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(英国)新規事項を追加する補正に関する判断が分かれる

 Novartis社は、医薬エベロリムスについて、補充的保護証明書(SPC)を所有し、かつ第二医薬用途に係る特許EP(UK)2269603を所有しています。英国においてエベロリムスは、ホルモン受容体陽性乳癌の治療薬として多く使用されています。
 EP2269603の異議申立手続において、EPO異議部は、「ホルモン受容体陽性乳癌のためのエベロリムスとエキセメスタンとを含む特定の併用療法に対する示唆はない」、「この併用を、当業者は、出願当初の記載内容から明確に現れ出るものとは予期しないであろう」と認定して、クレームは新規事項を含んでいるから無効であると結論づけました。この異議決定に対してNovartis社は審判を請求し、現在審判部に係属中です。
 Dr. Reddy’s社は、上記のエベロリムスの第二医薬用途についての許認可を取得し、Novartis社のSPC存続期間満了後にジェネリック医薬の販売開始を目論みました。
 Novartis社はこの販売開始を妨げる仮差止めを求めて英国特許裁判所に訴えました(Novartis v Dr. Reddy’s([2019] EWHC 92))。Dr. Reddy’s社は、Novartis社の特許は無効であるからジェネリック医薬の販売は特許権を侵害しないと主張しました。特許裁判所は、EPOの異議決定には同意せず、「EPO異議部は出願書類全体の開示を見落とすという不当な技術的アプローチを取ったと思える」としました。特許裁判所は、「新規事項の追加はなく、したがって特許は有効である」とする、EPOの異議決定とは異なる判決を下し、Dr. Reddy’s社に仮差止めを命じました。これによりDr. Reddy’s社は、クレームに係る医薬用途だけでなく他の適応症のためのジェネリック医薬の販売もできないこととなりました。
 英国特許裁判所の判決における論旨が、EPO審判部における審理においてどのように用いられるのか、興味深いことです。

[情報元]  D Young & Co Patent newsletter No. 70, April 2019
[担当]深見特許事務所 村野 淳