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内部証拠と矛盾する外部証拠に依拠したクレーム解釈は誤りとしたCAFCの判決紹介

CAFCは、外部証拠に依拠できる場合を確認し、内部証拠と矛盾する外部証拠に依拠したクレーム解釈は誤りであると判断しました。
Seabed Geosolutions (US) Inc. v. Magseis FF LLC, Case No. 20-1237 (Fed. Cir. Aug. 11, 2021) (Moore, C.J.)

1.事件の概要
 米国連邦巡回控訴裁判所(the US Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は、特許審判部(the Patent Trial & Appeal Board: PTAB)が、内部証拠と整合しない外部証拠に依拠したことによってその最終的なクレーム解釈を誤ったという認定に基づいて、PTABの審決を破棄しました。

2.本件発明の内容
 Magseis FF LLCは、「地震探査で使用するための地震計」に関する再発行特許(RE45,268)を有しています。
 地震探査は一般的に、地中に音響信号を送信し、「ジオフォン(geophone)」と呼ばれる地震受信機を用いて地下構造からの地震性反射波を検出するものです。

 明細書の実施形態の説明によりますと、本発明による地震データ収集システムすなわちポッド10は、内部コンパートメント16を規定する壁14を有するケース12で構成されています。この内部コンポーネント16内には少なくとも1つのジオフォン18が配置されています。
 本発明の地震データ収集システムは、地震信号を記録するための外部通信や外部制御を必要としない「自己完結型(self-contained)」のシステムであり、このためジオフォンは、地震データ収集システム(ポッド)内部において内的に装着され(internally mounted within pod)、外部配線や接続を不要にしています。小型のケースを使用し、ケースの壁に近接してジオフォンを配置することによって、ジオフォンは地面に効果的に結合され、ポッドを介してジオフォンに伝達される地震データが干渉によって影響を受けないようにすることができます。
 この特許のどのクレームにも、地震計の「ハウジング」または「内部コンパートメント」のいずれかの内部に「内的に固定された(internally fixed)ジオフォン」が記載されていました。

3.事件の経緯
(1)2018年4月にSeabed Geosolutionsは、Magseisが所有する本件再発行特許(RE45,268)の当事者系レビュー(inter partes review: IPR)を申請しました。
(2)Magseisは、専門家による証言(testimony of its expert)に依拠して、地震計の「ハウジング」または「内部コンパートメント」のいずれかの内部に「内的に固定された(internally fixed)ジオフォン」という限定を「ジンバルで支持されないジオフォン(non-gimbaled geophone)」と解釈することを主張しました。PTABはこの専門家証言に全面的に依拠して、「固定された(fixed)」という用語は、本発明がなされた時点では「ジンバルで支持されない(non-gimbaled)」という特別な意味を持っているものと当業者には理解されていたと認定しました。
(3)PTABはこの認定に基づいて、引用された先行技術が「ジンバルで支持されないジオフォン」を開示していなかったことから、無効を申し立てたクレームが特許性を有していないことをSeabedが証明できなかった、と判断しました(審決番号IPR2018-00960)。
(4)Seabedはこの審決を不服としてCAFCに上訴しました。

4.CAFCの判断
(1)外部証拠に依拠する原則
 CAFCは、「固定された」という用語のPTABによるクレーム解釈を覆しました。なぜなら、PTABは外部証拠に依拠しましたが、この外部証拠は内部証拠と矛盾しておりかつ内部証拠の明確さを考えると検討する必要もないものだったからです。一般的に、内部証拠はクレームの文言や審査経過によって提供されるものであり、外部証拠は辞書の定義や専門家の証言によって提出されるものですが、CAFCは、以前のCAFC判決を引用して、内部証拠と一致する場合にのみクレームを解釈するために外部証拠に頼ること、およびクレームの用語の意味が内部証拠から明らかである場合、外部証拠に頼る理由がないことを改めてPTABに指摘しました。
(2)判決の具体的な理由
 ① CAFCは、「固定された」という用語は、PTABが認定した特別な意味(ジンバルで支持されない)ではなく、その通常の意味(すなわち、取り付けられた(attached)または締め付けれらた(fastened))を持っていたと判断しました。CAFCは、この「固定された」という用語は「ジオフォンの種類ではなく、ジオフォンのハウジングとの関係を特定している」と認定しました。そもそも明細書はジオフォンがジンバルで支持されるものか支持されないものかについて何も述べていませんでした。このように明細書が何も述べていないことは、ジンバルで支持されるジオフォンを除外するようにクレームを読むことをサポートしていません。なぜなら、明細書は、ジオフォンとは別の本発明の他の局面、すなわち「クロック20をその性能のためにより最適な配向で維持するように回転する機械的にジンバルで支持されるプラットフォーム21」を説明するときに「機械的にジンバルで支持される(mechanically gimbaled)」という用語を使用していたためです。もしも出願人がクレームされたジオフォンを「ジンバルで支持されない(non-gimbaled)」ものに限定することを意図していたとしたのなら、クレームにおいて「ジンバルで支持されないジオフォン」という用語を使用していたでしょう。
 ② さらに、明細書は、地震計の他の構成要素からジオフォンを分離する当時の従来の方法の問題を克服するための重要な特徴として、ジオフォンの内部取り付け(internal mounting)について説明しています。明細書は、ジオフォンを内部取り付けすることにより、本発明は「自己完結型」であると繰り返し述べています。審査経過はまた、出願人と審査官の双方が、この用語がその平易で通常の意味を持ち、「内部に内的に固定されている(internally fixed within)」という表現を「内部に配置され、電気的に接続されている(disposed, and electrically connected, within)」と同等であると理解していたことを明らかにしました。その同等性は、この「固定された」という用語が、PTABによって意図されたようにジオフォンのタイプを限定するものではなく、ジオフォンの地震計との関係を説明することを意図したものであったことを示しています。
(3)結論
 このようにCAFCは、内部記録が明確であることを認定するとともに、PTABが外部証拠、ましてや明細書自体と矛盾するような外部証拠に依拠することは不適切であると認定し、その新しい解釈に基づくさらなる手続きのために本件を差し戻しました。

[情報元]
① McDermott Will & Emery IP Update | August 19, 2021 “If Intrinsic Evidence Provides a Clear Meaning, Just Stop”
② Seabed Geosolutions (US) Inc. v. Magseis FF LLC, Case No. 20-1237 (Fed. Cir. Aug. 11, 2021) (Moore, C.J.)判決原文
③ PTABの審決(IPR2018-00960)原文

[担当]深見特許事務所 堀井 豊