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優先権の評価に関する付託された質問についての拡大審判部の決定 | 弁理士法人 深見特許事務所

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優先権の評価に関する付託された質問についての拡大審判部の決定

 2023年10月10日、欧州特許庁(EPO)拡大審判部は、優先権の評価に関する質問について、連結事件G1/22およびG2/22において、長らく待たれていた決定を下しました。

1.概要

 欧州特許庁(EPO)審判部は、2023年10月10日、優先権の有効性評価に関して技術審判部から付託された質問を受けた拡大審判部の審決(G1/22およびG2/22)を下したことを公表しました。

 EPO審判部の2023年10月10日付プレスリリースによれば、当該審決において拡大審判部は、EPOは優先権の有効性を評価する権限を有していること、および、欧州特許条約(EPC)の形式的な要件に従って優先権を主張する出願人に優先権を享受する資格があり、そのことについて反証可能な推定(rebuttable presumption)が成り立つとの決定を下しました。

 なお、以下の記載において、審判部のプレスリリースおよび各「注」の条文の日本語訳は、主として下記「情報元3」の記載を参考にしています。

 

2.本件審決に至る背景

技術審判部による中間審決T1513/17及びT2719/19の併合審理(OJ EPO 2022, A92)において、技術審判合議体3.3.04が以下の2つの質問を付託しました。

 第1の質問:EPOは当事者の優先権主張を評価する権限を有するかどうか。

 第2の質問:発明者(A)が米国特許出願を行ない、それが後のPCT出願の優先権基礎出願となる状況において、当該PCT出願において、発明者(A)のみが米国での出願人として指定され、発明者以外の者(B)が欧州広域段階を含む米国以外の指定国の出願人として指定されている場合、 米国優先権基礎出願に記載された発明者(A)とは異なるPCT出願の共同出願人(B)は、欧州段階においてEPC第87条1項(下記「注1」参照)に基づく優先権を有効に援用できるかどうか。

注1:EPC第87条 優先権

(1) 次の何れかの国において又は何れかの国について,正規に特許出願,実用新案出願又は実用新案証の出願をした者又はその承継人は,同一の発明について欧州特許出願をすることについては,最初の出願の日から12月の期間中優先権を有する。

(a) 工業所有権の保護に関するパリ条約の締約国,又は

(b) 世界貿易機関の加盟国

 (2)~(5)省略

付託された質問の基礎となった2つの事案において、異議部と審査部はそれぞれ、PCT出願前に(優先権の基礎となる)米国特許出願の出願人として名前が挙げられていた発明者全員が、(優先権を主張する)欧州特許出願のそれぞれの出願人に優先権を譲渡したわけではないとして、優先権の主張が無効であると判断していました。

 

3.本件審決における拡大審判部の回答

(1)第1の質問に対する回答

 拡大審判部は本件審決において、第1の質問に対して次のように回答しました。

 (a)結論:EPOは、当事者がEPC第87条第1項に基づく優先権を主張できるか否かを評価する権限を有し、EPCの自治法上、形式的要件(すなわち、EPC第88条第1項(下記「注2」参照)および対応する実施規則)にしたがって優先権を主張する出願人が優先権を主張する権利を有するという反証可能な推定が存在する。

注2:EPC第88条 優先権主張

(1) 先の出願の優先権を利用しようとする出願人は,施行規則の定めるところにより,優先権申立書及びその他の必要書類を提出する。

 (2)~(4)省略

 (b)重要な考慮事項

拡大審判部は、特許出願およびその後の特許に対する適法な権利としての欧州特許出願を行う権利と、EPC第87条(1)の「優先権」としての当該出願の優先日を主張する権利とを区別した。EPC第60条(3)に基づけば、EPOは出願人の特許出願の権利を評価する権限を有さない。しかしながら、この規定は、EPC第87条第1項の優先権には、直接適用も類推適用もされない。したがって、EPOは出願人の優先権を評価する権限を有する。

注3:第60条 欧州特許を受ける権利

 (1)~(2)省略

(3) 欧州特許庁における手続において,出願人は,欧州特許を受ける権利を行使する権利を有するものとみなされる。

(2)第2の質問に対する回答

 拡大審判部は本件審決において、第2の質問に対して次のように回答しました。

 (a)結論:上記の反証可能な推定は、欧州特許出願がPCT出願から派生した場合、および/または、優先権基礎出願の出願人が後続出願人と同一でない場合にも適用される。

上記第2の質問に記載の状況では、共同出願は、それに反する実質的な事実表示がない限り、当事者Bが優先権に依拠することを認める当事者AとBの間の合意を示唆する。

 (b)重要な考慮事項

拡大審判部によれば、優先権とその移転は、EPCの自律的な法によって決定される問題である。優先権を主張するための形式的な要件が満たされていれば、出願人の優先権は存在すると推定される。この推定が正当化される理由は、(i)当事者は通常、出願が優先権の利益を享受することに利害関係を有すること、(ii)優先権の移転には形式的要件がないこと、(iii)優先権の基礎となる出願の出願人は、例えば、未公表の文書を提供するなどして、優先権を主張する出願人に支援を提供しなければならないことである。この(出願人の優先権は存在するとの)推定は反証を許すものであり、優先権の基礎となる出願の出願人が後の出願(優先権の主張を伴う出願)の出願人と同一でない場合にも、後の出願がPCT出願であるか否かにかかわらず適用される。

この反証を許す推定は、付託された第2の質問に記載の状況にも適用される。この状況について、拡大審判部は加えてPCT出願の共同出願は、これに反する実質的な示唆がない限り、優先権の共同使用に関する黙示の合意を証明するのに十分である。

 

4.実務上の留意点

(1)欧州特許庁拡大審判部による本件審決によれば、「EPC第88条第1項および対応する規則(欧州特許付与に関する条約の施行規則の規則52(優先権の申立)、規則52(優先権書類))に従って優先権を主張する出願人が優先権を主張する権利を有することが推定され、この推定に対抗して優先権の無効を主張する者は、その推定を覆す証拠等を示すことが必要です。

 具体例として、上記第2の質問の事例のように優先権主張を伴う出願が共同出願である場合には、本件審決に示されたように、共同出願人間において互いに優先権の主張を認めるという合意があると推定され、その推定は、証拠等により立証されない限り覆りません。

 したがいまして、優先権を主張して欧州特許を出願する場合、先の出願と出願人を一致させたり、優先権を譲渡されたことを証明する書類を提出したりする必要はないことになります。

(2)優先権を主張する出願人が優先権を主張する権利を有することについての「反証可能な推定」に関し、審決の第110段落(下記「情報元4」の第40頁参照)には、次の点が述べられています。

 (a)反証を許す推定は立証責任の逆転を伴う。

 (b)すなわち、後の出願の優先権に対抗する当事者は、当該後の出願の出願人がこの優先権を享受する資格がないことを立証しなければならない。

 (c)したがって、優先権に対抗する当事者は、単に推測的な疑念を提起するだけでなく、具体的な事実が後の出願の出願人の優先権に対する重大な疑念を裏付けるものであることを証明しなければならない。

 審決の当該段落においてはさらに、後続の出願人が優先権を取得する権利があるという推定は、通常の状況では強力な推定であって、このような強い推定がある場合、それに対する反論のハードルは、弱い推定の場合よりも高くなると述べています。

 この点は、優先権の主張を伴う欧州特許を出願する出願人や欧州特許権者にとっては歓迎すべきではありますが、この推定に対抗する立場からすると、優先権主張の無効を立証することのハードルが高くなったと言えます。

[情報元]

1.TBK – 欧州知財における話題のトピックの寸評(2023年10月26日)

 

2.EPOプレスリリース:”Press Communiqué of 10 October 2023 concerning decision G 1/22 and G 2/22 of the Enlarged Board of Appeal”(October 10, 2023)

        https://www.epo.org/en/law-and-practice/boards-of-appeal/communications/press-communique-10-october-2023-concerning

 

3.JETRO デュッセルドルフ事務所「欧州特許庁(EPO)審判部、優先権の有効性評価に関する拡大審判部審決を公表」2023年10月11日

        https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/2023/20231011.pdf

 

4.本件拡大審判部審決(G1/22, G2/22)原文

        https://link.epo.org/web/case-law-appeals/Communications/G1_22-G%202_22-Decision-of-the-EBA-of-10-October-2023.pdf

[担当]深見特許事務所 野田 久登