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「内部証拠が外部証拠に勝る」としたCAFC判決紹介

 CAFCは、クレーム文言および審査経過によって提供された内部証拠が外部証拠に勝るとして、多数の辞書の定義や専門家の証言からなる外部証拠を躊躇無く却下し、特許審判部の決定を支持しました。
Uniloc 2017 LLC v. Apple Inc., Case Nos.20-1403,-1404 (Fed. Cir. 2021年5月12日)

1.事件の概要
 米国連邦巡回控訴裁判所(the US Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は、当事者系レビュー(inter partes review: IPR)において特許審判部が“Voice over Internet Protocol (VoIP)”技術に関する説明における「インターセプト(intercept)」の意味を正しく解釈したかどうかを検討しました。その結果、CAFCは、クレームの文言および審査経過は特許審判部の決定をサポートしていると認定しました。したがって、CAFCは、特許審判部の解釈とそれに続く自明性の認定を支持しました。

2.本件特許発明の内容
 Uniloc 2017 LLC(以下Uniloc)は、発信者番号通知、通話中着信機能、複数回線サービス、および「コーデック仕様(codec specification)」として知られるさまざまなレベルのサービス品質など、さまざまなVoIP機能を使用するためのシステムおよび方法に関する特許(米国特許第8,539,552号)を所有しています。
 この特許は、これらの機能の収益を生み出すために、どの加入者がこれらの追加機能の料金を支払ったかをサービスプロバイダーが管理し続ける必要があると説明しています。この制御を実現するために、このシステムは、通信の発信者と目的とする受信者との間に位置するプロバイダのコアネットワーク内の実行機構を採用しており、発信者はこの実行機構を介して通信のセッションを開始するための「シグナリングメッセージ」を送信します。すなわちこの実行機構によりプロバイダは、発信者と受信者との間のシグナリングメッセージを「インターセプト」し、発信側および受信側のクライアントが承認されているかどうかを判断し、そして承認に基づいてシグナリングメッセージをフィルタリングすることにより、発信者および受信者の双方が特定の機能を使用することを確実に承認されるようにします。
 ほとんどの独立クレームは、1種類のサービスのみに関連する承認を必要としますが、独立クレームの1つであるクレーム18では、少なくとも2種類のサービスに関連する承認を必要としています。

3.事件の経緯
(1)事件の発端
 Apple Inc(以下Apple)はUnilocの本件特許に対してIPRを請求し、この特許のすべてのクレームが、先行技術特許(Kalmanekと呼ばれる米国特許第6,324,297号)により自明であるため無効であると主張しました。Kalmanekは、双方共にサービスプロバイダの直接的な制御の外側にある発信側および着信側の間におけるシグナリングメッセージの交換のためのシステムを開示しており、シグナリングメッセージは、少なくとも1つの「ゲートコントローラ」を介してルーティングされます。ゲートコントローラは、発信者の身元を認証し、求められるサービスを許可することができます。このサービスには、少なくとも発信者番号通知と、拡張されたレベルの通話品質とが含まれます。Kalmanekのプロセスは、発信者がSETUPメッセージをゲートコントローラに送信し、次にこのメッセージが目的の受信者に送信されることで実行されます。受信後、着信側はSETUPACKメッセージをリターンパスに沿ってゲートコントローラに送信し、次に発信者に送信します。
(2)IPRでの争点
 IPRにおいてAppleは、通話に関連するシグナリングメッセージを「インターセプトする(intercepting)」という本件特許のすべての独立クレームに記載された用語は、「シグナリングメッセージが通話端末の間に位置するネットワークエンティティによって受信される」という意味に解釈されるべきであると主張しました。そしてKalmanekのゲートコントローラが受信側へのメッセージ経路のSETUPメッセージを受信するという記載を指摘し、これによりクレーム1は自明であると主張しました。
 Unilocはこれに同意せず、この「インターセプトする」という用語は、シグナリングメッセージの意図された受信者による受信を除外するものとして解釈されるべきであると主張しました。
(3)IPRでの結論
 特許審判部は以下のように決定しました。
 ① クレーム18以外のクレームについて
 特許審判部はAppleの解釈に同意し、その結果としてクレーム18を除くすべてのクレームが無効であると認定しました。すなわち、特許審判部は、「インターセプトする」という用語は、「シグナリングメッセージが通話端末の間に位置するネットワークエンティティによって受信される」という意味に解釈されるべきであると結論付けました。そして特許審判部は、Kalmanekは、ゲートコンロトーラではなくて着信側のデバイスがSETUPメッセージの意図された末端の受信者であると明示的に開示しており、このSETUPメッセージはゲートコントローラによって通過させられるかまたはインターセプトされる、と結論付けました。
 ② クレーム18について
 特許審判部は、Kalmanekがコーデックサービスに関する承認を開示していることを示す立証責任をAppleが果たしていないと結論付けました。クレーム1とクレーム18とは類似するステップを規定してはいますが、クレーム18は、2種類のサービス(たとえば発信者番号通知およびコーデック仕様)に関して実行されるべきステップを必要としております。しかしクレーム18に関するAppleの主張は全体的にクレーム1に関する主張に依拠したものであり、クレーム18に対する適切な議論を提起しておりませんでした。さらに特許審判部は、たとえAppleがそのような議論を適切に提出したと仮定しても、実質審理で敗訴したであろうという見解を示しました。なぜなら、クレーム18は、単一のメッセージに応答して少なくとも2つのサービスを実施するか受信するようにユーザが承認されているかを判断するステップを実行する必要があるのに対し、Appleの主張は、判断ステップを実行するためにKalmanekの2つの個別メッセージに依拠していたからです。
(4)CAFCへの控訴
 UnilocはCAFCに上訴し、「インターセプト」という用語の特許審判部の解釈に異議を申し立てました。一方、Appleも、クレーム18の非自明性に関する特許審判部の認定について交差上訴しました。

4.CAFCの判断
 CAFCは、特許審判部による2つの認定の双方を支持しました。
(1)クレーム18(およびその従属クレーム)を除くすべてのクレームについて
 クレーム解釈の問題に関して、Unilocは、「インターセプト」という言葉の平易で通常の意味の下で、メッセージを「インターセプト」するネットワークエンティティはそのメッセージの意図された受信者にはなり得ないと主張し、様々な辞書の定義を引用しました。たとえば、フットボールにおいて「インターセプト」したプレーヤーはボールの意図されたレシーバーではなく、意図されたレシーバーへの途中でボールを奪う者である、という例示を持ち出しました。Unilocは、特許審判部の不適切な解釈では、シグナリングメッセージをインターセプトするネットワークエンティティが、たとえ下流にさらに意図された受信者がいても、シグナリングメッセージの意図された受信者ということになってしまう、と主張しました。
 しかしながらCAFCは、受信側のクライアントデバイスが最終的な「意図された受信者」であるという理由だけで送信側のクライアントデバイスがインターセプト側に意図的にメッセージを送信できない、ということを意味しないと理由付けました。
 クレームの文言には、送信側のクライアントデバイスが、インターセプトを実行する中間のネットワークエンティティにシグナリングメッセージを意図的に送信し、その後、「意図された受信者」に送信される状況が含まれます。CAFCは、この解釈が本件特許特許の審査経過と一致しており、その審査経過の間に、先行技術の拒絶を克服するために「インターセプト」という限定が追加されたことに注目しました。出願人は審査段階において、「独立クレームには、2人のエンドユーザー間の通話に関連するメッセージをインターセプトするネットワークエンティティが含まれている」ことを明確にしました。CAFCは、特許審判部の解釈を確認した上で、クレーム18(およびその従属クレーム)を除くすべてのクレームは、Kalmanekにより自明であるとして、無効であることに同意しました。
(2)クレーム18およびその従属クレームについて
 クレーム18に関してCAFCは次のように述べました。
「Appleが現実的な無効理論を提起したかどうかという手続き上の問題に到達することは不要です。・・・なぜなら、たとえAppleの請求に不備がなかったとしても、・・・Appleは、クレーム18がKalmanekに鑑み自明であったことを証明したかどうかという争点において、依然として敗訴しているからです。」
 クレーム18は、Appleが認めているように、2つの個別のメッセージが2つの個別のサービス(つまり、発信者番号通知とコーデックサービス)の承認を満たすことを禁止しています。このことを認めているにもかかわらず、Appleの主張は、このクレームの要素を開示するために、KalmanekのSETUPメッセージおよびSETUPACKメッセージの両方を必要としました。したがって、CAFCは、Kalmanek引例に対するクレーム18の非自明性の認定を支持しました。

5.実務上の留意点
 クレーム解釈の立場をサポートするために、Unilocは多数の辞書の定義と専門家の証言を提出しました。しかし、CAFCは、クレーム文言および審査経過によって提供された内部証拠が勝っているとして、Unilocが提出した証拠を躊躇無く却下しました。この却下は、クレーム、明細書、および審査経過で提供される内部証拠を他のすべての外部証拠と比較衡量する際の不均衡を想起させるものとして機能します。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | May 20, 2021
Uniloc 2017 LLC v. Apple Inc., Case Nos.20-1403,-1404 (Fed. Cir. 2021年5月12日)判決原文

[担当]深見特許事務所 堀井 豊