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拡大先願の発明との同一性を否定した、大法院判決

 大法院は、本件特許発明は新たな効果を有するので、拡大された先願の地位を有する先出願の先行発明と同一ではないと判断し、これと異なる趣旨の原審を破棄しました(大法院2021.09.16言渡し、2017HU2369)

1.韓国における発明の同一性を判断する基準
 日本の特許法第29条の2に対応する拡大先願については、韓国特許法第29条第3項に規定されています。この規定における発明の同一性を判断する基準として、以下の2011年4月言渡しの大法院判決が挙げられます。
『旧特許法(2006年3月3日の改正前のもの)第29条第3項における発明の同一性は、発明の進歩性とは区別されるものであり、二つの発明の技術的構成が同一か否かによるが、発明の効果も参酌して判断しなければならない。二つの発明の技術的構成に差があっても、その差が課題解決のための具体的手段で周知慣用技術の付加、削除、変更等に過ぎず、新たな効果が発生しない程度の微細な差があるのみであれば、二つの発明は、互いに実質的に同一であるといえる。しかし、二つの発明の技術的構成の差が上記のような程度から外れるならば、たとえその差が、その発明が属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「通常の技術者」という)が容易に導き出すことのできる範囲であっても、二つの発明は同一であるといえない(大法院2011.04.28.言渡し、2010HU2179判決等)。』

2.本件判決の内容
 本事件特許発明は、外部の給気部と連設された内部の給気配管が建築物の床面に設置される暖房配管の廃熱を熱交換で回収及び利用できるように、暖房配管の下面に配置されていることを特徴としています。
(1)先行発明の概要
 これに対して、先出願発明である先行発明1の明細書には、空気配管が室内の床と壁体を介して埋設される内容、及び冬季に外部の冷たい空気がエアヒータを通じてまず予熱され、それに続いて暖房ホースの暖房熱がコンクリートを介して空気配管に伝達されるので、十分に加熱された空気が室内に供給されるという内容が記載されており、その図面には空気配管が暖房ホースのある室内の床に埋設されている構成が示されています。
(2)大法院の判断
 大法院は、2011年の上記大法院判決の判旨を適用し、以下の理由により、本事件特許発明は、先行発明1と同一ではないと判断し、これと異なる趣旨の原審を破棄しました。
『給気配管と暖房配管を共に建築物の床に埋設する際、暖房配管の廃熱を活用するように給気配管を暖房配管の下面に配置する構成が、本件特許発明の出願当時の技術常識であったり、周知慣用技術に該当すると見るだけの資料がない。また、本件特許発明は、給気配管を暖房配管の下面に配置することにより、暖房配管の下部に放出されて、そのままでは失われる熱を給気配管を通じて室内に供給される空気を暖めるために活用することができ、その分熱損失を低減することができるという、新たな効果を有する。よって本件特許発明は、先行発明1と同一ではない。』

 3.日本における拡大先願に関する「発明の同一性」の判断基準との対比
 日本の特許法第29条の2に規定する「拡大先願」における、本願発明と引用発明とが同一であると判断される場合として、特許・実用新案審査基準の第III部第3章「3.2 本願の請求項に係る発明と引用発明とが同一か否かの判断」において、次の2つの場合が挙げられています。
『(i) 本願の請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がない場合。
 (ii) 本願の請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がある場合であっても、両者が実質同一である場合。ここでの実質同一とは、本願の請求項に係る発明と引用発明との間の相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合をいう。』
 したがって、相違点に新たな効果を奏すると認められる場合には、当該相違点がたとえ微差であっても、同一性がないとされる点において、韓国の判断基準と基本的に共通していると言えます。

[情報元]
1.HA & HA 特許&技術レポート(2021-11)「大法院2021.09.16.宣告2017HU2369[登録無効(特許)]」
2.知財判例データベース(ジェトロ)「拡大された先願に関する発明の同一性判断では新しい作用効果を発生させていれば両発明は同一ではないとした事例」(大法院2011.04.28.言渡し)
3.日本特許実用新案審査基準第III部第3章「拡大先願」より、「3.2 本願の請求項に係る発明と引用発明とが同一か否かの判断」

[担当]深見特許事務所 野田 久登