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進歩性判断時に構成要素間の有機的結合関係と先行発明の否定的教示を考慮した韓国大法院判決の紹介

 韓国大法院は、本件特許発明のセラミック溶接支持具の吸収率と比例関係にある先行発明の気孔率が20%未満であることが望ましくないとの否定的教示を考慮して、本件特許発明のセラミック溶接支持具に関する進歩性を認めました(事件番号:大法院2021年12月10日宣告2018フ11728)。

1.事件の経緯
(1)「セラミック溶接支持具」に関する特許に対する特許無効審判において、特許審判院は、特許を無効とする審決を下しました。
(2)上級審である特許法院も特許審判院の審決を維持しました。
(3)しかしながら、最終審である韓国大法院は、下級審とは異なり特許発明の進歩性を否定し難いという理由で原審判決を破棄して差し戻しました。

2.特許法院の判断に対する韓国大法院の判断
 本件特許発明は、SiO2、Al23、MgO及びCaOを主成分とするセラミック溶接支持具に関するもので、耐火度をSK8~12、焼成密度を2.0~2.4g/cm3、吸収率を3%未満に限定している。
 これに対し、先行発明は、本件特許発明と同一の主成分を有する溶接支持具を公開しつつ、耐火度がSK11~15、気孔率が20%~40%であることを開示している。すなわち、本件特許発明と先行発明とは耐火度の範囲に差異があり、先行発明には焼成密度と吸収率について何ら記載がない。
 ただし、先行発明には気孔率が20%未満になることは望ましくないことが記載されており、低い気孔率に対する否定的教示が含まれている。ところで、気孔率は吸収率と比例関係にあることが知られているため、通常の技術者が先行発明の記載から気孔率を20%未満に低下させ、結果的に気孔率と比例関係にある吸収率を3%未満に低下させることに想到することは容易ではない。
 さらに、当業者が先行発明から本件特許発明のような低い吸収率を採択することは、先行発明の耐火度と気孔率との有機的結合関係を害するだけでなく、それによる効果を予測できるだけの資料も先行発明にはない。
 したがって、本件特許発明の進歩性を先行発明にもとづき否定することはできない。

3.コメント
 特許発明の進歩性判断において、構成要素間の有機的結合関係と先行発明の否定的教示等を慎重に考慮し、事後的に判断しないように注意すべきであるという趣旨の判決である。

[情報元]
 Lee International IP & LAW Group Newsletter Spring 2022「大法院、進歩性判断時に構成要素間の有機的結合関係と先行発明の否定的教示を考慮する」

[担当]深見特許事務所 赤木 信行