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さよならBest Buy?

-米国の電子機器に関する多国籍企業Best Buy、英国での使用による識別性獲得を証明できず-
Best Buy は自社商標Best Buy とBest Buy(下記の図形)につき英国で商標登録出願をしました。本出願は様々な役務についてなされましたが、本件は特に小売サービス(第35 類)に関するものです。

 これらの出願(2010 年3 月4 日提出)は最初、文字標章Best Buy は本質的には記述的なものに過ぎず識別性を欠いているという理由で拒絶されました。Best Buy 図形も、本質的には記述的なものに過ぎず識別性を欠いているという理由で拒絶され、ヒアリング・オフィサーは黄色い揺れるタグの図形につき、消費者が商標として認識することに変わるものではないとも判断しました。
 指名人の決定によれば、Best Buy はこれら事実認定を争いませんでした。代わりに、控訴審で争点となったのは、当該商標が使用により識別力を獲得しているという主張を立証すべく提出された、使用の証拠に関するヒアリング・オフィサーの認定についてでありました。
Best Buy の証拠の内容は以下の3 つに分けられます。
1.プレス記事―Best Buy とCarphone Warehouse との合弁事業に関するもの
2.広告―第一号店進出に関するBest Buy のメディア・キャンペーンからなるもの
3.ソーシャル・メディアの存在
 Best Buy は、ヒアリング・オフィサーがこれら提出証拠に基づき下した判断は誤りだと主張しました。
 プレス記事に関し、Best Buy は、Carphone Warehouse との合弁事業及び英国での店舗展開計画について述べたGuardian 紙およびFinancial Times 紙のオンライン版の記事を提出しました。さらに、Best Buy が提出したものには、英国のウェブサイト上でのBest Buy 自身のプレスリリースもありました。また、Thurrock やSouthamptonでの採用活動も証拠として挙げられました。ヒアリング・オフィサーは特に、主な争点を前述の合弁事業としたうえで、これらの記事は一般消費者には読まれたであろうが、英国にある類似商品の他の小売業者に向けられたものである蓋然性がより高いと考えました。
 記事の及ぶ範囲という観点では、一般的需要者を対象とした持続的で広範囲な広告キャンペーンというものはありませんでした。ヒアリング・オフィサーは、英国内での露出度はとても低く、その標章の出所表示機能に関して、その標章からもっぱらBest Buyを想起させるほどには平均的需要者を再教育できないと結論づけました。この点に関し、指名人は、こうした証拠はせいぜい背景資料として検討されるに過ぎないとし、ヒアリング・オフィサーが十分に検討しなかったことに関して過誤はないとしました。
 店舗進出についての広告を示す提出証拠に関しては、Thurrock 地元住民へのチラシや、ポスターや掲示板でのキャンペーン、ラジオ局での言及や第一号店オープン日でのMetro(ロンドンのフリーペーパー)全面広告などから構成されました。ヒアリング・オフィサーはこうした証拠は非常に限定的な地理的範囲のものであり、提出証拠は、全国規模で識別性を獲得したと証明するに足らないとしました。
 提示されたBest Buy のソーシャル・メディアの存在ということに関しては、Best Buyのウェブサイトや、フェイスブック・ツイッター・Flickr・ユーチューブ上でのアクテビティがあり、それらすべてで当該商標が示されていました。ヒアリング・オフィサーは、こうした証拠を考慮していないと批判されました。しかし、指名人は「根拠を示す義務は過大な負担になるべきではなく、すべての要素が確認され説明される必要はない」と確認しました。
 Best Buy はInterbrandDesignForumの最も価値ある米国小売ブランド2009 でBestBuy は2 位だったという発表も提出しました。ヒアリング・オフィサーは、この証拠は米国に関係するものであり、英国には関連しないと述べました。
 Best Buy の代理人が掲げた主張や証拠にも関わらず、控訴は失敗しました。
 本件の結果、使用による識別性の獲得のケースにおける、商品と関連証拠の重要性が高まりました。特に、主張を補強するため、英国全域で使用することの重要性が高まりました。

[情報元]D. Young Newsletter(Mar. 2013)
[担当]深見特許事務所 並川鉄也