日から3か月に延長されました。
 再審査請求時の明細書等の補正は、補正できる最後の機会であることに留意する必要があります。拒絶査定不服審判後には再審査請求をすることはできませんが、再審査を請求することができる期間内であれば、拒絶査定不服審判を取り下げて再審査請求をすることは可能です。
(3)職権再審査制度(特許法第66条の3
 2017年3月1日以降に特許決定された出願において、特許決定後、明らかな拒絶理由を発見した場合には、審査官は職権で特許決定を取消して再審査することができます。その場合、審査官は特許査定を取消す事実を出願人に通知しなければなりません。

2.分割出願と分離出願
(1)分割出願(特許法第52条)の時期的要件
 (i)明細書等を補正できる時期
 補正ができる時または期間に分割出願をすることができる点で、日本と共通していますが、拒絶決定あるいは特許決定を受けた場合の分割出願可能な時期について、日本とは若干相違することに留意する必要があります。
 日本では拒絶査定不服審判請求と同時に補正が可能であり、韓国では拒絶決定に対する審判を請求する場合には補正ができないことに関連して、当該審判を請求した場合には、再審査の請求ができないため、明細書等の補正の機会を失います。(ただし、分割出願については、以下に述べるように、「拒絶決定謄本送達から3か月以内」であれば、補正の機会を失っていても、行なうことが可能です。)
 (ii)拒絶決定謄本送達から3か月以内
 拒絶決定謄本送達から3か月以内に分割出願可能である点で、日本の制度と類似していますが、韓国においては、「最初の拒絶決定の謄本送達から3か月以内」に限られず、再審査での拒絶決定の謄本送達から3か月以内でも分割出願可能である点で、日本の制度とは相違しています。
 (iii)特許決定謄本送達から3か月以内
 また、再審査での特許決定の謄本送達(特許拒絶決定取消審決あるいは再審における特許決定審決の謄本送達を含む)、および、拒絶決定謄本の送達から3か月以内に分割出願可能である点でも、前置審査における特許査定や、審決により審査に付された場合における特許査定を受けた場合には分割出願を行なえない日本の制度とは相違しています。
(2)分離出願制度の導入(特許法第52条の2新設)
 2022年4月20日施行の改正特許法により新たに、日本の現在の特許制度には存在しない分離出願制度が導入されました。この分離出願については、分割出願との共通点、相違点を含めて、弊所ホームページ「外国情報配信レポート 2021-11月号(URL:https://www.fukamipat.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2021/11/f_202111.pdf)」の「6.(韓国)最近の韓国特許法等の改正について」の記事において説明していますので、ご参照下さい。また、下記「情報元2」において、分離出願の有効活用法や分割出願との相違についてより詳細に説明されています。
 分離出願制度の導入によって、拒絶決定書で拒絶されていない一部の請求項がある場合には、バックアップ用分割出願をすることなく、拒絶決定不服審判で棄却審決が出されたとしても、当該一部の請求項を権利化できる途が生まれました。その結果、特許出願人にとって次のような利点があります。
 (i)審判請求時に分割出願の機会を逃した場合であっても、審決後に分離出願を行なえることから、拒絶決定されなかった請求項を再度活用することができるようになりました。
 (ii)分割出願をせずに審判結果を見守ることとした場合にも、分離出願をするかどうかを決定するまでの時間的余裕を確保することが可能になりました。
 (iii)バックアップ用分割出願を行なう場合、出願費用に加えて、全請求項についての審査請求の費用が発生しましたが、分離出願を行なうことにより、そのような費用を削減することができます。
 (iv)さらに、バックアップ用分割出願をした場合には、原出願の審判結果が出るまでに分割出願において相当な期間の期間延長申請を必要とする場合がありましたが、分離出願を用いれば、こうした期間延長費用の削減効果も期待できるようになりました。

3.国内優先権主張出願の時期的要件
 日本の特許法(令和4年6月施行)第41条第2項第4号の規定によれば、「先の出願について、その特許出願の際に、査定又は審決が確定している場合」には、当該先の出願を国内優先権の基礎とはできません。すなわち、特許査定謄本の送達により特許査定が確定することから、日本の特許制度下では、設定登録前であっても、特許査定謄本の送達後は当該先の出願を国内優先権の基礎とすることはできません。
 それに対して韓国では、2021年11月18日施行の改正韓国特許法で改正された第55条第1項第4号において、国内優先権を主張できない場合として、「4.その特許出願をする時に先出願が設定登録されたり特許拒絶決定、実用新案登録拒絶決定、または拒絶するという旨の審決が確定された場合」と規定され、先の出願が特許決定(特許査定)された後でも、設定登録前であれば国内優先権主張の基礎とすることができます

4.公知例外規定(韓国特許法第30条、日本の新規性喪失の例外に相当)
(1)概要
 特許を受けることができる権利を有する者の発明が、特許を受けることができる権利を有する者によって公知等がされている場合、または特許を受けることができる権利を有する者の意思に反して公知等がされた場合には、その日から12か月以内に特許出願をすれば特許出願された発明に対して新規性及び進歩性を適用する際に、その発明は公知等がされていないものとみなされます。
(2)日本の新規性喪失の例外規定との対比
 (i)公知の対象
 韓国では公知形態は問われず、特許を受けることができる権利を有する者が韓国国内または国外で公知した全ての公知が対象となります。ただし、条約または法律に基づき国内または国外で出願公開や登録公告された場合は、特許を受けることができる権利を有する者による公知でないため、除外されます。
 なお、日本では、2012年4月1日施行の改正特許法が適用される前までは、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した場合、学会発表や試験、刊行物発表等、一定の公知行為にしか新規性喪失の例外規定は適用されませんでしたが、当該改正特許法により公知手段の制限は撤廃されました。よって、例外規定の対象となる公知の形態については、韓国と日本とで差異はないと言えます。
 (ii)時期的制約
 出願は公知日から12ヶ月以内にしなければならず、公知例外規定の適用を受けるためには、願書に公知例外適用を受ける旨を記載し、出願日から30日以内に証明書類を提出しなければならない点で、日本の新規性喪失例外規定と共通しています(韓国特許法第30条第2項)。
 ただし、韓国では2015年7月29日施行の改正特許法において、公知例外適用主張の補完制度(特許法第30条3項)が新設され、補完手数料を納付した場合、補正することのできる期間内(特許法第47条第1項)、あるいは特許決定謄本送達後3ヶ月以内(ただし登録料納付前)に、公知例外規定の適用を受けるための趣旨記載および証明書類を提出することができるようになりました。日本においては、そのような補完規定はありません。
 (iii)分割出願における公知例外主張について
 日本の特許制度の下では、分割出願について新規性喪失例外適用を受けることができるのは、発明が新規性を喪失した日から1年以内に原出願が出願されており、例外適用を受ける旨を記載した書面を原出願の出願と同時に行なうとともに、証明書を原出願において提出されている場合に限られます。
 それに対して韓国の審査実務では、上述のように、2015年7月29日施行の改正特許法において公知例外適用主張の補完制度が新設されことに伴い、韓国特許審査基準において「改正法の趣旨上、原出願時に公知例外主張をしていなくとも分割出願時に公知例外主張をすることは認める」とする一方で、「改正法施行日前の2015年7月28日以前に出願された原出願を基礎とする分割出願において公知例外主張をする場合は除外する」と規定することにより、公知例外主張のない原出願に基づく分割出願の公知例外主張の認定について、改正法施行の前後で異なる解釈をしていました。
 しかしながら、次の項目(3)で紹介する最近の大法院判決において、上記改正法施行の前後にかかわらず、原出願での公知例外の主張がなくても、分割出願において公知例外の主張が可能であるとの判断が示されました
(3)「公知例外」に関する最近の韓国大法院判決
 韓国大法院は、2022年8月31日言渡しの判決(2020HU11479)において、公知例外及び分割出願に関する規定の文言や内容、各制度の趣旨等に照らして、原出願(2015年7月29日施行の改正特許法の施行前の出願)で公知例外主張をしていなくとも、分割出願で適法な手続きを遵守して公知例外主張を行なった場合、原出願が自己公知日から12ヶ月以内に行なわれている以上、公知例外の効果が認められると見るのが妥当とし、これと異なる趣旨の原審判決を破棄しました。
 2015年7月の改正法施行の前後にかかわらず、原出願での公知例外の主張がなくても、分割出願において公知例外の主張が可能と判断した理由は、次のとおりです。
 (i)特許法第52条第2項は、適法な分割出願がある場合、原出願日に出願したものとみなすという原則と、その例外として特許法第30条第2項の公知例外主張の提出時期、証明書類の提出期間については、分割出願日を基準とすると定めているのみで、原出願における公知例外主張を分割出願における公知例外主張によって原出願日を基準とした公知例外の効果の認定要件として定めていない。
 (ii)原出願の際に公知例外主張をしなくても分割出願が適法に行なわれれば、特許法第52条第2項本文により原出願日に出願したものとみなされるので、自己公知日から12ヶ月以内に原出願が行なわれ、分割出願日を基準に公知例外主張の手続き要件を満たしていれば、分割出願が自己公知日から12ヶ月を過ぎて行なわれたとしても公知例外の効果が発生するものと解釈するのが妥当である。
 (iii)原出願当時は請求範囲が自己公知した内容とは無関係で公知例外主張を行わなかったが、分割出願の際に請求範囲が自己公知した内容に含まれている場合があり、このような場合、原出願の際に公知例外主張を行わなくとも、分割出願で公知例外主張をして出願日の遡及の効力を認める実質的な必要性がある。
 (iv)改正法によって出願人の単純なミスを補完できる公知例外主張補完制度を導入しているが、こうした補正と分割出願は別の制度である点に基づき、原出願で公知例外主張をしなかった場合に分割出願での公知例外主張が認められるかの問題は、特許法第30条第3項の新設前後を問わず一貫して解釈するのが妥当である。
 なお、本件大法院判決の詳細については、下記情報元3および4をご参照下さい。

5.特許制度でのプログラムの保護
 日本では、平成14年の特許法改正で、第2条3項1号において、「物」に「プログラム等」が含まれることが明確化され、プログラム自体が物の発明として特許の対象となり得ます。プログラムの譲渡等に関し、日本の特許法第2条第3項第1号において、「電気通信回線を通じた提供を含む。」と規定され、第4項に「プログラム等」の定義が規定されています。
 弊所ホームページの「外国知財情報レポート 2020-春号(2020年4月発行)」(URL: https://www.fukamipat.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/f_200428.pdf)の「5.(韓国)特許法改正:方法の発明の実施態様追加」と題した記事においてすでに報告しておりますように、韓国特許法では、日本とは異なり、「プログラムそのもの」は物の発明として認められず、「記録媒体に記録されたプログラム」のみが物の発明として認められるため、たとえば盗用された他人のプログラムのオンライン伝送等については、特許権が及びませんでした。
 2020年3月11日に施行された改正特許法により、方法の発明の実施態様として、その「方法の使用を申し出る行為」が含まれました(改正特許法第2条第3号(ロ))。これにより、韓国においても、ソフトウェアに関する方法の発明について、その方法を実行するためのプログラムを情報通信網を通して提供する行為や、オンラインプラットフォームにアップロードする行為に対して、特許権を行使できるようになりました。
 ただし、韓国においては、ソフトウェア産業の萎縮を防止するため、第2条第3号(ロ)による方法の使用を申し出る行為である場合、特許権の効力は「特許権または専用実施権を侵害するということを知りながら」その方法の使用を申し出る行為(故意の場合)にのみ及ぶという制限(改正特許法第94条第2項新設)が加えられている点で、日本とは相違しています。

6.特許取消申請制度
 韓国の特許取消申請制度(2017年3月1日施行の改正特許法で導入された第132条の2)は、特許登録公告後6か月まで何人も申立て可能な不服申立制度であること等の多くの点で、日本の特許異議申立と共通していますが、以下の事項において相違しています。
 (1)申請の理由について
 日本の特許異議申立制度(日本特許法第113条)では、拒絶理由のうち、権利帰属に関する事由(冒認出願、共同出願違反)、特許後の後発的事由(権利共有違反、条約違反)等についてはを除かれるものの、公益的事由(新規性、進歩性、明細書の記載不備等)について異議申立理由とすることができます。
 それに対して韓国の特許取消申請制度では、申請理由が特許、刊行物等に基づく新規性、進歩性、先願等に限定され、さらに、拒絶理由通知に含まれていた先行技術のみに基づいた理由では申請できません(特許法第132条の2第87条第3項第7号)。
 (2)審判官との面談について
 日本では、特許異議申立がある場合、特許権者は審判官と面談可能であるものの、特許異議申立人には面談が認められていません。それに対して韓国の特許取消申請制度では、取消申請人が審判官と面談することを禁止されていない点で、相違しています。

7.実用新案制度
 1961年に特許法とは独立して制定された韓国実用新案法において、従来は審査主義を採用していました。1998年の法改正で、現在の日本の実用新案法に類似の無審査主義へと変更されましたが、2006年の法改正で再び審査主義に回帰し、現在に至っています
 日本において実用新案は、出願すると無審査で設定登録され、権利行使が必要な場合には、技術評価を受けなければならないのに対して、韓国の実用新案は審査を経て登録されます。韓国の場合、特許と同様に出願日から3年以内に審査請求をしなければ取下げとみなされ、審査請求によって実体審査を経て登録要件があると認められれば登録されます。
 実用新案権の存続期間は、日本と同様に、出願の日から10年で終了します。

[情報元]
1.HA&HA Newsletter 2022-08「拒絶決定不服審判の請求手数料、拒絶された請求項の分だけ」
              http://www.haandha.co.kr/html/jp/media_letter-view.php?no=58&search=&search_text=&start=0
2.KIM & CHANG IP Newsletter | 2022 Issue3 | Japaneseより、「分離出願、どのように活用すべきか」
              https://www.ip.kimchang.com/jp/insights/detail.kc?sch_section=4&idx=25514
3.[Newsletter]2022-10/HA&HA:特許判例「大法院2022.8.31宣告2020HU11479 [拒絶決定(特許)]」
              http://www.haandha.co.kr/html/jp/media_letter-view.php?no=61&search=&search_text=&start=0
4.KIM & CHANG IP Newsletter | 2022 Issue4 | Japanese「大法院、公知例外主張のない原出願に基づく分割出願の公知例外主張の効果を認定」
              https://www.ip.kimchang.com/jp/insights/detail.kc?sch_section=4&idx=25994
5.新興国等知財情報データバンク公式サイト アジア/法令等/出願実務/より
 (1) 韓国における特許・実用新案制度概要(2022年11月1日)
              https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/26894/
 (2) 韓国における再審査請求制度の活用および留意点(2022年11月1日)
              https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/26901/
 (3) 日本と韓国における特許分割出願に関する時期的要件の比較
              https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17665/
 (4) 韓国における特許取消申請について(2022年11月1日)
              https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19558/
 (5) 韓国の特許・実用新案出願における新規性喪失の例外規定(2017年7月13日)
              https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13896/
 (6) 韓国における実用新案制度について(2020年6月2日
              https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18613/
6.JETROソウル事務所 知的財産関連情報・知的財産ニュースより
 (1)「拒絶決定不服審判の手数料算定基準の改正、6月30日から施行」(2022年6月29日)
                                                                                     出所:韓国特許庁
              https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/ipnews/2022/220629b.html
 (2)「同じようで違う韓国と日本の知的財産権制度」(2018年10月10日)
                                                                  The Daily NNA(韓国版)掲載              https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/article/0660d12e633e6271.html

[担当]深見特許事務所 野田 久登