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一審の判決理由すべてに対処しなかった控訴は無意味として却下されたCAFC判決紹介

CAFCは控訴審において、第一審の地裁での非侵害の略式判決の理由のすべてに控訴人が対応したわけではなかったので控訴について判断することは無意味であると認定しました。
Acceleration Bay LLC v. 2K Sports, Inc., Rockstar Games, Inc., Take-Two Interactive Software, Inc., Case 2020-1700 (Fed. Cir. Oct. 4, 2021)

1.事件の概要
 米国連邦巡回控訴裁判所(the US Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は控訴審において、コンピュータゲーム技術で使用される通信技術に関連する4つの特許の様々なクレーム用語を一審の地方裁判所が正しく解釈したかどうかを判断するに際し、地裁の非侵害の略式判決理由のすべてに控訴人が対応したわけではなかったため、クレーム用語に関して判断を下すことは無意味(いわゆるムート(moot))であると認定して実質判断を行いませんでした。これによりCAFCは、地裁による非侵害との略式判決を肯定しました。
 さらにCAFCは、ソフトウェアを作成する被告は、既存のネットワークにインストールするハードウェアを製造しておらずクレームされたシステムの「最終組立者」には当たらないとし、直接侵害の主張を却下しました。

2.本件特許の内容
 Acceleration Bay社は、コンピュータゲームに関連する通信技術を一般的に対象とする4件の特許、すなわち米国特許第6,701,344号(344特許)、第6,714,966号(966特許)、第6,910,069号(069特許)、第6,920,497号(497特許)の所有者です。これらの特許は同日(2000731日)に出願されており、ほぼ同一の明細書を共有しています。
 これらの特許は、広範囲に分散している多数のプロセッサ間での情報の同時共有に適したものであり、既存の通信技術を改良するネットワーク技術を開示しています。
 特に、344特許および966特許の特定のクレームは、発信元のコンピュータがポイントツーポイント(point-to-point)接続を使用してブロードキャストチャネル上で隣接するコンピュータにメッセージを送信すること、および、隣接するコンピュータが次にそれらの隣接する接続先にのみメッセージを送信すること、を教示しています。コンピュータがネットワーク上のすべてのコンピュータではなく隣接するコンピュータにのみメッセージを送信することにより、各コンピューターが維持する必要のある接続の数および送信するメッセージの数が減少し、システムの効率が向上します。
 344特許および966特許の対象クレームは、前者がゲームシステムに関するものであるのに対して後者が情報伝達システムである点を除いてほぼ同じであり、ともに「ここでネットワークは“m-regular”であり、mは各参加者の隣接する参加者の正確な数である(where m is the exact number of neighbor participants of each participant)」という限定を含んでいます。
 069特許の特定のクレームは、ネットワークに参加者を追加する方法に関し、ネットワーク上で「ポータルコンピュータ」と呼ばれるものとコンタクトすることによってコンピュータがネットワークに参加することを求めるものであり、隣接するコンピュータのあるものに接続要求を送信します。
 497特許の特定のクレームは、ポータルコンピュータのコールインポート(call-in port)を特定することに関し(コールインポートは外部ポートおよび内部ポートとの接続を確立するために使用されるポート)、コールインポートとして利用可能なポートを見つけるときにポータルコンピュータが使用すべきポート番号順序を特定するポート順番付けアルゴリズムを使用することを規定しています。

3.事件の経緯
(1)事件の発端
 Acceleration Bay社は、3つのビデオゲーム“Grand Theft Auto V”、“NBA 2K15”、および“NBA 2K16”のソフトウェアを設計したTake-Two Interactive Software社およびその関連会社である2K Sports社およびRockstar Games社(以下、まとめてTake-Two社と称する)が、上記の4件の特許を直接侵害したと主張してデラウェア州連邦地方裁判所に特許侵害訴訟を起こしました(No. 1:16-cv-00455-RGA)。
(2)地裁によるクレーム解釈
 地裁の手続きの一環として、4件の特許のクレームに記載されている複数の用語が解釈されました。特に、地裁は、344特許および966特許のクレームにおける“m-regular”という用語に着目しました。地裁はこの“m-regular”という用語を「各コンピュータが正確にm人の隣接者(参加者またはコンピュータ)に接続されている場合に、それを維持するようにネットワークが構成されている状態(a state that the network is configured to maintain, where each computer is connected to exactly m neighbor [participants or computers])」を意味する、と解釈しました。すなわち、この解釈によればネットワークにおいて各参加者がm人の隣接者に常時接続されることを要求するものではなく、各ネットワークはm人の隣接者に接続されるように構成または設計されていればよいことを意味します。
 さらに、地裁は、この“m-regular”の定義を、「完全に接続されたポータルコンピュータ(fully connected portal computer)」や「各参加者が3人以上の他の参加者に接続されている(each participant being connected to three or more other participants)」を含むその他の解釈されたクレーム用語に有効に組み込みました。
(3)地裁の略式判決とCAFCへの控訴
 クレーム解釈の後、地裁は以下の2つの理由で、主張されたすべての特許についてTake-Two社を支持し、非侵害の略式判決を下しました。
 ①“m-regular”の限定について
 地裁は、Acceleration Bay社がその理論をサポートするソースコードを特定しなかったという事実を含め、被疑侵害品において“m-regular”の限定が満たされなかった複数の理由を特定しました。
 ②「最終組立者」の主張について
 Acceleration Bay社は、Centrak, Inc. v. Sonitor Techs.,Inc.事件(915 F.3d 1360 (Fed. Cir. 2019))に基づき、Take-Two社はその顧客のためにソフトウェアをインストールしているのでTake-Two社は実際には「最終組立者」であったと主張しました。しかしながら地裁は、Take-Two社がコンピューターネットワークやブロードキャストチャンネルを作成する会社ではなく、ソフトウェアを作成する会社であり、したがってその顧客は、システムを構築するためにはこれらの構成部品を導入する必要があることに注目しました。このように、Take-Two社だけでなく複数の企業が侵害を主張されているシステムに関与しているため、直接侵害の主張は不適切であるとして、地裁はAcceleration Bay社の主張を却下しました。
 Acceleration Bay社はCAFCに控訴しました。

4.CAFCの判断
(1)344特許および966特許
 控訴された4件の特許のうちこれら2件に関してTake-Two社は、Acceleration Bay社は地裁が非侵害の略式判決を認めた2つの理由のうちの1つにしか対処していないため、Acceleration Bay社の控訴について判断することは無意味(いわゆるムート)である、と主張しました。
 提示された争点がもはや有効ではないとき、すなわち当事者が結果に関して法的に認識できる利益を欠くときには、事件について判断することは無意味となります。特に控訴人に対して何らかの有効な救済を認めることが不可能な場合には、控訴は無意味であるとして却下すべきである、ということはよく確立されています。
 具体的には、前述のように一審で地裁は、(1)被疑侵害品が“m-regular”の限定を満たしていないこと、および(2Acceleration Bay社の「最終組立者」理論の主張が法律の問題として認められなかったことから、これら2件の特許に関して非侵害の略式判決を下しました。CAFCでの控訴審では、Acceleration Bay社は後者の「最終組立者」理論のみを取り上げました。そのため、CAFCは、この争点に関してのみ判断しても地裁の略式判決に影響を及ぼさず、これら2つの特許の控訴について判断することは無意味である、と認定しました。
(2)069特許
 CAFCは、控訴審で提示された069特許を取り巻く争点が同様の不備を含んでいることを発見しました。069特許のクレームは“m-regular”の定義を直接記載してはおりませんでしたが、前述のように地裁は、“m-regular”の定義を、「完全に接続されたポータルコンピュータ」や「各参加者が3人以上の他の参加者に接続されている」を含むクレーム用語に有効に組み込みました。しかしながらこの069特許に関してAcceleration Bay社は、「完全に接続されたポータルコンピュータ」という用語の地裁の解釈について“m-regular”の限定を含めることは誤りであると異議を唱えただけでした。「各参加者が3人以上の他の参加者に接続されている」という用語の解釈についても“m-regular”の機能性を含むものと地裁は解釈しましたが、Acceleration Bay社がこれに異議を唱えなかったため、Take-Two社は、この争点に関する地裁の判決について判断することは無意味である、と主張しました。CAFCは、069特許に関する地裁の判決に同意し支持しました。
(3)497特許
 497特許に関してAcceleration Bay社は、Centrak事件に基づいて直接侵害の「最終組立者」理論を展開し、地裁の非侵害の略式判決は誤っていると主張しました。特に、訴えられたビデオゲームをプレイするために顧客が使用するハードウェアをたとえTake-Two社が「製造」していないとしてもTake-Two社は「訴えられたシステム」の「最終組立者」としての資格を有しているので、Take-Two社はクレームされたシステムを「製造」することによって直接侵害を構成している、と主張しました。より詳細には、497特許のクレームに記載されたミーンズ要素を満足する態様で、顧客のコンソールにおけるプロセッサを動作させるようにTake-Two社のソフトウェアはプロセッサを制御する、とAcceleration Bay社は指摘しました。
 CAFCは、Acceleration Bay社がCentrak事件を誤解したと結論付けて、「最終組立者」の主張を却下しました。Centrak事件では、「被告は既存のネットワークコンポーネントの一部を製造しなかったとしても、被告が既存のネットワークにその自身のハードウェアを(接続することによって)インストールしたときにそれによってクレームされたシステムを完成させており、被告はクレームを直接侵害したことになる」と判断されました。一方、Take-Two社は、既存のシステムにインストールされるハードウェアを作成してはおりません。
 CAFCは、Acceleration Bay社が、「訴えられたソフトウェアが第三者が製造したハードウェア上で動作されているので、被告はクレームされたハードウェア要素を製造しているとして責任を問われる」という目新しい理屈を、判例法の裏付けもなく提示したと批判しました。CAFCは、本件は、「Take-Two社ではなく顧客がハードウェアコンポーネントを提供し、クライアントソフトウェアをインストールすることによってシステムを完成させる」という、Centillion Data Sys.,LLC v. Qwest Commc’ns Int’l, Inc.事件(631 F.3d 1279, 1288(Fed. Cir. 2011))とより密接に関連していると認定しました。したがって、CAFCは、497特許に関する地裁の非侵害の略式判決を支持しました。

[情報元]
① McDermott Will & Emery IP Update | October 14, 2021 “Failing to Address All Reasons for Noninfringement Renders Appeal Moot”
② Acceleration Bay LLC v. 2K Sports, Inc., Rockstar Games, Inc., Take-Two Interactive Software, Inc., Case 2020-1700 (Fed. Cir. Oct. 4, 2021)CAFC判決原文
③ Acceleration Bay LLC v. 2K Sports, Inc., Rockstar Games, Inc., Take-Two Interactive Software, Inc., Case No. 16-455-RGA (US District Court for the District of Delaware. March 23, 2020) デラウェア州連邦地裁判決原文

[担当]深見特許事務所 堀井 豊