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自由実施デザインの抗弁の制限 - 大法院判決

 韓国大法院は近時の2件の判決を通じて、他人が実施する一つのデザインが登録デザインの権利範囲に属するか否かを判断する際、その登録デザインが新規性喪失例外規定の適用を受けたものである場合には、例外規定の適用の対象の公知デザインに基づく自由実施デザインの抗弁は認められないという点を明確にしました(大法院2021年2月23日言渡し2021フ10473判決、2022フ10012判決)。

 自由実施デザインの抗弁は、長年の裁判例を通じて確立された法理であり、デザイン権侵害訴訟においてしばしば用いられる抗弁のうちの一つです。具体的には、デザイン権侵害訴訟において被告は対象デザインが登録デザインの出願前に公知となったデザインと同一又は類似で、またはそのデザインが属する分野において通常の知識を有する者が公知デザインまたはこれらの結合により容易に実施できるものであるときは、対象デザインは登録デザインと対比するまでもなくその登録デザインの権利範囲には属さず自由に実施することができるとの抗弁が可能であるというものです。しかし、登録デザインが新規性喪失例外規定の適用を受けている場合に、その例外適用の対象となった公知デザインに基づくものであっても自由実施デザインの抗弁が認められるか否かが本件の主な争点となりました。

 下級審である特許法院段階において、被告は、自身が実施した対象デザインは登録デザインの出願日前に公知となっていた公知デザインから容易に創作できる自由実施デザインであるとしてデザイン権侵害責任を否認しました。一方、デザイン権者は、本件デザイン登録に係るデザイン出願は当該公知デザインの最初の公開日から12月以内に出願されており新規性喪失例外規定が適用されるべきであるとし、被告が自由実施デザインの抗弁の根拠とした公知デザインに関し、それが新規性喪失例外の適用の対象となっている以上、被告は当該デザインに基づいて自由実施デザインの抗弁をすることができないと主張しました。

 これに対し特許法院は、登録デザインに関して新規性喪失の例外主張が適法に適用されたとしても、被告が出願前に公知となった本件公知デザインがすでに公共の場に置かれたデザインであると信頼した以上、被告の自由実施デザイン抗弁を制限することは公平を欠くとして原告の主張を排斥しました。また特許法院は、新規性喪失の例外を認めることにより、本件被告とともに、その新規性喪失の例外主張の対象となった公知デザインに基づいて登録デザインと同一または類似のデザインを実施した第三者が予期しない不利益を被ることがないよう保護されなければならないと付け加えました。

 しかし、大法院では、次のような理由で本件特許法院判決を破棄差戻ししました。大法院は、新規性喪失の例外主張を認めるにあたり、デザイン保護法が一定の時期的・手続的要件(公開後12月以内に出願し所定の時期に関連証拠資料を提出しなければならない)を設けている点に着目し、出願前に公知となったデザインでも、新規性喪失例外規定の適用を受けて登録されたデザインと同一・類似のデザインであれば、登録デザインの登録が無効とならない限り、登録デザインの独占排他権の範囲に含まれることを明示しました。さらに大法院は、新規性喪失の例外主張の存在を知らずに公知デザインを実施した善意の実施者に対しては、デザイン保護法が先使用による通常実施権を認めているので、第三者との利益均衡は保たれていると指摘しました。

 上記大法院判例は、登録デザインが新規性喪失例外規定の適用を受けている場合には、同適用の対象となった公知デザインに基づく自由実施デザインの抗弁は制限を受け得るということを明確にした点において意義深い判決であるといえます。

[情報元]KIM & CHANG / IP Trademark/Design Legal Updates | Korea | March 2023
[担当]深見特許事務所 藤川 順