国・地域別IP情報

「成功の合理的な期待」に逆らう実世界の証拠(臨床試験の失敗)

 CAFCはこのほど、成功の合理的な期待が実世界の証拠によって裏付けられていないとして、PTABがした自明性の判断を覆しました(OSI Pharm., LLC v. Apotex Inc., Case No.18-1925 (Fed. Cir. Oct. 4, 2019) (Stoll, J))。
 OSI特許は、非小細胞肺癌(NSCLC)を公知の薬剤“エルロチニブ”で治療する方法をクレームしていました。IPRにおいてPTABは、引例Schnurと引例Gibbsまたは引例OSI 10-Kとを組合せることにより、OSI特許クレームは自明であると判断しました。
 引例Schnurは、肺癌をはじめ様々な癌の治療に有用なエルロチニブを含む105の化合物を開示していましたが、NSCLCをエルロチニブで治療することについては教示していませんでした。引例Gibbsは、NSCLCに対して用いる化合物ZD-1839の効果、およびNSCLC以外の癌に対して用いるエルロチニブの効果を教示していました。
 PTABは、引例Schnurおよび引例GibbsにおいてエルロチニブがNSCLCに対して有効であることを示していないにもかかわらず、これらの組合せに基づき、当業者は成功の合理的な期待をもってエルロチニブでNSCLCを治療できると結論づけました。
 またPTABは、引例OSI 10-Kがエルロチニブの第II相臨床試験について開示していたため、引例OSI 10-Kが第I相臨床試験および前臨床試験においてエルロチニブが成功裏に実施されたことを示すと認定し、引例OSI 10-Kに基づいて当業者は、成功の合理的な期待をもってエルロチニブでNSCLCを治療できるとしました。以上からPTABはOSI特許を無効であると判断しましたが、これに対しOSIは控訴しました。
 CAFCは、PTABが実世界の証拠によって裏付けられた以上の教示を誤って認定していると結論付けました。特にCAFCは、PTABが認定した成功の合理的な期待に関し、1990年から2005年の間に第II相臨床試験を実施したNSCLC治療薬の99.5%以上がFDAの製造承認を得られていないという実世界の証拠、およびエルロチニブがNSCLC治療に有用であるという証拠が上記の前臨床試験およびin vitro試験からも認められないことを考慮し、「エルロチニブがNSCLCの治療に効果的である」という期待は、「希望以上の何物でもない」と結論づけました。
 実務上の注意:CAFCは、成功の合理的な期待を認定するのに必ずしも有効性データが必要となる訳ではないとし、本判決は、本事件に限定的に適用されると述べました。ただし本判決によって、特定の治療が予測不可能であるという実世界の証拠がある場合、治療方法の特許を無効にすることはより困難となる可能性があります。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update Vol. 22, No. 11
[担当]深見特許事務所 田村 拓也