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第2次審決の審理の違法性を否定した、審決取消訴訟判決

 特定の先行発明が、第1次審決を取消す判決確定後に提出された「新たな証拠」に該当するとは言えないとして、特許法院は、訂正請求の機会を与えなかった第2次審決の審理の違法性を否定しました。(特許法院2021.07.08言渡し、2020HEO7296判決)

1.事件の経緯
 本件は、登録無効審判の第1次審決を取消す審決取消訴訟の判決が確定した後に出された特許審判院による第2次審決についての審決取消訴訟(以下「本件訴訟」)であり、特許権者Aを原告、特許無効審判請求人であるBを被告として提起されたものです。Bが特許審判院に特許発明に対して登録無効審判を請求してから、第2次審決についての本件訴訟の判決に至る経緯は、以下のとおりです。
(1)Bは2017年6月29日、特許審判院に特許権者Aの特許発明に対して登録無効審判を請求。
(2)そこでAは、2017年12月19日に特許発明の訂正請求をした後、2018年1月5日に訂正請求書を補正。
(3)特許審判院は、2019年4月22日に、訂正明細書の補正は適法であると認め、「訂正発明は、比較対象発明としての複数の先行発明によって進歩性が否定されない」との理由により、無効審判請求を棄却する審決(第1次審決)を行なう。
(4)Bは、2019年5月16日に特許法院に第1次審決に対する審決取消訴訟を提起し、訴訟過程で「先行発明1」を新たに提出。
(5)特許法院は、2020年7月3日に「上記先行発明1とその他の先行発明との組合せにより、訂正発明の進歩性が否定されるので、登録が無効となるべき」との理由で、第1次審決を取り消す内容の判決を言渡し、2020年7月22日に同判決が確定。
(6)特許審判院は、同判決の確定を受けて、特許発明の進歩性否定の可否について再度審理。特許権者である原告Aは、この審判の手続において、特許無効審判請求人である被告Bが前の訴訟過程において既に提出していた上記「先行発明1」を改めて証拠として提出し、特許発明に関して訂正請求の機会を求める趣旨の意見書を提出。しかしながら特許審判院はこの要求を認めずに被告の審判請求を受け入れて特許発明を無効にするという内容の審決(第2次審決)を行なう。
(7)この第2次審決に対してAは、特許審判院が審理過程において訂正請求の機会を与えなかった点に違法性があるとして、特許法院に審決取消訴訟(本件訴訟)を提起。
(8)特許法院により、2021年7月8日に本件訴訟の判決(第2審決維持)言い渡し。

2.本件特許法院判決の概要
 韓国特許法第133条の2第1項後段(2017年改正法)において、「審判長が第147条第1項に従い指定された期間後にも請求人が証拠を提出したり、新しい無効事由を主張することにより訂正請求を許容する必要があると認める場合には、期間を定めて訂正請求をさせることができる。」と規定されています。上記「先行発明1」が、新しい無効事由を主張するために、第二次審決のための審理期間中に新たに提出された証拠であれば、この規定に基づいて審判長が特許権者Aに訂正請求の機会を与えることができたと言えます。
 しかしながら特許法院は、以下の理由により、第2次審決を維持しました。
『先行発明1は、前の(すなわち第1次審決に対する)審決取消訴訟で既に提出された証拠なので、審決を取消す判決が確定した後の審理過程で提出された「新たな証拠」に該当すると見ることはできず、また、特許権者Aとしては、前の審決取消訴訟が係属している間、訂正審判を請求することができた(下記項目「3.(2)」をご参照下さい)ので、原告に先行発明1に関して特許発明を訂正する機会が実質的に与えられたと見ることができる。
 したがって、特許審判院が原告に特許発明に関して訂正請求の機会を与えなかったとしても、かかる事情のみで原告に証拠の提出による訂正請求の機会を剥奪した違法があるとはいえないことから、本事件審決に審理不十分及び判断遺脱の違法があるという原告(特許権者A)の主張は、受け入れることができない。』

3.本件判決に関連する、日韓の制度上の相違について
 (1)日韓の審決取消訴訟における新たな証拠の取り扱いの相違
 審決取消訴訟の審理範囲について、日本では、昭和51年3月10日に最高裁大法廷により言渡された「メリヤス編機」判決に基づき、「審決取消訴訟で審理できるのは審判で審理された事項に限る」とする、いわゆる制限説を採っており、特許無効審判審決に関する審決取消訴訟においては、原則として、特許庁が審判、審決おいて対比した公知文献のみが審理の対象となります。その後の判決を見ても、出願時の当業者の技術水準を知るための公知文献や、既に審判で判断された技術事項の意義を明らかにする文献等を新証拠として提出することが例外的に認められる程度です。
 それに対して韓国では、審決取消訴訟において、新たな証拠の提出を当該訴訟の終結までほぼ無制限に行なうことができます。一連の審判とその審決取消訴訟において、特許を無効にするすべての証拠を出し尽くす機会を与えることにより、何度も審判請求が繰り返されることが防止され、訴訟経済に資することに加えて、新たな証拠の後出しによる審理の遅延や長期化が実際に生じていないというのが、その理由です。
 (2)訂正審判の時期的制限の相違
 日本では、特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間は、訂正審判を請求することができません(特許法第126条第2項)が、韓国特許法第136条第2項第2号には、「特許無効審判または訂正の無効審判が特許審判院に係属中である期間は、訂正審判を請求することができない」と規定されており、審決取消訴訟が提起されて当該訴訟が係属中の場合のように、審決が確定していない間は、訂正審判を請求することができます。

[情報元]
1.HA & HA 特許&技術レポート(2021-10)「特許法院2021.07.08.宣告2020HEO7296 [登録無効(特許)]」
2.「日中韓における特許無効審判についての制度及び統計分析に関する調査研究」報告書(平成28年11月 AIPPI・JAPAN)

[担当]深見特許事務所 野田 久登