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連邦地裁による訴訟資金源についての調査を認めたCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、特許権者による職務執行命令(writ of mandamus)の請願を却下し、地方裁判所が特許権者の侵害訴訟に誰が資金を提供しているのかを調査する道を開きました。
In re Nimitz Techs LLC, Case No. 23-103 (Fed. Cir. Dec. 8, 2022) (Lourie, Reyna, Taranto, JJ.)

1.本件の経緯
 (1)事件の発端
 Nimitz Techs LLC(以下、Nimitz社)は、デラウェア地区連邦地方裁判所に、Buzzfeed社に対する特許侵害訴訟の訴状を提出しました。この事件は、コノリー首席判事(Chief Judge Colm F. Connolly)に割り当てられました。コノリー判事は、本件訴訟に関して、2022年4月に2つの継続命令を発しました。
 1つ目の命令は、連邦民事訴訟規則(Federal Rule of Civil Procedure)7.1の規定にしたがって、訴訟当事者に対して、第三者の訴訟資金提供者と、当事者に直接にまたは間接に利害関係を持つすべての個人および企業の名前とを開示することを要求しています。2つ目の命令は、当事者が、当事者以外の第三者である個人または法人から訴訟資金の提供を受ける協定を結んでいる場合は、資金の提供を受けている当事者がその詳細を特定する陳述書を提出することを要求しています。
 2022年5月に、Nimitz社は、1つ目の命令に対しては、Mark Hall氏がNimitz社の唯一の所有者でありかつLLC(Limited Liability Company)メンバーであることを特定する開示陳述書を提出し、2つ目の命令に対しては、Nimitz社は第三者の資金提供者といかなる協定も結んでいないことを示す陳述書を提出しました。
 (2)連邦地裁による調査
 デラウェア連邦地裁は後になって、デラウェア連邦地裁に提起された、本件とは別の訴訟事件での証拠における情報から、IP Edge LLC(以下、IP Edge社)という名称の法人が、デラウェア連邦地裁に提訴された他の訴訟事件の原告である様々なLLCに特許の譲渡を手配していることを示す情報に気付きました。そして他の訴訟事件の書類の検討の過程で、デラウェア連邦地裁は、米国特許庁に示された電子メールアドレスからHall氏がIP Edge社と関係があるように思われることに気付きました。デラウェア連邦地裁は、Hall氏とNimitz社の弁護士(George Pazuniak氏)に審理に出席するよう命じました。
 2022年11月4日に行われた審理において地裁は、とりわけNimitz社とMavexar社と呼ばれる法人との関係を調査しました。審理の後、2022年11月10日に地裁は、Nimitz社の設立、Nimitz社の資産、特許の取得から生じるNimitz社の潜在的な責任の範囲、訴訟の和解またはその可能性、および以前の証拠審問に関して、①Hall氏と、Mavexar社と、IP Edge社との間、および②Pazuniak氏と、Mavexar社と、IP Edge社との間、における通信と書簡を含む様々な文書の提出を命じました。地裁はまた、Nimitz社に毎月の銀行取引明細書の提出を命じました。
 (3)CAFCへの請願
 Nimitz社は、地裁の調査目的で文書を探し出すようにNimitz社に命じた2022年11月10日付けのデラウェア連邦地裁の継続命令を無効とし、そしてNimitz社に対する地裁の司法調査を終了させることを求める職務執行命令(writ of mandamus)をCAFCに請願しました。職務執行命令の請願とは、一般的に、上級の裁判所が下級の裁判所に対し、法に定められた責務を果たすように命じることを請願するものです。

2.CAFCの判断
 (1)連邦地裁の立場
 CAFCはまず、CAFCの決定が下されるまでの間、文書提出の地裁の命令を保留しました。職務執行命令の請願がCAFCに係属している間に、地裁は、2022年11月10日の命令で求めた記録が、以下の事項を含むいくつかの懸念事項に対処することに関連していると説明するメモを発行しました。
 ① 代理人弁護士が職業上の行動規範を遵守しているか?
 ② 代理人弁護士とNimitz社とが地裁の命令を遵守しているか?
 ③ Mavexar社やIP Edge社のように、法廷と被告から隠蔽された、Nimitz社以外の実際の利害関係者が存在するのか?
 ④ これらの実際の当事者が訴訟中の特許をSell LLCに不正に移転し、そして、それらの実際の当事者を、そのままでは訴訟で特許を主張する際に直面するであろう潜在的な責任から遮断するように作られた架空の特許譲渡証を米国特許商標庁に提出することにより、これらの実際の当事者が地方裁判所で詐欺を犯しているのか?
 (2)Nimitz社の主張
 Nimitz社は、地裁の命令は、弁護士・クライアント間の秘匿特権(attorney-client privilege)および成果物の免責(work-product immunity)によって保護された文書を含む機密性の高い訴訟資料の開示を要求するものであるため、そのような命令は不適切である、と主張しました。
 (3)CAFCの判断
 CAFCによると、職務執行命令は、様々な法的手段のうち、最も強力な武器の1つであり、それが発せられるためには、以下の3つの条件を満たさなければなりません。
 ① 請願者が希望する救済を実現するために十分な手段が他に存在しないこと、
 ② 職務執行命令の発行に対する権利が明確で争う余地のないものであること、および
 ③ 職務執行命令は状況下で適正であること
(Cheney v. U.S. Dist. Ct. for D.C., 542 U.S. 367, 380–81 (2004))
 本件の職務執行命令の請願に関する判決において、CAFCはまず、Nimitz社の請願が、職務執行命令による強力で特別な救済を受ける資格があることについて示していない、と判断しました。CAFCは、Nimitz社は保護された情報を公に開示する必要がないこと、および、地裁が文書を封印したまま維持することをNimitz社が要求できること、を地裁の命令が明らかにしていると認定しました。すなわち、Nimitz社は、職務執行命令が秘匿特権のある文書を保護する唯一の手段であることを証明しておらず、また、このような状況下においてインカメラ調査を排除する明確な権利を示してもいません。したがって、CAFCは上記2.(2)の「Nimitz社の主張」を却下しました。
 CAFCは、連邦地裁のこれらの継続命令に対してCAFCにおいて直接異議を申し立てるのは早計であると判断しました。なぜなら、Nimitz社はこれらの命令に反していると判断された訳ではなく、もしもそのような違反が見出されたときには異議申立をするための十分な手段が他にあると思われるからです。Nimitz社は、CAFCに対して、連邦地裁の継続命令に基づく質問を終了させるように求めていましたが、Nimitz社は、そのような救済に対する権利が明確で争う余地のないものであることを証明しておりません。
 CAFCはまた、地裁がそのメモで特定した4つの懸念事項①~④は、すべて本件の法的問題に適切に関連しており、それらの懸念事項は当事者代表の原則の対象であり、または裁判所での適切な実務の側面に関連していることに注目しました。連邦地裁は、これらのすべての争点に関して、連邦民事訴訟規則によって保証されている一定の範囲の権限を有します。したがって、CAFCはNimitz社の請願を却下しました。

3.実務上の注意事項
 CAFCは、地裁が提起した懸念事項に関連する法的基準について、何らかの違反があったかどうかについて意見を表明しませんでしたが、この決定は、訴訟における訴訟資金関連の問題を調査する地裁の固有の権限をCAFCが認めていることを示しています。

4.CAFCによるNimitz社の請願却下後の続報
 地裁は、前述のように2022年11月10日の命令で求めた記録がいくつかの懸念事項に対処することに関連していると説明するメモを発行しておりましたが、Nimitz社は、CAFCの上記の請願の却下と同日付けで、地裁が発行したメモの取り下げを要求する申立を地裁に提出しました。そして、それから1週間もしないうちに、地裁は、この申立を却下する略式命令を発行しましたが、その申立の中で提起された2つの事項については、関連する訴訟で提起されていたものであるとして、略式命令の中で対処しました。
 まず、申立においてNimitz社は、地裁の開示命令は“limited liability corporation”に言及しているため、“limited liability company”を対象としていないと主張しました。地裁は、裁判所(合衆国連邦最高裁判所、デラウェア州最高裁判所、デラウェア州衡平法裁判所、および地裁自体の直近の4人の首席裁判官を含む)が、日常的に“limited liability company”を“limited liability corporation”と呼んでいることを説明して、この主張を退けました。
 Nimitz社はまた、地裁がすでにNimitz社およびその弁護士を詐欺と非倫理的行為により有罪であると公に宣言したと主張して、裁判官の忌避を求めました。地裁は、Nimitz社の主張を退けました。そして裁判官が以前、このメモが弁護士の職業意識や裁判所を悪用する際の潜在的な役割に関する裁判官の懸念事項を意図的に繰り返してはいないと述べており、その理由として裁判官はそれらの問題について決定的な結論を未だ下してはおらず、そして弁護士を不必要に当惑させることを望んではいないからであると述べていたことに注目しました。したがいまして、地裁は、Nimitz社の申立を却下しました。
 地裁は、地裁が求めた訴訟資金調達に関する文書を作成できなかったことに対して、Nimitz社が制裁を受けるべきではない理由を示すよう命じる命令書を別途発行しました。地裁は、CAFCが12月8日に職務執行命令の請願を却下し、12月14日現在、Nimitz社は、文書を作成しておらず、文書作成の期間延長も求めていないことに注目しました。Nimitz社は12月21日に応答書を提出し、CAFCが指令書を発行するまで地裁の手続きは停止されたままであると主張しました。Nimitz社はまた、地裁の命令に対するさらなる上級審での見直しを求めており、そして要求された文書は、さらなる控訴審の実質的な意義を失わせることになるため、作成することはできない、と主張しました。

[情報元]
① McDermott Will & Emery IP Update | December 15, 2022 “Full Speed Ahead: District Court Entitled to Explore Litigation Funding Arrangements”
② McDermott Will & Emery IP Update | January 5, 2023 “Litigation Funding Probe Continues to Make Waves”
③ In re Nimitz Techs LLC, Case No. 23-103 (Fed. Cir. Dec. 8, 2022) (Lourie, Reyna, Taranto, JJ.)判決原文

[担当]深見特許事務所 堀井 豊