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本質的に生物学的なプロセスによって得られた植物の特許適格性に関する欧州特許庁の審決

 欧州特許庁(EPO)の技術審判部は、2018年12月5日、EPOの拡大審判部(EBA)の審決で解釈されていた欧州特許条約第53条(b)は同条約の施行規則28(2)に抵触しており、条約164条(2)により、条約53条(b)が施行規則28(2)に優先する結果、条約53条(b)の下では、本質的に生物学的なプロセスによって得られた植物は特許対象から除外されないと審決しました(T1063/18)。本事件の背景は以下のとおりです。
 条約53条(b)は、植物若しくは動物の品種又は植物若しくは動物を生産する本質的に生物学的な方法を特許対象から除外しておりますが、本質的に生物学的な方法によって得られた動植物自体が特許対象から除外されることは明文上規定されておりません。そして、EBAは、審決G2/12及びG2/13において、本質的に生物学的な方法によって得られた植物自体は特許対象から除外されないという条約53条(b)の解釈を示しておりました。
 これに対し、弊所外国知財情報レポート2017年夏号に記載致しましたとおり、欧州議会の決議に基づく欧州委員会のEUバイオ指令(98/44/EC)の立法者の意図に関する通知を受けて、EPOを監督する立場にある欧州特許機構管理理事会(条約4条(3))は、2017年6月末に、「条約53条(b)の下では、専ら本質的に生物学的なプロセスによって得られた動植物は特許されない」という施行規則28(2)を追加する改正を行いました。
 ところが、条約164条(2)は、「本条約の規定と施行規則の規定とが抵触する場合は、本条約の規定が優先する」と規定しております。
 本事件において、3名の技術系審判官と2名の法律系審判官とで構成される技術審判部の合議体は、① EBAの審決G2/12及びG2/13後の事情に照らしても、条約53条(b)の解釈について、EBAのこれら審決から逸脱する理由(EPO審判手続規則21条)がないため、EBAの審決で解釈されていた条約53条(b)と施行規則28(2)とは抵触していると判断し、② 条約164条(2)により、条約53条(b)が施行規則28(2)に優先する結果、条約53条(b)に関するEBAの解釈に従って、条約53条(b)の下では、本質的に生物学的な方法によって得られた植物自体は特許対象から除外されないと審決しました。

[情報元]EPOのHP https://www.epo.org/news-issues/news/2019/20190205.html
[担当]深見特許事務所 日夏 貴史