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CAFCは、“当業者であれば、コエンザイムQ10をD-リモネン中に溶解させることが成功するということを、合理的に予測できる”というPTABの見解を支持した

(1)背景
 JARROW社(以下、請求人という)は当事者系再審査(inter partes reexamination)を請求し、SOFT GEL TECHNOLOGIES社(以下、被請求人という)が特許権者である、「コエンザイムQ10」を「d-リモネン」中に溶解させることを特徴とする3つの特許権は、先行文献に基づき自明であると主張しました。特許審判部(Patent Trial and Appeal Board: PTAB)は、請求人の主張を支持し、5つの先行文献には、請求人が有する特許発明の構成要素の全てが開示されていると認定しました。その上で、当業者であればこれらの先行文献を組合せることにより、被請求人が有する特許発明に想到することができると合理的に予測できるため、被請求人の特許権は無効であると認定しました(SOFT GEL TECHNOLOGIES INC. v. JARROW FORMULAS, INC., Appeal Nos. 16-1814; -1815; 17-1051 (Fed. Cir. July 26, 2017))。被請求人はその後CAFCに提訴しました。
(2)CAFCにおける争点
 当業者であれば先行文献を組合せることにより、被請求人が有する特許発明に想到することができると合理的に予測できる、というPTABの認定は誤りであるか否か。
(3)ディスカッション
 被請求人は、先行文献において「コエンザイムQ10」が「レモンオイル」に可溶であることは開示されているものの、「コエンザイムQ10」が「d-リモネン」に可溶であることは、明示的に開示されていないと主張しました。したがって当業者は、先行文献からは「コエンザイムQ10」を「d-リモネン」中に溶解させることが成功するということを、合理的に予測できないと主張しました。
 CAFCは、以下の点に着目しました。請求人は「d-リモネン」は、「レモンオイル」の主な構成要素であるという、PTABの発見を考慮していない点。更には、(1)1つの先行文献は、「カルボン」と「コエンザイムQ10」との相互作用、および「リモネン」と「コエンザイムQ10」との相互作用のテストを行なうことを提案しており、(2)他の先行文献は、「コエンザイムQ10」が「カルボン」に可溶であることを開示している点。
 CAFCは、当業者が、「コエンザイムQ10」が「カルボン」に可溶であることと同様に、「コエンザイムQ10」が「リモネン」にも可溶であるということを予測する、合理的な理由が存在すると認定しました。
 被請求人は、一つの先行文献の発明者が、被請求人の特許権に係る優先日以降に、「コエンザイムQ10」が、「レモンオイル」に含まれる「d-リモネン」に可溶であるかについての追加実験を行なったことを指摘しました。被請求人は、発明者が係る追加実験を行なったことは、「コエンザイムQ10」が「レモンオイル」に可溶であるという実験結果からは、「コエンザイムQ10」が、「d-リモネン」に可溶であることが自明でないことを示していると主張しました。
 CAFCは、被請求人の主張を採用しませんでした。その上で、被請求人は自明性の判断において、“完全なる予測可能性”は要せず、“合理的な予測可能性”があれば足りるという法的基準を適用していないと指摘しました。CAFCは、先行文献には「コエンザイムQ10」が「d-リモネン」に可溶であることは開示されていないものの、「d-リモネン」が、「レモンオイル」の主な構成要素であるという事実に鑑みれば、当業者が「コエンザイムQ10」が、「d-リモネン」に可溶であると予測することができないこと、を意味しないと認定しました。
 CAFCは、追加実験は、可能性がある結果が得られることに対する、意識の欠如を暗示するものでは無く、真実の確認のためにしばしば行なわれるものであると結論付けました。

[情報元]Oliff Special Report, August 16, 2017
[担当]深見特許事務所 池田 隆寛