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コンピュータ関連発明に対する特許適格性基準の進展

 2016年5月12日に、CAFCは、Alice適格性テストのステップ1の下で、コンピュータ機能の改善を目的としたクレームは、その発明が、コンピュータ自体の動作の改善を目的としている場合には、抽象的アイデアではないと判示しました(Enfish, LLC v. Microsoft Corp.)。CAFCは、列によって行を定義する自己参照論理テーブルとして構造化されたコンピュータ化されたデータベースのクレームは、特許適格性を有すると判断しました。CAFCは、自己参照データベースによって、従来のデータベースを用いるよりも、高速サーチ、簡易な構成、効果的なデータ記憶が可能となるので、当該クレームは、コンピュータ機能の抽象的ではない改善を目的としたものであると判示しました。
 2016年5月17日に、CAFCは、コンピュータ化されていない機能を支援するためにコンピュータを用いるコンピュータ関連発明は、抽象的アイデアであり、Alice適格性テストのステップ1に従い、特許適格性を有しないと判示しました(In re TLI Communications LLC Patent Litigation)。CAFCは、写真の日付または位置などの分類情報を用いて写真などのデジタル情報を整理しかつ記憶するコンピュータ関連発明のクレームは、特許適格性がないとして、地裁判決を支持しました。CAFCは、クレームの方法は、コンピュータ機能を改善するものではなく、単にコンピュータを用いて従来からの文書のインデックス付けを容易にするものなので、抽象的なアイデアであると判断しました。CAFCは、クレームの残りの限定内容(サーバ、電話ユニット)は、この抽象的アイデアを実現する環境を提供しているに過ぎないから、特許適格性がないと判示しました。
 2016年5月26日に、PTAB(USPTO審判部)は、Enfish判決を適用して、コンピュータ機能の改善を目的としたクレームは、Alice適格性テストのステップ1の下で特許不適格となる可能性は低いと判断しました(Ahold USA Inc. v. Advanced Marketing Systems, LLC)。PTABは、コンピュータ機能の改善を目的としたクレームについて特許適格性を理由としてCBM(ビジネス方法特許)レビューすることを拒否しました。問題となったクレームは、ベンダーが1つのクーポンで複数の割引(discount)を使用可能にし、消費者が割引された商品を購入したときに、使用された割引を選択的に無効にすることができるコンピュータ関連発明です。PTABは、CBMレビューの申立人が、クーポンとデータ処理部の組合せではなく、クーポンが抽象的なアイデアであるかどうかだけを分析したことが誤りであると指摘しました。PTABは、クレームを全体的に分析した結果、クレームは、コンピュータ機能の改善を目的としており、割引を提供し、追跡し、処理するという抽象的なアイデアではないと判断しました。ただし、PTABは、記載要件および新規性の理由に基づいてCBMレビューを開始しました。

実務上の注意点
USPTOは、コンピュータ関連発明が特許不適格のため拒絶される状況を削減するために、審査官がEnfish判決を適用するための審査官メモを既に発表しています。

https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/ieg-may-2016_enfish_memo.pdf[情報元]McDermott Will & Emery IP Update Vol.19, No.6
[担当]深見特許事務所 西川 信行