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権利化手続中になされた矛盾する陳述は不明確さにつながる

Infinity Computer Products, Inc. v. Oki Data Americas, Inc., Case No.20-1189(Fed. Cir.2021年2月10日)(Prost, C.J.)

1.事件の概要
 コンピュータ端末とファックス機との間の接続を定義するための「パッシブリンク(passive link)」という用語の使用が特許クレームを不明確にするかどうかを決定するに際して、連邦巡回控訴裁判所(the US Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は、手続き中に特許権者によってなされた矛盾する主張に基づいて特許が無効であるとした地方裁判所の認定を支持しました。

2.本件特許の概要
 Infinityは、パーソナルコンピュータをファクシミリ機とインターフェースさせて、ファクシミリ機をパーソナルコンピュータ用のスキャナまたはプリンタとして使用できるようにするための回路を提供することに向けられた特許を所有しています。この特許は、非常に単純化された設計でかつ低コストの回路を使用することにより、スキャナまたはプリンタのすべての目的を単純で直接的な方法で達成しようとしています。特許クレームは、この機能が「ファクシミリ機とコンピュータとの間のパッシブリンクを介した双方向の直接接続を通じて」達成されると規定しています。Infinityは地方裁判所においてOkiに対して特許侵害を主張しました。

3.事件の経緯
 (1) 権利化手続
 「パッシブリンク」という用語は、特許明細書には記載されていません。Infinityは、Perkinsの先行技術特許に基づく拒絶を克服するために、権利化手続中にこの用語を導入しました。権利化手続中、Infinityは、クレームされた発明はPerkinsとは異なって、介在する回路を使用せずにファクシミリ機とコンピュータとの間で信号を中断することなく転送できる、と主張しましたが成功しませんでした。Infinityは、審査官との間で何度も補正と応答を繰り返した結果、やっとPerkinsに基づく拒絶を克服することができましたが、そのためには、発明は「ファクシミリ機とコンピュータとの間にパッシブリンクを形成し、したがってPerkinsが必要とするような介在する装置を何ら必要としない」と主張しました。Perkinsはモデムを使用しておりましたが、Infinityはこのモデムを、コンピュータ内部の「介在する装置」として特徴付けました。Infinityは、モデムは「データがコンピュータのI/Oバスに送信される前にデータを処理する、コンピュータの周辺機器と見なされるべきである」と主張し、コンピュータのI/Oバスにおいて「パッシブリンク」の境界を効果的に描画しました。
 (2) 査定系再審査
 特許許可後に、特許は3つの査定系再審査手続の対象となりました。この特許は親出願の一部継続であり、再審査手続で主張された先行技術引例を克服するために、Infinityは、クレームされた「パッシブリンク」要素は、先行する親出願の優先日の利益を享受する権利があると主張しました。Infinityは特に、「ファックス機30とPCコンピュータ40との間のデータ通信におけるRJ11電話ケーブルおよびその使用」に関する特許の記載は、「パッシブリンク」の定義に適合していると述べました。そう主張するに際して、Infinityは、コンピュータ内部のファックスモデム回路を開示した親出願明細書のいくつかの図面を指し示し、I/Oバスの前のコンピュータの外部ポートにおいて「パッシブリンク」の境界を効果的に描画しました。
 (3) 地方裁判所(一審)
 地方裁判所は、「パッシブリンク」の境界に不一致があると判断しました。これは「パッシブリンク」の境界は、権利化手続き中はコンピューターのI/Oバスにおけるものとして定義されていたのに対し、査定系再審査中はコンピューターの外部ポート、すなわちI/Oバスの上流の回路におけるものとして定義されていたためです。この不一致に基づいて、地方裁判所は、一方がどこで終わり他方がどこから始まるかは合理的に定かではないと述べて、「パッシブリンク」および「コンピュータ」という用語の不明確性に基づいて特許の無効の最終判決を下しました。InfinityはCAFCに上訴しました。

4.CAFCの判断
 CAFCは、地裁の不明確性の認定を肯定し、さらに本件を、Teva Pharms. v. Sandoz.事件(Teva Pharms. USA, Inc. v. Sandoz, Inc., 789 F.3d 1335, 1341 (Fed. Cir. 2015))における先例の認定になぞらえました。Teva事件において、裁判所は、「分子量」が3つの異なる方法のどれで計算できるかについてクレームの文言と明細書が何も記載していなかったため、「分子量」という用語は不明確であると認定しました。当事者は、結果として得られる分子量が、使用される方法に応じて実質的に異なる可能性があることに同意しました。権利化査手続中の2つの別々の時点で、特許権者は、2つの別々の拒絶を克服するために、異なる方法論を使用して用語を定義しました。裁判所はTeva事件において、権利化手続中になされた一貫性のない陳述が、「分子量」という用語が不明確であるというその判断をサポートするものである、と認定しました。
 CAFCは、Teva事件の事実が本件と類似していることを認めました。どちらの場合も、クレームと明細書は問題の用語を明確に定義していませんでした。さらに、審査経過の中で、特許権者は用語の定義に関して相反する陳述をしました。したがって、CAFCは不明確と地裁の認定を肯定しました。

5.実務上の注目点
 CAFCはまた、不明確性の判断のために、内部記録(intrinsic records)と外部記録(extrinsic records)とを区別することの重要性を強調しました。Infinityは、地方裁判所の手続き中に「反論されなかった専門家証言」を導入し、「パッシブリンク」という用語は構造を必要としないか、または「PCとファクシミリ機との間の途切れのない直接接続の経路に沿った処理要素または何らかのアクティブな構成要素によって、介在する装置や信号の遮断なしにデータがそこを転送される『リンク』として」解釈されるべきであると主張しました。CAFCは、提案された定義は「役に立たない」と指摘するとともに、地裁が専門家の証言を信用できないとしたことは適正であるとしました。なぜなら、Infinityの矛盾した立場は特許の記録から明らかであったからです。したがって、地方裁判所は、外部証拠の必要性を認めなかったものであり、CAFCも同じ立場です。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | February 18, 2021
[担当]深見特許事務所 堀井 豊