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CAFCは、クレーム解釈において文法を厳格に適用し、”a plurality of”というフレーズが、その後に続く一連の名詞の各々を修飾すると判断した

SIMO Holdings, Inc. v. Hong Kong uCloudlink Network Technology Limited, Case No.19-2411 (Fed. Cir. Jan. 5, 2021)

 SIMO社は、特許権侵害でuColudlink社を訴えました。問題の特許クレームは、海外を旅行する者がローミングの課金を生じさせることなく未加入のキャリアを利用することを可能にする通信プロトコルデータ転送および認証機能を実行する装置をカバーしていました。
 争点は、クレーム8のプリアンブル中の下記の文言の解釈でした。
“A wireless communication client or extension unit comprising a plurality of memory, processors, programs, communication circuitry, authentication data stored on a subscribed identify module(SIM) card and/or in memory and non-local calls database …”
 特に以下の2点が問題となりました:
 ① プリアンブルにおけるこのような一連の技術的な構成要素の列挙が限定を構成するのかどうか
 ② プリアンブルが限定を構成するのであれば、”a plurality of”というフレーズにより、本発明が、これらの列挙された構成要素の各々を「複数」ずつ有していなければならないのか、または、これらの構成要素全ての中から2つ以上を有していればよいのか
 特に②の争点は決定的な要素となります。なぜなら、uColudlink社の被告製品は、”non-local calls database”を全く有していなかったからです。
 上記の①の争点については、プリアンブルの記載が限定になるという点で、第1審の地裁と控訴審のCAFCは共通の判断をしました。
 上記の②の争点については、”a plurality of”が後の構成要素にどのように係るかについて地裁とCAFCとでは判断が逆になりました。
 (1) 地裁の判断
 発明は、a plurality ofの後に列挙された一連の構成要素全ての中から2個以上含んでおればよく、”non-local calls database”は選択的であって必須の構成要素ではないとの広い解釈をした結果、”non-local calls database”を全く有していない被告製品もクレームの範囲に含まれ侵害との判断がされました。
 (2) CAFCの判断
 CAFCは、地裁のクレーム解釈は文法の適用に基づくクレーム解釈と食い違っており、「列挙された一連の構成要素の各々が複数でなければならない」として限定的な狭い解釈をした結果、”non-local calls database”を全く有していない被告製品はクレームの範囲に含まれず非侵害との判断がされました。
 CAFCは”a plurality of”の解釈にあたり、多くの権威ある文法書やロースクールの教科書を徹底的に調べた上で、文法に基づく文法解釈を行い、「直列に並んだ複数の名詞はその各々が、一般的に、それらの名詞に先行するフレーズ(ここでは”a plurality of “)によって修飾され、特に名詞の列挙が”or”ではなく”and”で終わる場合には特に説得力がある」と結論付けました。特に、問題の”non-local calls database”には冠詞は付されておらず、構成要素のリストの最後にあってこの構成要素だけをリストから分離する事情はなく、このリストの部分の後で、いくつかの構成要素は複数ある物として言及されており(たとえば”the plurality of programs”)、したがって、”non-local calls database”を含む一連の構成要素の「各々」が複数でなければならない、との結論になりました。このようなCAFCのクレーム解釈の結果、いくつかの実施形態が明細書から除外されることとなりました。CAFCは、クレーム文言によって要求されるときはそのような実施形態の除外は適切であると結論づけました。
 このように、CAFCが文法解釈に拘ったため、地裁の860万ドルの賠償金の判決が覆ってしまうことになりました。クレームを作成するときには、意図した本来の意味を反映させるために、通常の文法の用法の正確さを担保する必要があると考えられます。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | January 2021
[担当]深見特許事務所 堀井 豊