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米国特許法第101条に規定する特許適格性に関する新たなCAFC判決の紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、端末でデータ等の処理(transaction)を実行するユーザーの身元を認証する方法に向けられた特許クレームは、米国特許法第101条の下で特許適格性を有すると認定し、地方裁判所の判決を取り消しました
 (CosmoKey Solutions GmbH&Co. KG. v. DuoSecurity LLC, Case No.20-2043(CAFC Oct.4, 2021)。
 米国特許法第101条の特許適格性に関するCAFC判決については、弊所HPにおいて2021年11月2日に配信した、「コンテンツベースの識別子特許の特許適格性に関する米国CAFC判決」の記事において、すでに3件のCAFC判決を紹介しておりますが、それらはいずれも特許適格性を否定した判決です。それに対して本件CAFC判決は、特許適格性を認める判断をしている点で、注目すべきものと言えます。

1.事件の経緯
(1)地方裁判所への提訴
 CosmoKey社は地方裁判所に、Duo社を特許侵害で訴え、それに対してDuo社は、訴訟対象の米国特許のすべてのクレームは、米国特許法第101条の下で特許不適格であると主張しました。
(2)地方裁判所の判断
 地方裁判所は、アリスの2テップに基づいて特許クレームを分析しました。ステップ1で、地方裁判所はDuo社に同意し、特許クレームは認証の抽象的なアイデア、つまりデータ等の処理(transaction)へのアクセスを許可するためのIDの検証に向けられていると判断しました。本件対象の米国特許(US9,246,903)のクレーム1の日本語試訳と、同特許の図1を、この記事の後に添付しています。
 なお、アリスの2ステップは、2021年11月2日に配信した上述の記事において、「Mayo/Aliceの2パートテスト」として言及したものと同じであり、この2パートテストは、米国特許法101条に規定する特許適格性を、次の2つのステップにより判断するものです。
 ステップ1:特許クレームが、判例法上の例外としての「自然法則」、「自然現象」、「抽象的アイデア」のいずれかを対象とするかどうかを判断。
 ステップ2:これらのいずれかを対象とする場合、特許適格性を有しない主題を、特許適格性を有する応用(patent eligible application)に変換するのに十分な発明概念が、付加的要素としてクレームに含まれるかどうかを判断。
 CAFCの判例に依拠して、アリスのステップ1の下で、地方裁判所は、「認証」は抽象的な概念であると判断しました。ステップ2に移り、地方裁判所は、特許自体が明細書において、「認証機能の働き(activity)の検出と、事前に決定された時間関係内での認証機能のユーザーによる有効化(activation)は、認証技術の分野で以前から知られている、よく理解された日常的な従来公知の働きであった。」と認めていると結論付けて、特許が一般的なコンピュータ機能を述べているだけであると判断し、当該特許クレームに係る発明は特許不適格であるとの判決を下しました。
(3)CAFCへの上訴
 地方裁判所がDuo社の申立てを認める判決を出した後、CosmoKey社はCAFCに上訴しました。

2.CAFCの判断
 CAFCは、第3巡回区控訴裁判所の判決を適用して、地方裁判所の判決を覆すとともに、「発明概念」の分析と「アリスの2ステップ」の適用について、より詳細に論じました。CAFCは、以前はIDの認証に向けられた本件特許クレームが抽象的であると認定していましたが、そのアプローチから外れて、特許クレームが、米国特許法第101条に基づいて適格な技術を改善する特定の検証方法に向けられていることを認めました。
 CAFCは、アリスのステップ1の下での、「特許クレームは認証の抽象的なアイデアである」との地方裁判所の認定については、その当否について疑問を呈しましたが、特許クレームがアリスのステップ2を満たしているため、ステップ1による認定の当否を決定する必要はないと判断しました。ステップ2の下で、CAFCは、技術的進歩と称されるものに焦点を当て、本発明が「セキュリティを強化し、第三者による不正アクセスを防止し、容易に実装され、それほど複雑でないモバイルデバイスで有利に実行できる認証の特定の改善を提供する」と認定しました。
 CAFCは、明細書の特定のセクションについての地方裁判所の解釈に誤りがあると述べました。具体的には、CAFCは、本件特許の明細書の当該セクションが、特許クレームに係る発明についてではなく、日常的または従来型である先行技術のステップを説明しているものと解釈しました。さらにCAFCは、特許のクレーム1の最後の4つのステップが、従来型ではないステップを使用して、この分野の技術的課題を解決していることを指摘しました。

3.レイナ判事の反対意見
 CAFCのジミー・V・レイナ判事はこの決定には同意しましたが、アリスのステップ1に基づくクレームの分析をCAFCが却下したことについて、CAFCのアプローチは「尋常ではなく、最高裁判所の判例に反する」として、反対意見を述べました。レイナ判事は、ステップ2はステップ1から独立して機能するものではなく、クレームの記載がステップ1で、判例法上の例外としての「自然法則」、「自然現象」、「抽象的アイデア」のいずれかを対象とすると判断された場合にのみ適用されるステップであることを指摘しました。
 これに関連して、レイナ判事は、ステップ1の分析を省略すれば、ステップ2において、特許適格性を有しない主題を、特許適格性を有する応用に変換するのに十分な発明概念が、付加的要素としてクレームに含まれるかどうかを判断する際に、「特許適格性を有しない主題」の特定がされていないこととなり、ステップ2における合理的な判断が行なえないことを強調しました。

[情報元]
 1.IP UPDATE “Authentication Claim Under Alice-A Two-Step Process” (By Jodi Benassi on Oct. 14, 2021)
 2. “CosmoKey Solutions GmbH&Co. KG. v. DuoSecurity LLC”, Case No.20-2043″ CAFC判決原文
 3.本件訴訟対象の米国特許公報(US9,246,903)

[担当]深見特許事務所 野田 久登

 ※以下に、本件判決対象の米国特許のクレーム1の日本語試訳と、同特許の図1を添付しています。 

[本件CAFC判決対象米国特許のクレーム1日本語試訳]
(参照番号は、下に示す図1との対比のために付記)

1.端末(10)での処理(trtansaction)に対してユーザーを認証する(authenticating)方法であって、以下のステップを備える、方法。
 第1の通信チャネル(14)を介して端末(10)からトランズアクションパートナー(12)にユーザー識別情報を送信し、
 認証デバイス(18)が、ユーザーのモバイルデバイス(16)に実装されている認証機能をチェックするために第2の通信チャネル(20)をを使用する認証ステップを提供し、
 処理(を行なうこと)への認証を許可するか拒否するかを決定するための基準として、認証デバイス(18)に、ユーザー識別情報の送信と第2の通信チャネル(20)からの応答との間に所定の時間関係(a predetermined time relation)が存在するかどうかをチェックさせ、
 認証機能が通常は無効であり(normally inactive)、処理の前のみにユーザーによって有効にされる(activated)ことを確実にし、
 第2の通信チャネル(20)からの前記応答が、認証機能が有効である(active)という情報を確実に含み、
 その後、認証機能が自動的に無効になっている(deactivated)ことを確実にする。

         [米国特許第9,246,903の図1]