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英国の欧州離脱に向けた欧州連合からの離脱合意草案の発表

 欧州連合(EU)は、2018年3月19日付で英国の欧州連合(EU)からの離脱、いわゆるBrexitに関する合意草案を公表しました。知的財産に関する条項は、主に第50条〜第57条(包括的)に記載されており、商標及び意匠に関する事項の主要な点は下記のとおりです。
〇英国が正式にEUから離脱する2019年3月29日から2020年12月までを「移行期間」とする。この期間中はEU法は英国でも適用されるので、欧州連合商標(EUTM)及び登録共同体意匠(RCD)に関する権利は英国においても有効である。
〇移行期間の終了時点で有効に登録されているEUTM及びRCDは、その後は同等の権利の内容で英国特有の権利として引続き保護される。英国特有の権利は、「親」登録であるEUTM又はRCD(EUの残りの27の加盟国を引続きカバーする)の出願日、優先日、先順位日が維持され、最初の更新期限は「親」登録と同じになる。
〇移行期間の終了時に係属していたEUTM及びRCDに対する無効・取消審判等において、その後にこれらが取消決定された場合、無効理由等の原因が英国では認められない等の事情がない場合、対応する英国特有の権利も取消される。
〇離脱後の英国特有の権利は、移行期間の終了前に英国において「親」登録であるEUTMが使用されなかったことに基づいて取消すことはできない。英国政府は、移行期間の後、英国での使用開始が求められる期間を決定する。
〇EUで得られているEUTMの名声は、移行期間の終了時に存在する英国特有の権利の商標にも同等に認められるが、移行期間後は、英国における使用が基準となる。
〇マドリード/ハーグシステムによる商標又は意匠の国際出願におけるEUの指定は、同様に英国においても引続き有効である(詳細については、英国政府が確認する必要がある)。
〇移行期間の終了前に発生した非登録意匠権は、英国においても残存する相当の有効期間(3年以内)において引続き有効となる。
〇移行期間終了時までに出願日を付与された係属中のEUTM又はRCDは、同一の内容の商標・意匠について「親」EUTM又は「親」RCDと同じ出願日・優先日を維持した英国出願をすることができる期間として9ヶ月優先期間が付与される。

 草案中の条項の大半は、至極常識的であって、かつ英国の2016年の国民投票以来、権利保有者と実務者によって提唱された論理的アプローチが反映されているといえます。また、提示されている移行期間は、知的財産権の権利者やその他の利害関係者がBrexitに向けて準備し、英国と残りの27の加盟国の両方でIPポートフォリオを安定的で有効なものとして維持することを確認する期間として、合理的かつ妥当であると思われます。
 今般の合意離脱草案は、EU側が独自に公表したものであり、これに対して英国側からは正式には何らの反応も示されておらず、未だ確定したものではありません。しかしながら、約1年後の2019年3月に離脱を控えてEUと英国のいずれからもBrexitに関する公式的な見解が何ら示されていなかったところに1つの具体的な方向性が示されたことにはなります。“Brexit Day Cliff Face”といわれていた懸念がやや後退したかと思われます。

[情報元]D Young & Co IP Cases & Articles – March 29, 2018
[担当]深見特許事務所 藤川 順