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クレームされた機能以外の追加機能の明細書の開示はMPFクレームに記載された機能を満たすための構造に影響しないと判示したCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、クレームされた機能以外の追加された機能の特許明細書における開示は、米国特許法112条(f)[i]のクレームされた機能を満たすために必要な構造には影響を与えないとし、クレームを不明確で無効と判断した地裁の判決を破棄しました。

Gramm v. Deere & Co., Case No. 24-1598 (Fed. Cir. Mar. 11, 2026) (Lourie, Reyna, Cunningham, JJ.)

 

1.事件の背景

(1)侵害訴訟の提起

 Richard Gramm氏(以下、「Gramm氏」)は、作物の収穫機が圃場を移動する際に収穫機のヘッダーを地面から一定の高さに保つ装置に関する米国特許第6,202,395号(以下、「本件特許」)を有しています。Gramm氏は本件特許について、Reaper Solutions, LLCに独占的な使用許諾を与えており、両者(以下、集合的に「Reaper社」と称する)は、Deere & Company(以下、「Deere社」)の特定のヘッダーセンサーキットが本件特許を侵害していると主張してDeere社を連邦地裁(以下、「地裁」)に提訴しました(当初インディアナ州北部地区連邦地方裁判所に提訴しその後アイオワ州南部地区連邦地方裁判所に移送)。

(2)IPRの請願

 これに対してDeere社は、米国特許商標庁に対して当事者系レビュー(IPR)を請願して本件特許の有効性を争い、Deere社は部分的に勝訴したものの侵害訴訟で主張されている独立クレーム12とそのいくつかの従属クレームは有効と判断されました。

(3)地裁の判断とCAFCへの控訴

 Deere社は、地裁での侵害訴訟において、IPRで有効と判断された独立クレーム12は、対応する構造が明細書に開示されていないため不明確であると主張し、地裁はDeere社の主張に同意する判決を下しました。Reaper社はこの判決を不満としてCAFCに控訴しました。

 

2.本件特許の内容

(1)本件特許の実施形態の基本構成

 本件特許の図1に示される作物の収穫機の実施形態の全体図を以下に示します。図1に示した収穫機10は、ヘッダー12と、コントローラインターフェイス18と、ヘッダコントローラ20と、油圧制御システム38とを備えています。

(2)本件特許のクレーム

 IPRにおいて有効性が認められ本件訴訟において主張されている本件特許のクレーム12の原文(一部省略)およびその試訳を以下に示します(太字下線部は判決原文における強調個所を示します)。

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  1. Apparatus for maintaining a non-cut crop header in a crop harvester a designated height above the soil as the crop harvester traverses a field, said apparatus comprising:

(中略)

control means coupled to said header and said angular deflection sensing means and responsive to

said first signal for raising or lowering the header in accordance with said first signal in maintaining the header a designated height above the soil, wherein said flexible arm and angular deflection sensing means are attached to a head housing disposed on a forward portion of said combine and said head housing is comprised of polyurethane and includes a metal tip and a mounting bracket for attaching said metal tip to a forward end of said head housing, and wherein said mounting bracket further couples said flexible arm to a forward end of said head housing.

(試訳)

  1. 作物の収穫機が圃場を移動する際に前記収穫機内の非切断型作物ヘッダーを土壌から指定された高さに維持するための装置であって、前記装置は:

(中略)

前記ヘッダーおよび前記角度偏向検出手段に連結され、前記第1の信号に応答して、前記ヘッダーを土壌から指定された高さに維持するように、前記第1の信号に従って前記ヘッダーを昇降させる制御手段を備え、前記フレキシブルアームおよび角度偏向検出手段は、前記コンバインの前方部に配置されたヘッドハウジングに取り付けられ、前記ヘッドハウジングはポリウレタン製であり、金属製先端部と、前記金属製先端部を前記ヘッドハウジングの前方端部に取り付けるための取付ブラケットとを備え、前記取付ブラケットはさらに、前記フレキシブルアームを前記ヘッドハウジングの前方端部に連結する。

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3.本件訴訟の争点および地裁の判断

(1)IPRおよび地裁での争点

 IPRにおけるクレーム解釈および地裁での特許侵害訴訟におけるクレーム解釈において、Reaper社とDeere社は、上記の独立クレーム12における「制御手段(control means)」の意味について争いました。「制御手段」に対応する明細書中に記載された構成が、コントローラインターフェイス18と、ヘッドコントローラ20と、油圧制御システム38との組合せであることについて両当事者間で争いはありませんでした。争点となったのは、明細書中のヘッドコントローラ20に関する記述が、米国特許法112(f)規定する「手段+機能クレーム(means-plus-function claimMPFクレーム)」の要素としての「制御手段」に対応する開示された構造として十分に明確であり、米国特許法112(b)の明確性要件を満たすか否かでした[ii]

 本件特許の明細書に記載された問題のヘッドコントローラ20の機能は、クレームされた装置の別の構成要素に電気制御信号を供給し、トウモロコシ収穫用ヘッダーの横方向の位置および地面または土壌からの高さを制御することでした。本件特許の明細書中には、ヘッドコントローラ20に関連して、「本発明の特定の実施形態において、ヘッドコントローラ20Deere社のコンバインに組み込まれているようなものである(In a specific embodiment of the present invention, head controller is as incorporated in a Deere combine, …」と記載されています(本件特許の明細書第3欄第49行~第51行)。

 Deere社は、「ヘッドコントローラ20」は汎用コンピュータまたはプロセッサに相当するため十分に明確なものではなく、そのような不明確さを避けるためにはコードまたはアルゴリズムの開示が必要である、と主張しました。これは、汎用コンピュータやプロセッサはプログラム次第で無数の機能を実現することができるため、それだけではクレームに記載された特定の機能に対する具体的構造を開示していることにはならず、汎用コンピュータやプロセッサに加えて特定の機能を実行するためのアルゴリズム(必ずしもソースコードである必要はない)を開示することによって初めて具体的構造を開示したことになるという、確立された米国特許実務に基づく主張でした[iii]。この点に関して、本件特許の明細書のヘッドコントローラ20に関する上記の記載は、クレームに記載された機能を実行するためのアルゴリズムを開示していないだけでなく、Deere社のコンバインに用いられる商業的に入手可能なヘッドコントローラの型番についてさえ何ら明示的に述べておりません。1997年の本件特許の優先日当時、Deere社のコンバインで使用されていた市販のヘッドコントローラは、Dial-A-Maticバージョン#1、#2、および#3の3種類のみでした。

 Reaper社は、IPRでのクレーム解釈において、「制御手段」に対応する開示された構造はDeere社のDial-A-Maticバージョン#1に組み込まれた特定のコントローラであり、このコントローラは、マイクロプロセッサではなく一連のダイオード、スイッチ、集積回路によってヘッダーの高さを制御するものであると主張しました。

 これに対してDeere社は、自社の引退した技術者の証言を提出し、ヘッダーの高さおよび横方向の位置の両方を制御できるのはバージョン#2および#3のみであるため、明細書に開示された「ヘッドコントローラ20」に対応する構造はバージョン#2および#3のみであると主張しました。バージョン#2および#3はマイクロプロセッサを用いてヘッダーの高さを制御していたため、Deere社は、本件特許の特許明細書にはクレームされた機能を実行するためのアルゴリズムを開示する必要があるが、そのようなアルゴリズムが欠如しているため開示された構造は不明確である、と主張しました

 Deere社はまた、明細書に開示された「ヘッドコントローラ20」に対応する構造はバージョン#2および#3のみであり、アルゴリズムの欠如のため「制御手段」が不明確であるという上記の主張が地裁によって受け入れられなかった場合に備えて、さらに以下のように主張しました。すなわちは、Reaper社はIPRにおいて、制御手段に対応する開示された構成は、Deere社のDial-A-Maticバージョン#1に組み込まれた特定のコントローラであり、このコントローラは、マイクロプロセッサではなく一連のダイオード、スイッチ、集積回路によってヘッダーの高さを制御するハードウェア実装であると主張していましたが(すなわち制御手段の権利範囲は当該ハードウェア構成とその均等物に限定される)、Deere社は、IPRにおけるReaper社のこのような主張を地裁が支持すべきだと主張しました。

(2)地裁の判断

 地裁は、本件特許の明細書におけるDial-A-Maticバージョン#2および#3への言及は、汎用コンピュータまたはマイクロプロセッサの開示の必要性を引き起こしましたが、本件特許の明細書はそのような開示の要求を満たしていないため、独立クレーム12は不明確であると結論付けました。地裁は、Dial-A-Maticバージョン#1はトウモロコシヘッダーの横方向の位置を制御する機能を実行できないため、明細書には対応する構成としてDial-A-Maticバージョン#1は開示されていないというDeere社の主張を受け入れました。Reaper社はCAFCに控訴しました。

 

4.CAFCの判断

 CAFCは、Reaper社の主張に同意し、地裁が「制御手段」に対応する構造を、クレームされた機能を実行するために必要な範囲を超えて特定したこと、すなわち横方向の位置を制御する機能をも要件としたことは誤りであり、その結果、地裁はクレームを不明確であると誤って判断したと認定しました。CAFCは、地裁が「ヘッドコントローラ20」が、トウモロコシヘッダーの横方向の位置を制御する制御システムに信号を供給するだけでなく、トウモロコシヘッダーの地面または土壌からの高さも制御する信号を供給することを認識していなかったと指摘しました。CAFCは、開示された「ヘッドコントローラ20」は、クレームされた「制御手段」に対応する十分な構造を提供していると説明しました。なぜなら、明細書における追加された機能の開示によって、MPFクレーム要素の記載された機能要件を満たす構造を不適格とみなすべきではないからです。

 本件において、明細書における追加された機能は、トウモロコシヘッダーの横方向の位置を制御することでした。CAFCは、Dial-A-Maticバージョン#1が、トウモロコシヘッダーの横方向の位置を制御するというクレームされていない機能を実行できないことを理由に、対応する開示された構造として不当に除外されたと結論付けました。

 Deere社は、Dial-A-Maticバージョン#1が(マイクロプロセッサではなく)一連のダイオード、スイッチ、集積回路によってヘッダーの高さを制御していたことを認めており、またバージョン#1は汎用コンピュータではなかったため、アルゴリズムを開示するというコンピュータ実装されたMPFクレームの要件は引き起こされませんでした。したがって、CAFCは、地裁がクレームされた「制御手段」が不明確であると判断したことは誤りであると結論付けました。

 Dial-A-Maticバージョン #2および#3については、CAFCは、これらのバージョンがマイクロプロセッサを使用しており、したがって十分な開示のためにアルゴリズムが必要であると地裁が判断したことに誤りはないと認定しました。CAFCは、クレームに記載された機能を単に言い換えたに過ぎない、主張された3ステップのアルゴリズムの開示に関するReaper社の専門家の証言を地裁が排除したことは適切であった、と判断しました。

 Reaper社はまた、地裁が、「制御手段」が、Dial-A-Maticバージョン#1をDial-A-Maticバージョン#2と均等の構造として含むと解釈すべきかどうかを検討しなかったのは誤りであると主張しました。CAFCが明確にしたように、侵害成否の判断における均等の分析は、米国特許法112条(f)のクレーム解釈において開示された対応する構造にどのような均等物が存在するかを判断するためではなく、被疑侵害品がMPFクレームの限定を文言通り侵害する均等の構造であるかどうかを判断するために行われます。

 このようにCAFCは、制御手段が不明確であるためクレーム12が無効であるという地裁の判断を破棄し、この結論に基づいてさらに手続を進めるように地裁に差し戻す判決を下しました。

 

5.実務上の留意点

(1)対応する構造は「クレームされた機能」のみに基づいて判断される

 MPFクレームの要素に対応する開示された構成を判断する際には、クレームされている機能を適切に特定し定義することが不可欠です。CAFCは、開示されたすべての構造が実行するすべての機能を検討するべきではなく、明示的にクレームされていない機能までクレームに含めるように解釈を進めるべきではないと判断しました。

 本件においては、地裁は明細書に記載されたコントローラ(Dial-A-Maticバージョン#1)が、ヘッダーの「横方向の位置制御」というクレームには記載されていない機能を持っていなかったことを理由に、対応する構造から除外するという誤りを犯しました。この点についてCAFCは、MPFクレーム要素の対応する構造は、クレームで明記された機能を実行するために必要な構造にのみ限定されると判示しました。したがって、明細書の実施形態において、クレームされた機能以外の「追加の機能」や「好ましい態様」を記述しても、それが直ちに対応する構造を不当に限定したり、その実施形態を対応構造から排除する理由にはなりません。特許権者はクレーム解釈において、明細書中の不要な機能要件が対応する構造に読み込まれないよう主張することが重要です

(2)アルゴリズムの開示要件

 ソフトウェア実装とハードウェア実装とでの「アルゴリズム開示要件」の違いに注意する必要があります。本稿の「3.(1)IPRおよび地裁での争点」において前述したように、汎用コンピュータやマイクロプロセッサを用いて特定の機能を実行する場合、明細書にその機能を達成するための具体的な「アルゴリズム」を開示しなければ、MPFクレームの構造要件を満たさず特許は無効となります。

 本件でも、マイクロプロセッサを利用したソフトウェア実装の製品(Dial-A-Maticバージョン#2および#3)については、単にクレームの機能を言い換えただけの説明では不十分であり、アルゴリズムの開示が欠如していると判断されました。しかし、ダイオードやスイッチを用いた論理回路によって制御を行うハードウェア実装の製品(Dial-A-Maticバージョン#1)は汎用コンピュータではないため、アルゴリズムの要件は適用されませんでした。このことから、出願人は、機能的クレームをサポートするために、ソフトウェア実装の製品が開示されている場合には、単なる機能の反復ではなく具体的なアルゴリズム(フローチャートや詳細なステップ)を必ず記載する必要があります。同時に、マイクロプロセッサによるソフトウェアの実装形態だけでなく、論理回路などのハードウェアによる実装形態も併記しておくことで、アルゴリズム要件の不備を指摘された際の強力な防衛策となります。本件では、Dial-A-Maticバージョン#1という論理回路を用いた実施形態が少なくとも1つ特定できたことで、特許の無効を免れました。

(3)市販品の参照による構造の特定

 本件特許のように市販品の参照による構造の特定は可能ですがリスクを伴ないます。本特許の明細書には対応構造として、特定の製品名を明記する代わりに、Deere製コンバインに組み込まれているヘッドコントローラという市販品の一般的な参照が含まれていました。当業者が優先日時点での構造を理解できる限り、市販品への言及は対応構造として認められ得ますが、対象となる市販品が内部でマイクロプロセッサを使用している場合、結局は特許明細書中にアルゴリズムの開示が求められるため注意が必要です。市販品のみに依存せず、内部構造や動作原理(アルゴリズムや回路構成)を明細書で自ら詳述することが推奨されます。

[i] 本稿の訴訟対象となる米国特許第6,202,395号は、2013年の米国特許法のAIA改正法の発効前である2001に発行されたものであり本来はAIA改正前の112条第6段落が適用されるものですが、AIA改正後の112条(f)と条文の内容は同じなので、裁判手続においては現行の112条(f)として表記されており、本稿においてもそれに倣うこととします。

[ii] 米国特許法112条(f)の規定によると、組合わせに係るクレームの要素は、構造、材料またはそれを支える作用を記載することなく、特定の機能を遂行するための手段または工程として記載することが認められています。代表的には“means for … ing”(または“step for … ing”)の形式で、構成要素を機能的に表現したクレームをMPFクレームと称します。さらに同項の規定によると、MPFクレームは、明細書に記載された対応する構造、材料、または作用およびそれらの均等物を対象とするものとされます。

 MPFクレームの権利範囲は、クレームされた機能に対応する明細書の開示内容とその均等物に限定されるため、開示が乏しければ権利範囲は非常に狭く解釈されることになります。さらに、MPFクレームと認定された場合にクレームされた機能に対応する具体的な構造が明細書に記載されていなければ、米国特許法112条(b)の明確性要件を満たしていないとして拒絶または無効の対象とされることになります。

[iii] WMS Gaming, Inc. v. International Game Technology(184 F.3d 1339, 1348 (Fed. Cir. 1999))

Aristocrat Techs. Austl. Pty Ltd. v. Int’l Game Tech(521 F.3d 1328, 1333 (Fed. Cir. 2008))

[担当]深見特許事務所 堀井 豊

[情報元]

1.McDermott Will & Emery IP Update | March 26, 2026 “Corresponding disclosed structure? Only what’s necessary to perform a recited function

https://www.ipupdate.com/2026/03/corresponding-disclosed-structure-only-whats-necessary-to-perform-a-recited-function/

 

2.Gramm v. Deere & Co., Case No. 24-1598 (Fed. Cir. Mar. 11, 2026) (Lourie, Reyna, Cunningham, JJ.)(本件判決原文)

https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1598.OPINION.3-11-2026_2659493.pdf