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CAFCは、特許侵害で訴えられてはいなかったIPR(inter partes review)の請求人は、請求を退けるIPRの最終決定に対して、問題となっているクレームを侵害する実質的なリスクがあったことを立証する事実を主張した場合には、上訴する原告適格があると判断した

General Elec. Co. v. Raytheon Techs. Corp., Case No.19-1319 (Fed. Cir. Dec. 23, 2020)

 Raytheon社は、ターボファンガスタービンエンジンを航空機のパイロン(エンジンを取り付ける支柱)に装着するための構成に向けられた特許を有しています。General Electric (GE)社は、民間航空機エンジンの市場でRaytheon社と競合しており、Raytheon社の特許のいくつかのクレームは2つの先行技術文献によって無効であるとしてIPRを請求しました。しかしながら、米国特許商標庁(USPTO)の特許審判部(PTAB)は、2つの特許文献の組合せには阻害要因があると判断してGE社の請求を退け、GE社はCAFCに控訴しました。
 Raytheon社は、実体審理に入る前に、Raytheon社は当該特許の侵害についてGE社を訴えたことはなくまた訴えると脅かしたこともないと主張し、GE社は原告適格を欠くとして訴えの却下を求める方向に動きました。
 この結果、原告適格に関する争点は、GE社が事実上の損害を十分に主張したかどうかに関わってきました。CAFCは、「控訴人が潜在的な侵害の責任に依拠する場合、控訴人は、将来の侵害の潜在的なリスクを生じさせる、または特許権者に侵害を主張させるであろう将来の活動に対する具体的な計画を有することを立証しなければならない」と説明しました。CAFCは、IPR手続に対する上訴においては、「控訴人が、侵害訴訟の可能性を高めるであろう活動に、従事してきた、従事している、または従事するであろうことを示せば一般的に十分である」と説明しました。
 GE社は、ギヤードターボファン構造および設計の開発のために2019年に1000万ドル~1200万ドルを費やしており、情報の要求に応じてAirbus社にギヤードターボファンの設計を提示した、という証拠を提出しました。GE社はまた、Raytheon社はGE社のエンジンをその特許を侵害しているとして訴えるであろうことを十分に予測している、ということを示した主任IPカウンセルの宣誓陳述書を提出しました。
 CAFCは、GE社は侵害を認めた訳ではないということを認めつつ、最も合理的な推測は、GE社がその新たな設計が侵害の実質的なリスクを高めると信じていたことである、と推察しました。このような事実の主張は原告適格を立証するのに十分なものでした。
(なお、実体審理においても、CAFCはPTABの阻害要因による結論を実質的な証拠がサポートしていないとして退けました。)
 このように、CAFCは、特許侵害で訴えられてはいなかったIPRの請求人は、問題のクレームを侵害する実質的なリスクがあったことを立証する事実を主張したので、IPRの最終決定について控訴できる原告適格があると判断しました。侵害で訴えられていないIPR請求人は、そのような控訴のための要件を満たす証拠を提出する必要性と、侵害を認めたくないこととのバランスを慎重に取る必要があります。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | January 2021
[担当]深見特許事務所 堀井 豊