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欧州統一特許パッケージ in 2013

 2012 年12 月に、欧州議会と欧州理事会とによって欧州「統一特許パッケージ」が承認されました。このパッケージは、(i)欧州統一特許(EUP)と、(ii)欧州統一特許裁判所(UPC)とを確立することが予定されています。
 UPC は、欧州統一特許のみならず、EPO によって与えられた「従来の」特許に対する司法権をも有します。
<パッケージの発効時期について>
 UPC に関する合意は2013 年2 月にほとんどのEU の国によって署名されたため、EUP とUPC との両方について、必要な批准プロセスが開始されました。実施に先立って、EU 各国うちの(英国、フランスおよびドイツを含む)13 ヶ国は、UPC への合意を批准する必要があります。しかしながら、多くの国々は、批准までに時間を要しています。批准に加えて、EUP とUPC とのためのインフラの確立にも時間を要します。UPC とEUP との手続の規則はまだドラフト段階にあります。裁判官は、選任され、訓練されねばなりません。さらに、司法権に関する規則も、修正を要するものです。したがって、パッケージが2015 年の前に実施されないことがあり得ます。
<参加国について>
 パッケージには、UPC 協定を批准するEU の国々だけが参加する予定です。したがって、もしEU の20 ヶ国が有効になるまでに合意を批准していれば、EUP はそれら20 ヶ国を含み、UPC はそれら20 ヶ国での司法権を有することになる予定です。
<欧州統一特許の機能について>
 ひとたびパッケージが発効すると、EPO で与えられた特許出願はすべてEUP になり得ます。EUP の局面についてもっとも話題となっていることの1つが、EPO によって設定された維持年金のレベルです。維持年金が高すぎれば、EUP は特許権者にとって魅力のないものとなるでしょう。他方では、維持年金が低すぎる場合、国々は潜在的な収入ロスのためにパッケージには署名しないでしょう。
 EPO の特別委員会は、2014 年に維持年金のレベルを決定するつもりです。EPO 長官は「維持年金は多数が望むより高いが、いくらかが心配するかもしれないより低くなる」と2013 年12 月にパリのIP サミットで述べたと報告されています。維持年金レベルは約5 または6 ヶ国での維持年金と等価になると考えられます。
 いわゆる「マルタの問題」に関するさらなる懸案事項があります。EUP は参加するEU の国をすべてカバーする単一の権利になる予定です。しかしながら、EUP は、基礎の欧州特許出願で指定されなかった国をカバーすることはできません。マルタは2007年7 月に欧州特許条約に参加したに過ぎず、係属中の欧州出願の約30%はマルタをカバーしません。その結果、マルタがパッケージを批准すれば、マルタをカバーしないいかなる欧州出願もEUP にはなり得ません。潜在的な解決は、2007 年7 月以前の、係属中の欧州出願の数が少なくなるまで、マルタが批准を遅らせることです。
<UPC の司法権とその離脱について>
 上記のように、UPC は、参加するEU の国をカバーするすべてのEUP およびすべての「従来の」欧州特許に対する司法権を有する予定です。
 従来の欧州特許の特許権者は、UPC 存在の最初の7 年にUPC の司法権から離脱可能となる予定です。離脱可能な期間は、14 年後にまで延長されるかもしれません。係属中の訴訟手続がなく、特許権が存続している限り、従来の欧州特許の特許権者は7 年の期間にいつでも離脱することができます。離脱に関する料金は各特許には設定される予定ですが、現状、まだ設定されていません。システムが最初に有効になる際に、各特許権者に対して特許の数と無関係に単一の料金を適用することについて議論がなされました。手続規則のドラフトは、UPC が有効になる前に選択的離脱が登録されることを可能にするために、さらに「サンライズ」期間を設けるとしています。それ故、UPCの開始と同時に選択的離脱が大量に要求されるといった事態は回避されます。UPC の司法権からひとたび離脱しても、従来の欧州特許権者は訴訟手続が始められていない限り、UPC の司法権へ戻すことが可能です。
<UPC の手続>
 UPC の手続の規則は、UPC の詳細を管理する予定です。規則のドラフトはUPC で訴訟手続のために詳細なタイムスケールを規定しています。UPC は約12 ヶ月で訴訟のアクションを終えることを目標としています。
 論争の的になっている様相のうちの1 つは、訴訟手続のいわゆる「分岐」(侵害訴訟と無効訴訟とを異なる裁判所で審理すること)です。侵害訴訟と無効訴訟とが分岐された場合、裁判所は一方の訴訟手続の間、他方の訴訟手続を止めるかもしれません。規則のドラフトは、無効になる可能性が高い場合には侵害訴訟手続が止められるだろうということを規定しています。
<特許出願人の考慮すべきこと>
 まず、考慮すべきことは、EUP が現在未決の欧州特許出願に対する魅力的なオプションになるだろうかどうか、ということです。
 特に、EPO は、その分割の期限に関する規則の撤廃を最近発表しました。新しい規則は2014 年4 月1 日から有効で、許可よりも以前であれば分割出願が可能となります。
 その結果、「古い」分割出願の期限がすでに経過した場合であっても、2014 年4 月1 日から、欧州特許出願からの分割が可能となります。単一特許のパッケージが有効になったのちにはこのような分割出願が可能となります。それ故、EUP では分割出願が許可されることもあります。
 次に配慮すべきことは、「従来の」欧州特許にUPC の司法権からの選択的離脱があるか否か、ということです。多数の司法をカバーする単一の施行訴訟は確かに魅力的なものではありますが、いくらかは、および新システムの質やコストの不確実性は心配され得るものです。従って、最初にシステムを離脱することは賢明であり、そうでないならば、離脱のための料金は法外に高いものです。
<結論>
 統一特許のパッケージは、現在の段階に到達するために様々なハードルを克服してきました。そして、パッケージが実施されるようになるまでにはさらに多くの労力が必要とされます。しかしながら、システムには政治的な勢いが伴われており、2015 年には現実のものとなるでしょう。
 特許出願人・特許権者は、パッケージが有効となるときにシステムを最大限にするために戦略を考慮し始めることができます。当事務所は、皆様に最新の情報を届けて参ります。

[情報元]Mewburn Ellis Newsletter, January 2014
[担当]深見特許事務所 丹羽愛深