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第三者によるアンティーク時計のリメイク販売において商標権侵害が否定された事例(Hamilton Int’l Ltd. v. Vortic, LLC)

 合衆国第2巡回区控訴裁判所は、第三者によるアンティーク時計のリメイク販売に関してその商標を使用しても需要者に混同を生じさせないという地裁の判決を支持し、商標権侵害を否定しました(Hamilton Int’l Ltd. v. Vortic, LLC, Case No.20-3369 [2d Cir. Sept. 14. 2021])。
(1)事実関係
 被告であるVortic社は、アンティークの懐中時計を修理し、腕時計に改造することを専門とする時計メーカーです。原告であるHamilton社は、Vortic社による「The Lancaster」という時計の販売に対し、商標権侵害訴訟を提起しました。「The Lancaster」とは、Hamilton社発祥の地であるペンシルバニア州ランカスターにちなんだ名称です。この腕時計は、元々Hamilton社が製造していた「Railroad-Era」と呼ばれるムーブメント(時計の内部機構)を用いて作られました。「Hamilton」の商標は、アンティーク調の文字盤と内部機構のシースルーバックにて視認できました。Vortic社の商標、「The Lancaster」の文字及びシリアルナンバーは、時計の背面にあるリングに記されていました。
(2)裁判所の判断
 連邦地裁は、Vortic社による表示はいわゆる打消表示を伴っており、さらに実際の混同や悪意(”bad faith”)を示す証拠はなく、これらのアンティーク時計の需要者は洗練された購買者(”sophisticated purchasers”)であると判断し、侵害を否定しました。これに対し、Hamilton社は控訴しました。
 控訴審において、第2巡回区控訴裁判所は、Vortic社販売の腕時計について、Hamilton社オリジナルのムーブメントに加えられた唯一の修正はレバーの交換であり、「The Lancaster」が「全く新しい製品ではなく、腕時計に修正されたアンティークの懐中時計」であることは消費者にとって明らかであったと指摘しました。また、Vortic社はその広告資料の中で「The Lancaster」の時計にはHamilton社と提携していない再生部品が含まれていることを十分に開示していたとも判断されています。
 結論としては、地裁が判断基準としたいわゆる”ポラロイドファクター”の解釈にも誤りはなかったとして、控訴審でも商標権侵害が否定されました。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | September 23, 2021 
[担当]深見特許事務所 原 智典