国・地域別IP情報

重複範囲に基づく自明性の推定を適用した新たなCAFC判決の紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(以下、「CAFC」という)は、重複範囲の理論の自明性の推定を適用して、複数の先行技術文献に基づく局所製剤に関連する治療クレームの方法が自明であると認定しました。 Almirall、LLC v. Amneal Pharmaceuticals LLC&Amneal Pharmaceuticals of New York, LLC, Case No. 020-2331(Fed. Cir. Mar. 14、2022)(Lourie, Chen, Cunningham, JJ.)

1.背景
 Almirallの特許(米国特許第9,517,219号、以下、「’219特許」という)は、特定の濃度または濃度範囲のダプソンとアクリロイルジメチルタウレート(A/SAとして知られる増粘剤の一種)を含む製剤で、にきびまたは酒皶を治療する方法に関しています。’219特許のクレームには、「局所組成物がアダパレンを含まない」という否定的なクレームの限定も含まれています。

 ’219特許のクレーム1は、以下のとおりです。
1. A method for treating a dermatological condition selected from the group consisting of acne vulgaris and rosacea comprising administering to a subject having the dermatological condition selected from the group consisting of acne vulgaris and rosacea a
topical pharmaceutical composition comprising:
          about 7.5% w/w dapsone;
          about 30% w/w to about 40% w/w diethylene glycol monoethyl ether;
          about 2% w/w to about 6% w/w of a polymeric viscosity builder comprising acrylamide/sodium acryloyldimethyl taurate copolymer;
          and
          water;
  wherein the topical pharmaceutical composition does not comprise adapalene.

 Amnealは、’219特許のクレーム1〜8の当事者系レビュー(以下、「IPR」という)を請求しました。Amnealは、’219特許のクレーム1〜8は、WO 2009/061298(「Garrett」)およびWO 2010/072958(「Nadau-Fourcade」)から自明であると主張しました。Amnealは、また、’219特許のクレーム1〜8は、Garrettおよび「アクリルアミド/アクリロイルジメチルタウレート共重合体ナトリウム系エマルジョンゲルの特性評価と安定性」というタイトルの出版物(「Bonacucina」)から自明であると主張しました。

 USPTOの審判部(以下、「PTAB」という。)は、IPRの最終決定において、3つの先行技術文献に基づいてAlmirallの特許クレームは自明であると認定しました。1つ目の先行技術文献(Garrett)は、異なるタイプの増粘剤(Carbopol®)を含むダプソン製剤を開示していました。Garrettはアダパレンを含む製剤を開示していませんでした。2つ目の先行技術文献(Nadau-Fourcade)は、Carbopol®とA/SAの両方の薬剤を含む例示的なタイプの増粘剤を含む製剤を開示していました。 最後の先行技術文献(Bonacucina)は、局所投与に使用できるアクリロイルジメチルタウリン酸ナトリウムを含む分散液を開示していました。 3つの先行技術文献はすべてAlmirallの特許クレームの範囲内の増粘剤を含む製剤を開示していました。

 具体的には、Garrettは、皮膚科学的状態を治療する方法について記載しており、アダパレンを含む製剤を開示しておらず、Carbopol®を好ましい増粘剤として特定しており、Carbopol®の好ましい組成重量パーセントの範囲が約0.5%~約2%であることを開示しています。
 Nadau-Fourcadeは、にきびや酒皶などの症状に皮膚科で使用するための水に敏感な医薬有効成分が溶解した形の局所医薬組成物について記載しています。Nadau-Fourcadeは、カルボマー(Carbopol®製品など)およびA/SA剤(Sepineo®またはSimulgel®製品など)を含む、さまざまな濃度の増粘剤の例を示しており、0.01%~5%の組成重量パーセントの範囲を開示しています。
 Bonacucinaは、イソヘキサデカン中のアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリン酸ナトリウムコポリマーの濃縮分散液であるSepineo®P600に関する研究を紹介しており、0.5%~5%濃度Sepineo®P600の含有量を開示しています(表Iは、0.5%、1%、3%、および5%(w/w)Sepineo®の例を示しています)。
 Almirallは、PTABの最終決定を不服としてCAFCに上訴しました。Almirallは、先行技術文献に見られる重複する範囲に基づくPTABの自明性の推定に誤りがあると主張しました。Almirallは、自明性の推定は単一の先行技術文献がクレームのすべての範囲を開示している場合にのみ適用されるが、PTABは自明性の推定のために異なる先行技術文献(Garrett、Nadau-FourcadeおよびBonacucina)に依拠していると主張しました。

以下に、’219特許のクレーム1と先行技術文献の増粘剤の種類と含有量を対比した表を示す。

 

増粘剤の種類

含有量

’219特許のクレーム1

A/SA

約2%~約6%

Garrett

A/SAではない

約0.5%~約2%

Nadau-Fourcade

A/SA

0.01%~5%

Bonacucina

A/SA

0.5%~5%

 

2.CAFCの判断
 CAFCは、2つの異なるタイプの増粘剤の互換性を示す証拠として、2018年のE.I. du Pont de Nemours&Co.v.Synvina判決の「我々の重複範囲の事件のポイントは、クレームの範囲について特別なまたは臨界的な何かがあることを示す証拠がない場合には、重複は、クレームの範囲が先行技術文献に開示されていることを示すのに十分であり、したがって先行技術文献を考慮すると自明である。」を引用して、PTABの判断に誤りはないと判断しました。また、CAFCは、増粘剤の代替可能性に異議を唱える証拠がないため、先行技術文献の組み合わせは単に公知の増粘剤を他の増粘剤に置換することを含んでいると判断しました。
 CAFCは、また、AlmirallのPTABがクレームの「アダパレンを含まない」の限定について説明していないという主張を認めませんでした。Almirallは、Garrettの製剤にはアダパレンが含まれていなかったものの、クレームの限定の否定的な開示の要件を満たすために先行技術文献にはさらに多くのことが開示されていることが必要であると主張しましたが、CAFCは、2019年のAC Techs. v. Amazon.com判決の「[A]先行技術文献は、否定的な限定を開示するために特徴の欠如を述べる必要はない。」を引用して、Almirallの主張は先例に反すると認定しました。Garrettがアダパレンを欠くダプソン製剤を開示したことには議論の余地がなかったので、CAFCはそれで十分であると判断しました。
 CAFCは、また、2007年のKSR v. Teleflex最高裁判決の「ある要素をその分野で知られている別の要素に単に置き換えることによって変更される、先行技術ですでに知られている構造を特許がクレームする場合、その組み合わせは、予測可能な結果をもたらす以上のことをしなければならない。」を引用し、成功の合理的な期待は絶対的な予測可能性を必要としないことを繰り返し主張して、当業者がある増粘剤を他の増粘剤に置換することについて成功の合理的な期待を有することを先行技術文献が示唆していないとするAlmirallの主張を受け入れませんでした。
  
3.コメント
 本判決では、’219特許クレームの増粘剤と主引例であるGarrettとは、増粘剤の種類が相違するとともに増粘剤の含有量が約2%の点で重複している関係にありましたが、’219特許クレームと同一種類の増粘剤が重複する範囲で含まれている副引例Nadau-FourcadeまたはBonacucinaと主引例Garrettとの組み合わせから’219特許クレームが自明であるとするPTABの判断をCAFCは支持しました。
 米国特許出願手続において、USPTOからは本判決と同様のケースの局指令が発行されることがありますが、この場合には、先行技術文献と重複しないようにクレームの数値範囲を外す補正は勿論ですが、先行技術文献にクレームに記載の成分が含まれる場合に悪影響が出る等の記載があることを検討することも、特許を取得する上で有効である可能性があります。

[情報元]
①McDermott Will & Emery IP Update | March 25, 2022 “Apply That Formulation: Presumption of Obviousness Based on Overlapping Ranges”
②Almirall, LLC v. Amneal Pharmaceuticals LLC&Amneal Pharmaceuticals of New York, LLC, Case No. 020-2331(Fed. Cir. Mar. 14、2022)(Lourie, Chen, Cunningham, JJ.)CAFC判決原文

[担当]深見特許事務所 赤木 信行