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CAFCは、投資の完全な回収は衡平法上の中用権の妨げにはならないと判示しました。

John Bean Technologies Corp. v. Morris & Associates, Inc., Case No. 20-1090, -1148(Fed. Cir. 2021年2月19日)

1.事件の概要
 米国連邦巡回控訴裁判所(the US Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は、地方裁判所による衡平法上の中用権(equitable intervening right)に関する略式判決(summary judgement)を支持し、特許の再審査中に実質的かつ大幅に変更された特許クレームを本来であれば侵害したであろう活動に対する責任から被疑侵害者を保護しました。

2.事件の経緯
(1)事件の発端
 John Beanとその唯一の国内競争相手であるMorrisは、家禽を処理するための冷却装置を製造しています。John Beanはその顧客に対して、Morrisの競合する冷却装置がJohn Beanの特許(米国特許第6,397,622号)を侵害していると伝えました。MorrisはJohn Beanに書簡を送り、そのような侵害の主張をやめるように要求するとともに、その書簡においてこの特許を無効にできるとMorrisが考えている先行技術を特定しました。結局John BeanはMorrisの要求書簡に応答することはなく、そしてMorrisは競合する家禽用冷却装置の製造と販売を続けました。
(2)査定系再審査の請求
 11年後、John Beanはその特許について査定系再審査(ex-parte re-examination)を請求しました。再審査手続中に、John Beanの特許の元のクレームは実質的かつ大幅に補正されました。
(3)地方裁判所の判断
 再審査証明書(reexamination certificate)が発行された後、John BeanはMorrisを侵害で訴えました。2016年、地方裁判所(アーカンソー州東部地区連邦地方裁判所)は、衡平法上の禁反言の積極的抗弁に関する略式判決を求めるMorrisの申立てを認めました。John BeanはCAFCに控訴しました。
(4)CAFCの判断
 CAFCは控訴審において、John Beanによって回答されなかったMorrisからの要求書簡は当該特許の元のクレームのみに関連するものであり、後に提起された訴訟においてMorrisが侵害したとして訴えられた変更された新しいクレームには関連していないため、衡平法上の禁反言は適用されないと判示し、地方裁判所の判断を覆して差し戻しました。
(5)地方裁判所(差し戻し審)の判断
 地方裁判所は差し戻し審において、John Beanによる侵害の申立は衡平法上の中用権によって妨げられるという略式判決を求めるMorrisの申立てを認めました。地方裁判所は、Morrisによる衡平法上の中用権に基づく防御を分析する際に6つの要素を重視しました。そして、John Beanによる再審査請求に先行して、Morrisが長年の研究開発を含む実質的な準備に従事し、その事業のほぼ3分の2を訴えられた冷却装置の販売に転換してきたと地方裁判所は認定しました。
 地方裁判所はまた、侵害で訴えられた冷却装置の製造と販売を行う事業をMorrisが構築するまで、Morrisによる無効の主張についてJohn Beanが争わなかったことにより、John Beanは悪意を持って行動したと認定しました。John BeanはCAFCに控訴しました。

3.CAFCの判断
(1)衡平法上の中用権について
 米国特許法第252条によりますと、裁判所は、本来であれば特許を侵害するであろう製品を、当該特許の再審査の前に、訴えられた侵害者が当該製品を商品化するための実質的な準備をしていた場合、訴えられた侵害者が当該製品の製造および販売を継続することを認める裁量権を有しています。衡平法上の中用権の根底にある政策的根拠は、公衆が元の特許で具体的にクレームされていないものを使用する権利を持っているということです。John Beanの訴訟は、再審査手続中に追加または大幅に変更されたクレームをMorrisが侵害していると訴えただけのものでした。
(2)John Beanの主張
 この控訴審において、John Beanは、地方裁判所が衡平法上の中用権の要件のいくつかを不適切に重視したと主張しました。特に、John Beanは、本来であれば侵害しているであろう冷却装置の販売を通じてMorrisがその実質的な準備の費用をすでに回収しており、したがってMorrisが裁判所に求めた衡平法上の救済を受ける資格がなかったという事実に対し、地方裁判所が十分に重視しなかったと主張しました。
(3)CAFCの結論
 CAFCは、再審査前に行われた投資のMorrisによる金銭的回収がそれらの投資を保護するのに十分であったので衡平法上の救済は否定されるべきであるというJohn Beanの主張を却下しました。CAFCは、この訴訟が、裁判所が米国特許法第252条の「投資の保護(protection of investments)」というフレーズの境界を検討した最初のケースであると述べました。裁判所は、訴えられた侵害者が衡平法上の中用権についての資格を有するかどうかの分析は、訴えられた侵害者がその金銭的投資を完全に回収したかどうかを単に判断することよりも広範なものであると判示しました。衡平法上の権利のバランスを取るとき、投資の回収は、「クレームの変更の前になされた投資または開始された事業の保護という米国特許法第252条の唯一の目的」ではなく、また「より重く考慮されなければならない要素」でもないということにCAFCは留意し、衡平法上の中用権の略式判決を地方裁判所が認めたことを支持しました。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | March 4, 2021
John Bean Technologies Corp. v. Morris & Associates, Inc., Case No. 20-1090, -1148
(Fed. Cir. 2021年2月19日)判決原文
[担当]深見特許事務所 堀井 豊