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(英国)英国最高裁判所によるSEPライセンスに関する判決

 2020年8月26日、英国最高裁判所は、英国のSEP(Standard Essential Patent)のライセンスをめぐるUnwired Planet International Ltd(以下「Unwired Planet社」)v Huawei Technologies Co Ltd(以下「Huawei社」)事件並びにConversant Wireless Licensing SÀRL(以下「Conversant社」) v Huawei社 and ZTE Corporation(以下「ZTE社」)事件において、ZTE社およびHuawei社の双方の上告を棄却し、英国の裁判所がグローバルFRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)ライセンスの条件を解決し、SEPの侵害者に対して差止命令を出すための管轄権を有するとの見解を示しました。
 この判決は、Unwired Planet社、Huawei社、Conversant社およびZTE社を含むグローバルな一連の紛争を扱っており、英国最高裁判所は、英国が適切な裁判地であるとの見解を示しました。英国最高裁判所は、上告を棄却する上で、下級裁判所がこれまでに検討してきた4つの争点と、最高裁で初めてHuawei社が提起した5つ目の争点とを検討し、それぞれ以下のような判断を下しました。
 (争点1:管轄権)
 英国最高裁判所は、ETSI(European Telecommunications Standards Institute)が知的財産権政策の下で作成した契約上の取り決めによると、英国の裁判所には以下の2点について管轄権があり、これらの権限を適切に行使することができるとの判断を示しました。
  (a) 特許発明の実施者が多国籍特許ポートフォリオのグローバルライセンスを締結しない限り、SEPである英国特許の侵害を差し止める差止命令を出すこと
  (b) そのようなグローバルライセンスのロイヤリティ率やその他の条件を決定すること
 (争点2:適切な法定か?)
 英国最高裁判所は、中国の裁判所は、現在、当事者の合意なしにグローバルFRANDライセンスの条件を決定するための管轄権を有していないが、英国の裁判所はそのような管轄権を有しているため、英国の裁判所がFRANDライセンス紛争を審理したことは正しいとの判断を示しました。
 (争点3:非差別問題)
 英国最高裁判所は、SEPの所有者は、同様の状況にあるすべてのライセンシーに最も有利なライセンス条件と同等の条件でライセンスを付与する必要はないとの判断を示しました。
 (争点4:競争問題)
 英国最高裁判所は、Unwired Planet社は、どのようなものであれ裁判所がFRANDと認める条件でライセンスを与える意思があることを示していたため、TFEU(Treaty on the Functioning of the European Union)第102条に違反しないとの判断を示しました。
 (争点5:差止命令は適切か?)
 英国最高裁判所は、差止命令を損害賠償の裁定に代えることができる根拠はなく、SEP権者がすべての法域で損害賠償を求める訴訟を起こすことは現実的ではないため、損害賠償は適切な救済手段とはならないとの判断を示しました。
 今回の判決は、グローバルな紛争の解決を支援する英国裁判所の意思を確認したものとなっています。英国最高裁判所は、英国裁判所が、英国特許に関する管轄権に基づいて、グローバルなFRANDライセンスを決定し、かつ、個々のライセンスに対してではなく特許ポートフォリオに対してのロイヤリティ率を設定できるとの立場を示しており、将来的に、複数のSEP実施者が関与する紛争が減少する可能性があります。

[情報元]Venner Shipley LLP News|August 26, 2020
[担当]深見特許事務所 板谷 諭