国・地域別IP情報

「審査経過および他の訴訟事件での放棄(disclaimer)がクレーム解釈に影響した事件」に関するCAFC判決紹介

CAFCは、審査経過及び先行する他の侵害訴訟での放棄(disclaimer)の陳述がクレーム解釈に影響すると判断しました。
SpeedTrack, Inc. v. Amazon.com, Inc., Case No. 20-1573(Fed. Cir. June 3, 2021)

1.事件の概要
 米国連邦巡回控訴裁判所(the US Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は、特許権者の関連する別の訴訟における陳述に留意するとともに、権利化手続の過程における出願人による明確で紛れもない放棄(disclaimer)が、権利主張された特許のクレーム解釈に影響を与えたとする地方裁判所の判決を支持しました。

2.本件特許の内容
 本件特許(米国特許第5,544,360号)は、ファイルの整理を支援するために「カテゴリのディスクリプション」を活用するファイリングシステムにおいてファイルにアクセスする方法を対象としております。
 本件特許明細書の説明によると、従来のシステムは「データをファイルにそしてディレクトリに整理する階層的なファイリング構造」を使用しており、このようなシステムでは、ファイル数が膨大になったりカテゴリが明瞭に規定されていなかったりすると取り扱いが非常にやっかいになるという課題があります。この課題を解消するために別の従来技術では、ファイルのワードコンテンツによってユーザがファイルを検索することを可能にするシステムを開示していますが、検索クエリを打ち間違えるといった誤りが生じ得ます。
 本件特許は、2つ以上のフィジカルディレクトリにわたってコンテンツが重なる複数のファイルを含む「ハイブリッド型」フォルダを使用することによって、階層的なコンピュータファイリングシステムによって課せられる制限から解放されたシステムを提供します。本件特許のクレーム1は、コンピュータシステムにおける3-ステップの方法を記載しています。
 ステップ1:
 複数の「カテゴリのディスクリプション」を含む「カテゴリのディスクリプションのテーブル」を生成します。カテゴリのディスクリプションはファイルに関連付けられます。さらにクレーム1では、「カテゴリのディスクリプションは、(当該テーブルの)リストと間に、またはディスクリプション相互の間に、事前に定義された階層関係を有していない」ということが限定されています。この限定は、権利化手続の過程において、「階層的なフィールドおよび値の関係」を活用した先行技術引例を克服するために出願人により追加されたものです。
 ステップ2:
 「ファイル情報ディレクトリ」を生成します。ファイル情報ディレクトリは、データ記憶装置上のファイルに対応する少なくとも1つのエントリを含み、各エントリは、対応するファイルの独自のファイル識別子と、カテゴリのディスクリプションのテーブルから選択されたカテゴリのディスクリプションのセットとを含みます。
 ステップ3:
 「検索フィルタ」を生成します。検索フィルタは、カテゴリのディスクリプションのセットを含み、検索フィルタのディスクリプションの各々に対して、検索フィルタのカテゴリのディスクリプションのセットと一致するカテゴリのディスクリプションのセットを有するファイル情報ディレクトリ内の少なくとも1つのエントリが保証されます。これによりファイルに関連するカテゴリのディスクリプションを用いてファイルを検索することが可能になります。

3.事件の経緯
(1)事件の発端
 本件特許(米国特許第5,544,360号)の譲受人であるSpeedTrackは、2009年9月に、本件特許を侵害していると主張して、Amazon.comなどのさまざまな小売ウェブサイトの運営者に対してカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に訴訟を提起しました。
(2)地方裁判所の判断
 地方裁判所は最初に、「権利化手続の過程においてなされた放棄を考慮した」として、「階層的」の限定について解釈し、「フィールドおよび値の関係」への言及を全く欠いているSpeedTrackの提案したクレーム解釈案を採用しました。このような解釈は、先行してSpeedTrackが、Wal-Martに提起した別の侵害訴訟における解釈と同様のものであります。
 SpeedTrackによる申立に従って、地方裁判所は、クレームの用語の範囲について依然として根本的な論争があると結論付けました。地方裁判所は、本件特許の審査経過をさらに分析した後、審査経過が「階層的なフィールドおよび値のシステムに基づくカテゴリのディスクリプションの明確かつ一義的な否認を示している」と結論付け、そして「カテゴリのディスクリプション」の範囲から「事前に定義された階層的なフィールドおよび値の関係」を明示的に放棄する2番目のクレーム解釈命令を発しました。
 被告の製品やサービスは、地方裁判所の修正されたクレーム解釈で用いられた「フィールドおよび値の関係」を用いており、地方裁判所は非侵害の最終判決を下しました。
 SpeedTrackは、CAFCに上訴しました。

4.CAFCの判断
 上訴において、CAFCは、審査経過における放棄は、クレーム補正および議論の両方から生じる可能性があることを強調しました。ここで、審査経過は、本件特許の出願人が単刀直入に、先行技術と特許クレームとの相違点として「事前に定義された階層的なフィールドおよび値の関係を繰り返し強調した」ことを示しておりました。本件特許の出願人が他の理由で先行技術を区別したことは、その放棄の陳述の意味を失わせるものではありませんでした。
 CAFCはまた、SpeedTrackが別の被告(Wal-Mart)に対する訴訟で、補正の目的は「フィールドとそれらの値との間に『階層的な』関係を持つ」属性からカテゴリのディスクリプションを区別することである、と主張したことにも注目しました。CAFCは、その陳述が発明者による審査段階の陳述ではなかったことから、そのような別の訴訟における陳述はそれ自体は放棄ではないという点でSpeedTrackに同意しました。しかしながら、このような別の訴訟での陳述は、SpeedTrackの主張を受け入れないことをさらにサポートすることになりました。CAFCはSpeedTrackに対し、「審査段階の放棄の原則は、『クレームが許可を得るためにはある方向で解釈され、被疑侵害者に対しては異なる方法で解釈されるといった事態』が起こらないことを確実にするものである」ということが、Aylus事件(Aylus Networks, Inc. v. Apple Inc. 856 F.3d 1353, 1360 (Fed. Cir. 2017))およびSouthwall事件(Southwall Techs., Inc. v. Cardinal IG Co., 54 F.3d 1570, 1576 (Fed. Cir. 1995))において警告されていることを想起させました。
 CAFCは、SpeedTrackの以前の陳述を評価した後、放棄が明確で紛れもないものであるかどうかを検討し、そうであると結論付けました。CAFCは、放棄を明示的に見出していない以前の判決が、審査段階の陳述が明確でも一義的でもないことを支持したというSpeedTrackの主張を却下しましたが、CAFCはその際にこれらの判決ではその解釈が十分に考慮されていなかったことに注目しました。同様に、CAFCは、地方裁判所が2番目のクレーム解釈命令を発行したことは明確で紛れもない放棄がなかったことを示したものであるという考えを却下しました。なぜなら最初の命令は放棄を考慮したものであり、2番目の命令はその効果を明確にしたものであり、両方の命令は放棄を認めたものであったためです。

5.実務上の注意点
 特許権者(特に権利化には関与しておらず、権利化後に特許の譲渡を受けた権利者)は、出願人によって権利化手続中に米国特許商標庁に対して行われた過去の陳述に絶えず注意を払う必要があり、訴訟担当の原告代理人弁護士はそれらの主張に留意する必要があります。この種の過去の陳述は、審査経過における明らかな放棄(disclaimer)のレベルまでは達しないかもしれませんが、それでも将来の主張を弱める可能性があることに留意すべきです。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | June 10, 2021
SpeedTrack, Inc. v. Amazon.com, Inc., Case No. 20-1573(Fed. Cir. June3, 2021)判決原文

[担当]深見特許事務所 堀井 豊