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自明性判断における、先行文献が教示する事項を考量する際の柔軟性について

 CAFC は、自明性判断において「柔軟に自明性判断を行なうこと」を支持するとともに、自明性判断における二次的考察事項(Secondary Consideration)をいかに評価すべきかについて明確にしました(ClassCo,Inc. v. Apple Inc., et al., Case No. 15-1853 (Fed.Cir., Sep. 22, 2016))。 

(1)背景
 ClassCo 社(以下、原告という)は、Apple 社およびその他数社(以下、被告という)を、自社の特許権を侵害しているとして提訴しました。原告の有する特許発明は、発信者番号や発信者の識別番号を通知する“caller ID technology”に係るものであり、既存の技術と比較して、「電話の着信時において、相手の識別情報がアナウンスされる」という点が改善されているものです。
 被告は、当事者系再審査(inter partes reexamination)を請求しました。審査官および原告共に、主引例には、「『音声信号と識別情報の両方をアナウンスするための、単一のスピーカーの使用』を除いた全ての原告の特許発明に係る構成要素」が開示されていることを確認しました。その上で審査官は、「様々な種類のデータから、音声を生成することができる電話システム」が副引例に開示されている事を根拠に、原告の発明は主引例および副引例から自明である、と認定しました。
 副引例には、「音声信号と識別情報の両方をアナウンスするための単一のスピーカーの使用」は明示的には記載されていませんでした。しかしながらPTAB は、副引例を参照して、主引例を改良することにより、原告の特許発明に想到することは、予測しうる結果である、と認定しました。PTAB は、原告の主張する「二次的考察事項に係る証拠」は、「クレームにおいて規定された発明により得られた利点に対して十分な関連性を有さず、クレームの範囲に相応しいものでもない」と認定し、かかる「二次的考察事項に係る証拠」は、自明性の判断に影響を与えないと認定しました。原告はその後CAFCに提訴しました。

(2)CAFC の判断
(2-1)KSR 判決との関係
 原告は、PTAB がKSR 判決において示された「自明性判断において、引例の組合せは、引例において開示された構成要素の機能を変化させず、クレームされたように組合せる」という指針を不適切に適用した、と主張しました。CAFC は、「当業者であれば、引例において開示された構成要素を、引例において開示された目的以外の目的で用いることは自明であり、さらにKSR 判決は、自明性判断に『柔軟なアプローチ』を許容するものである」とし、PTAB が行なった自明性判断は「柔軟なアプローチ」を採用したものであり、適切であると認定しました。
(2-2)二次的考察事項(Secondary Consideration)について
 CAFC は、原告が主張する「二次的考察事項に係る証拠」は、主に従来の技術において既に採用されている特徴に対する賞賛であったため、当該二次的考察を意図的に考慮しなかったPTAB の判断は適切であると認定しました。しかしながら、PTAB が原告が提出した「二次的考察事項に係る証拠」の一部を、「賞賛の対象ではない形態のクレームも包含している」という理由で却下したことは、不適切であったと結論付けました。却下された「二次的考察事項に係る証拠」の対象となる特徴は、クレームに明確に包含されていました。したがって、「賞賛の対象ではない別の実施形態」を包含するクレームが存在する場合であっても、原告サイドはかかる別の実施形態を販売等し、賞賛を得ている必要はありません。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update Vol. 19, No. 10
[担当]深見特許事務所 池田 隆寛