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補償金請求権の成否-公開特許出願を知っているとは-

 米国特許法第154条(d)に基づく補償金請求のための要件である“知っていたこと”に関する初めての判断において、CAFCは、被告がその公開特許出願を実際に知っていたことを特許権者が立証できない場合には補償金請求権はないとの地裁の略式判決を支持しました。Rosebud LMS Inc. v. Adobe Systems Inc. Case No. 15-1428 (Fed. Cir., Feb. 9, 2016)
 本訴訟は、特許権者RosebudによりAdobeに対して1つのファミリー特許内の種々の特許権侵害を主張して提起された3度目の訴訟です。補償金請求権に関して、Adobeは、Rosebudからの公開特許出願の通知がなかったと主張して、略式判決を求めました。Rosebudは、重大な事実が依然として争点となっており、本件特許の親出願の親出願に係る特許を実際に知っていたこと、Adobeが長年Rosebud製品を模倣してきたこと、およびAdobeの外部弁護士が職務として公開特許出願を調べていたであろうことを主張しました。ディスカバリーの終了の1ヶ月前に、地裁は、Rosebudが実際に知っていたことを要件とする米国特許法第154条(d)に適合しておらず、その根拠はせいぜい推定的に知っていたことの証拠に過ぎないと認定し、Adobeの略式判決の申立を認めました。
 CAFCは、米国特許法第154条(d)は損害賠償請求権が特許期間中の侵害のみにより発生するという一般ルールの狭い例外であること、および、第154条(d)の条文は侵害者が公開特許出願を実際に知っていたことの証明を要求していることをはじめに指摘しました。CAFCは、“推定的に知っていたこと”では十分でない点で地裁に賛同しました。CAFCはさらに、特許表示の場合(米国特許法第287条(a))とは異なり、第154条(d)は、特許権者が損害賠償請求権を得るために被疑侵害者に対して積極的に通知することは要求していないことを説明しました。
 実際に知っていたことの議論のサポートとしてRosebudが提出した証拠を分析した後、CAFCは、地裁と同様に、Rosebudの証拠が不足していると認定しました。Adobeが親出願の親出願に係る特許を知っていたという事実では不十分と認定しました。CAFCは、被疑侵害者が本件公開特許出願の特定クレームを知っていなければならず、ファミリー出願の明細書を知っていることは米国特許法第154条(d)を満たさないと説明しました。同様に、AdobeがRosebud製品を詳細にモニターしていたこと、および、AdobeがRosebudの公開特許出願を検索していたことを示唆する証拠はありませんでした。CAFCはまた、Adobeの弁護士が前訴において出願を評価していたであろうというRosebudの主張を、証拠によりサポートされていないことを理由に拒絶しました。
 実務ノート:特許権者は、米国特許法第154条(d)に基づく補償金請求権を主張するためには、被疑侵害者に対し公開特許出願について通知をしておくべきです。

[情報元]McDermott Will & Emery, IP Update, Vol. 19, No. 3, March, 2016
[担当]深見特許事務所 小寺 覚